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青田刈り剣士

登場人物


リナ・オースティン…剣聖ベルトランの娘、女性の身でありながら若干十四歳で龍眼上陰流の免許皆伝を習得した天才剣士、〈理想の男性は兄〉と言い切る程のブラコンだが男性に求める条件は低く〈男は一つでもいいところがあればいい〉というモノ、背は低いがアイドル張りの可愛い顔をしており小柄な体には似つかわしくないグラマラスなボディをしている、サバサバしている性格であまり物事を深く考えない、滅多に怒らないが剣を持つと人が変わる。


ソフィア・ベルクマン…深淵の魔女ミラの最後の内弟子、天才的な頭脳を持ちずば抜けた魔法の才能を持っている、長い黒髪に整った顔立ち、スレンダーなボディとモデルばりの容姿をしていて〈息が止まる程美しい〉と評される美少女だが、感情の起伏が激しく激怒したり激しく落ち込んだりすることも多い、相棒のリナと違い家事はまるでダメで特に料理は壊滅的、思い込みが激しく惚れっぽい性格で妄想癖もあるという、いわゆる残念美少女。


グッドリッジ・ケンバートン…世界を救った三英雄の一人で神の知恵袋と呼ばれた僧侶、第一線を退いてからは冒険者組織アグムを立ち上げ大勢の冒険者の統括をしている、三英雄の仲間だったベルトランとミラからそれぞれリナとソフィアを預かり、二人を組ませたが常に問題を起こすのでいつも頭を抱えている。


長常清史郎…聖風龍抜刀術の次期頭首で若干十二歳の天才剣士。

先日の一件から数日後、リナとソフィアの二人は


アグム所長であるグッドリッジに再び呼び出されていた。


「リナ・オースティンとソフィア・ベルクマン入りまっす」


「今回はどの様な用件でしたか?」


二人は恐る恐るドアを開けそっとグッドリッジの顔を覗き込んだ。


「おう来たか二人とも・・・ん?何だその警戒した顔は?


 今日はお前らを説教するために呼んだのではないぞ」


その言葉にほっと胸を撫で下ろす二人、何せここの所、やる事なす事怒られてばかりで


〈また説教だろうか?〉と警戒していたからだ。


「せっきょ・・・いえ、お叱りでないとすれば私たちに


 どの様な用件でしょうか?」


「もしかして私たちにご指名の依頼とか!?」


するとグッドリッジは軽くため息をつき静かに口を開いた。


「お前らに指名の依頼なんかくる訳ないだろ、今回お前らを呼んだのは


 他でもない、〈少年少女社会適合プログラム〉というモノを


 知っているか?」


二人は顔を見合わせ少し考える。


「ああ、そういえばそんなのありましたね、御大層な名目を付けてはいますが


 要は子供達の〈社会見学〉みたいなモノでしょ?」


「そんなのあったわね、色々な国や機関が〈子供達に自分達の


 仕事を見せて将来の進路について考えさせる〉とかいう目的で


 作られた計画が・・・でも結局は色々な所が早くから優秀な子供に


 唾をつけておきたいという醜いエゴの象徴みたいな制度よね


 とどのつまりが【青田刈り】でしょ、子供に将来の夢を持たせるどころか


 大人の醜い社会を見せつける結果になってしまったという


 手痛いしっぺ返しみたいな制度よね、一体誰が考えたのかしら


 こんなゲスな計画を?」


その瞬間、グッドリッジの眉がピクリと動き


無理矢理の作り笑顔を浮かべながら震える声で語り始めた。


「その制度を作ったのは私だが何か?」


その瞬間、二人の顔が青ざめた。


「す、素晴らしい制度だと思いますわ所長」


「そうです、その通りです、さすが所長【神の知恵袋】といわれたお人だけはありますわ」


すると二人にギロリと睨む様な視線を向けるグッドリッジ


おのプレッシャーに耐えかねたのかリナが慌てて口を開いた。


「ちなみに私は〈御大層な名目〉と言っただけで内容を酷評したのは


 ソフィアですから、はい」


「アンタはまた私だけに罪をかぶせようとして・・・違いますよ所長


 私はただ世の中の風評と言いますかいわゆるアンチテーゼを


 定評しただけでありまして、批判をするつもりなど更々・・・」


グッドリッジは目を閉じ大きくため息をついて再び口を開く。


「もういい、今更取り繕わなくても・・・私は本当に純粋な気持ちで


 子供達の将来を見越してこの制度を国に提案したのだ


 だが実際にはお前らの言う通り、優秀な子供達への【青田刈り】に


 つながってしまっていることも事実だ、しかもそれが原因で


 中々我が【アグム】に優秀な人材が入ってこないという


 由々しき事態にまでなっている、だから私は考えを改めた」


堅い決意の表情でスッと立ち上がるグッドリッジ。


「どうするつもりなのですか?」


「我々【アグム】も子供達へのアピールに力を入れるのだ


 いかに我々が優秀で社会の為に貢献しているかを子供達に


 よりわかってもらう努力をする」


その言葉を聞いた二人は思わず顔をしかめた。


「それって、つまりは【青田刈り】に参戦するってことですよね?


 純粋な気持ちはどこへ行きました?」


「醜い大人の争いに加わるとか・・・子供達の夢はどうなったのですか?」


するとグッドリッジは二人を睨みつける様な目で反論した。


「うるさい、それほどまでに今の【アグム】は人材不足なのだ


 社会的な信用、市民の安全、そして僅かばかりの報酬が我が【アグム】のモットーだ


 しかしそれには人材が必要だ、特に優秀な人材がな‼︎」


今度は二人が呆れた様な表情を浮かべた。


「いくら言い方を変えても浅ましさというか、ゲスさは隠せませんよ、所長」


「嫌だ嫌だ、信用だのお金だのって、そんな醜い世界に私たちを


 巻き込まないで欲しいですわ、所長」


その瞬間、グッドリッジの怒りが爆発した。


「バカもんが‼︎我が【アグム】の信用を落とし続け、損害賠償ばかり


 増やしているお前らが言うな‼︎」


怒鳴られた途端、ピンと背筋を伸ばし直立する二人、ハアハアと息を切らせて


興奮気味のグッドリッジは何とか気持ちを落ちつけようとしていた。


「所長の理念とご心痛は痛い程理解しました」


「それで私達に用件とはなんでしょうか?」


グッドリッジは大きく息を吐き、何とか心を沈めて語り始めた。


「明日、その〈少年少女社会育成プログラム〉で我が【アグム】に


 子供達がやって来る、お前らにはそれの手伝いをして欲しいんだ」


再び顔を見合わせる二人。


「私達二人でですか?」


「でも私達は子供に優しく教えるとか親切に案内とかあまり


 得意じゃないですよ、少年では無くて青年というなら考えますが・・・」


グッドリッジは優しい表情に戻すと諭す様な口調で答えた。


「いや、二人は別々で手伝って欲しいんだ、リナは剣士部門を


 ソフィアは魔法士部門をそれぞれな、特にリナには期待している」


「どういうことですか?」


リナが不思議そうに問いかけた。


「今回、来訪する子供達は全部で四十人だが、その中に


 飛び切り優秀な剣士が一人いる、若干十二歳だが〈天才剣士〉と


 呼び声高い子だそうだ、だからその子は将来どうしても我が【アグム】に迎えたい


 わかるな?」


ゴッドリッジの目がキラリと光る、しかしそれとは対照的に


リナとソフィアは怪訝な表情を見せた。


「うわあ・・・」


「所長・・・」


グッドリッジはそれをあえて無視する様に視線を逸らしわざとらしく窓の外を見た。


「別に悪いことをしているのではない、皆がやっている事だ


 それ程までに我が【アグム】は切羽詰まっているという事だ


 頼んだぞ二人とも、特にリナ」


珍しく期待を寄せる様な言葉だったがどうにも釈然としない二人。


「はあ・・・」


「かしこまりです・・・」


グッドリッジの部屋を出てすぐにボヤキ気味に話し始めた二人。


「何だかなあ〜って感じよね」


「〈皆がやっているから〉って悪ガキとか小悪党の常套句じゃない


 ガツガツしちゃってさ、でも有望な剣士ってそんなに貴重なの?」


「まあね、この前も行ったと思うけど優秀な剣士ってのは名誉とか


 戦う理由みたいなモノを重んじるからどうしても国や王に仕える


 騎士団だとか親衛隊みたいなところに入りたがるのよ


 【アグム】だとどうしても〈雇われ用心棒〉みたいなイメージがあるからね」


「でもワザワザ私達を部屋に呼び出してまでリナに頼むくらいなら


 例の【アグム】が誇る唯一のS級剣士様に頼めばいいじゃないの?


 他にもゴールドクラスのA級剣士だっているだろうし、どうしてリナなの?」


「例のS級剣士様は休みも中々取れないくらいに忙しく


 飛び回っているらしいわ、何でも二ヶ月先まで予約で埋まっているみたい


 現に【アグム】の利益の4分の1は彼が稼いでいるって噂よ」


「そうなんだ、じゃあ所長が目の色を変えて将来有望な剣士に


 唾をつけておきたいって気持ちもわかるわね


 しかし同じ剣士でもどこかの年中お暇の人とはえらい違いよね〜」


「はあ?私のことを言っているの!?言っておくけど私が暇ってことは


 アンタも暇ってことだからね!?」


「わかっているわよ、でもこんな有能で可愛い剣士と魔法士が


 暇を持て余しているって、世の中間違っているわね」


「まあそうボヤかない、一応仕事扱いみたいだからお給金出るだろうし


 それ程大変な仕事でもないでしょ、パッパと片付けておいしいモノでも食べにいこうか」


「それもいいけど、来週に【魔導士ベルドウッド作】の秘蔵の


 魔道具が売り出されるのよ、いくらお給金出るのかしら?」


「アンタも懲りないわね、そもそもアンタ私にお金借りてなかったっけ?


 返す気全く無いでしょ!?」


「返す気はあるわよ・・・でも気がつくと不思議と


 お金が財布からなくなっているんだもん」


「不思議でも何でもないわよ、そうやって無駄遣いばかりするから


 年中金欠なんでしょ?いい加減学習しなさい」


「何よリナ、母親みたいな説教して・・・」


「私が母親ならアンタには1エンも渡さないわ」


「じゃあリナママがその魔道具を私に買ってくれるの?」


「んなわけないでしょ!?変な所でポジティブねアンタは」


そんなことを話しながら二人は自室へと帰って行った。



翌日例の〈少年少女社会適合プラグラム〉により四十人の子供達が【アグム】にやって来た


どの子供達も目を輝かせ期待に胸膨らませながらきている様に見えた。


「私達が今回君達に色々案内させてもらう金特級の剣士スティーヴと


 魔法士サンドラだ、よろしく‼︎」


ゴールドクラスの剣士と魔法士二人が代表として子供達に挨拶した


リナとソフィアはそれぞれサポート役なので特に話すこともなく

黙って付き従っているだけである。


「さあ皆さん、〈魔法士見学希望〉の人は私の所に集まってください


 〈剣士〉希望の人はスティーヴの所に集まってくださいね」


A級魔法士サンドラが優しく子供達に呼びかけた、するとそれに従い


子供達はゾロゾロと二つのグループに分かれ始めた。


予想通り大半の男の子は剣士、多くの女の子は魔法士と別れていく


グループがキッチリ二つに分かれた所でそれぞれ別の方向へと


進んでいく。


「じゃあねソフィア、ヘタ打つんじゃないわよ!?」


「うるっさいわね、今日はアンタの方が重要なのでしょ


 しっかりやんなさいよ!?」


二人はそんなことを言い合いながらそれぞれ別の方角へと別れて行った


剣士部門はリーダーであるスティーヴとリナを含めた補佐役二人、合計三人の構成になっている。


だがリナ自身もその内容を全く把握していないため子供達と同じく


〈何をやるのだろう?〉という気持ちで見ていた、最初は


スティーヴが【アグム】の仕事内容について熱心に説明を始めるが


杓子定規の様な説明内容であった為、子供達はやや退屈そうに聞いている。


続いて【アグム】の剣士同士での剣舞や形稽古を披露して見せた


もちろんリナは参加していないのだが、スティーヴともう1人の剣士が


激しく剣を交えスリリングな戦いを展開した、しかしそれは


あくまで見せるための剣術なので見た目は派手でオーバーアクション気味である


そんな二人の剣士のやりとりをリナはやや冷めた目で見ていた。


『何よこれ、見せ方重視のアクションショーじゃない


 これが所長の指示なのか恒例の事なのかは知らないけど


 とんだ茶番ね、まあ子供は喜びそうだけど・・・」


リナの予想通り子供達も拳を握りしめ興奮気味に二人のやりとりを見つめていた


リナは思わずため息をついたが、そんな子供達の中でリナと同じ様に


冷めた目で見ている子供がいた。


『もしかしてこの子が・・・』


そうしている内に子供達には好評のまま剣術ショーは終わりを告げ


リーダーのスティーヴが額にうっすらと汗をにじませながら爽やかに語り始めた。


「さて次の項目が午前最後のモノになる、これが終わったら


 昼食をとって午後から実戦を見てもらう、この【アグム】の


 建物の裏は森へと繋がっていてそこには凶悪なモンスターや


 魔族も生息している、普段は強力な結界によってモンスターや魔族は


 入って来られない様になっているのだが今日だけは


 君達の為に結界を解除してある、とは言ってもそれ程


 強くないモンスターや魔族のいる所にしかいく予定はないから


 安心してくれ、だがくれぐれも言っておくが東の森にだけは


 絶対に入ってはダメだ、あそこには本当に強力な魔族が


 いるからね、僕たちの普段の実戦を間近で見てもらうのが


 午後のプログラムだ」


子供達は嬉しそうに顔を見合わせ何かを話している、魔族やモンスターとの


実戦を間近で見られる事など滅多にない、皆キラキラと目を輝かせ


興奮とワクワクが止まらないと言った感じだ。


「さて午前最後のプログラムだが、〈子供チャレンジ〉というモノだ


 腕に自信のある子はぜひ挑んできてくれ、俺たちが相手してあげるよ


 もちろん怪我なんかさせない、手加減はするから全力できてくれていいよ」


その瞬間、リナは全てを理解した。


『これか!?』


子供とはいえすでに剣術を習っている者は多く腕に自信のある子や


怖いもの知らずな子も少なくない、しかし


普段ならいくら腕に覚えがある子供といえど


実戦慣れし百戦錬磨である【アグム】の剣士にかかれば文字通り


〈子供扱い〉にできるのだが今回は話が違うのだ。


そしてその予感は見事的中する、先程リナと同じ様に冷めた目で見ていた


一人の子供がすっと手をあげた。


「私が挑戦させていただいてもいいでしょうか?」


それを見てリナは思わず呟く。


「やっぱり・・・」


その子は背の高さは130cmくらい、黒髪でオカッパのような髪型をしている


見た目細身だが子供のわりに引き締まった体をしていた


挑戦されたスティーヴはゴクリと息を飲む、おそらく彼も


グッドリッジから事情を聞いていたのだろう、やや緊張した面持ちで


剣をスラリと引き抜いた。


「いいよ、君の挑戦を受けよう、で君の名前は?」


「私は長常清史郎と申します、いざ」


二人はおもむろに向き合うと戦う為の構えを見せた。


スティーヴが受ける構えで中段に構える、それに対し清史郎は


腰の剣に手をかけながら重心を低くし居合い斬りの体制へと変化した。


『あれは聖風流抜刀術の構え、しかもかなり出来る‼︎』


リナの目つきが鋭く変わった、対峙しているスティーヴもそれは感じているようだった


先ほどまでの和やかな雰囲気はどこかへ吹き飛び重苦しい緊張感だけが


辺りを支配し始めた、皆が息を殺し二人の一挙手一投足を見逃すまいと


目を凝らし息を殺して見守っていた、背の高いスティーヴが真っ直ぐ構え


背の低い清史郎が低く構える、その姿はまさに見たままの


大人と子供だったが、空気的には清史郎が圧倒しているようにさえ見えた


風が木々を揺らす音だけが周りを支配し1秒が1時間にも感じられる程の緊張感が漂う


そんな中、清史郎が動く。


「聖風流抜刀術 〈疾風しっぷう〉」


次の瞬間、清史郎の剣はいつの間にかスティーヴの首元に突きつけられていたのだ


それはまるで瞬間移動したかのような錯覚さえ覚える恐るべき神速


あまりの速さにスティーヴは文字通り一歩の動けなかったのである。


「ま、参った・・・」


スティーヴはあっさりと負けを認めその場にへたり込む


周りに子供達はどっと湧き清史郎を取り囲んで褒め称えた。


「凄いよ清史郎君、やっぱり君は天才だ‼︎」


「【アグム】のA級剣士をあっという間に倒すなんて、どれだけ強いんだよ‼︎」


「相手は大人でしかもゴールドだぜ、信じられないよ‼︎」


異様なまでに盛り上がる子供達、それも無理からぬことではあった


何せ若干十二歳の子供が百戦錬磨のA級剣士を倒すなど考えられない快挙だからだ


逆に言えば【アグム】のメンツは丸潰れである、そして清史郎は


もう一人の剣士の方にチラリと視線を移した、それは


〈あなたもやりますか?〉と言う無言のメッセージである


だがその視線の持つ意味に気づいたのだろう、その剣士は


露骨に視線を逸らしたのだ、今の清史郎の技を見て


とても敵わない悟ったのであろう、戦うまでもなく敗北を認めた。


『なるほどね、このままじゃあ【アグム】のメンツ丸潰れだから


 私の出番というわけですか、確かにあの子はこのまま成長したら


 とんでもない剣士になりそうね・・・所長の欲しがる逸材だけあるわ


 さあ、という訳でここはリナお姉さんが少年の伸び切った鼻っ柱を


 へし折ってあげましょうかね!?・・・ん?』


その時リナは清史郎の表情の変化に気がついた、本来これほどの


快挙を成し遂げれば仲間に向かって勝ち誇り、驕り高ぶるのが普通である


それが子供であれば尚更で、現に清史郎以外の周りの子供達は


【アグム】ことを馬鹿にした発言をしている、だが当の清史郎だけは


浮かない顔を浮かべながら落胆していたのだ、不思議に思った


リナはそこで清史郎と戦うことはせず一旦様子を見ることにした。


「昼食は【アグム】の食堂にて用意していますから


 皆さんお好きな物を好きなだけ食べてください


 午後のプログラムは1時間後です、では解散」


スティーヴは昼食の連絡事項を子供達に告げると逃げるようにその場を去った


普段の【アグム】の食堂は栄養バランス重視の食事メニューとなっているのだが


今日ばかりは子供の好きなハンバーグやスパゲティ、唐揚げなどのメニューが


中心であり、それを好きなだけ選んで食べることができるという


子供に寄り添った、言い換えれば子供に媚びたかのようなメニュー構成にしてあった


それがグッドリッジの指示によるモノなのは言うまでもない。


それを知った子供達は〈お昼は何を食べる?〉などと話しながら嬉しそうに


ゾロゾロと食堂へと移動を開始する、そんな中で一人だけ


動かない子供がいた、清史郎である。


「あれ、清史郎君、お昼ご飯食べに行かないの?」


「ああ、あまりお腹空いていないんだ、僕のことはいいから


 みんな先に行っていてくれよ」


その言葉を受け、皆は特に気にすることもなく清史郎を残して


食堂へと移動していった、そして皆がいなくなると清史郎は反対の方向へと


歩き始める、不思議に思ったリナが後を付ける。


『あの子どこに行くつもり?』


清史郎は森に入ってすぐの小川のそばで立ち止まり膝を抱えて座り込んだ


その表情は暗く沈んでおり、見事大人のA級剣士を倒した人物とは思えない


思い詰めた表情だったのである、それが気になったリナは


座り込んでいた清史郎の後ろから声をかけた。


「ねえ、君はお昼ご飯食べないの?」


突然声をかけられ驚いた表情で振り向いた清史郎、リナの顔を見た途端


やや頬を赤らめ言葉を発することができなかったのだが


気を取り直したかのように口を開いた。


「うん、あまりお腹が空いてなくて・・・」


「そうなんだ、でも君のさっきの技凄かったね、強いじゃない


 【アグム】のゴールド剣士を一蹴とか中々できないわよ


 なのに何でそんなに暗い顔しているの?」


リナの問いかけに少し戸惑う清史郎だったがリナの姿をじっと見つめ


しばらく考えた後に話し始める。


「お姉ちゃんも【アグム】の剣士なんだ・・・」


「まあね、だからさっきの戦いも見てたのよ」


「そう、でもお姉ちゃん弱そうだね、白等級だし」


「悪かったわねホワイトで、何なら今からこの弱そうなお姉さんが


 貴方の相手してあげましょうか!?」


やや挑発気味に言い放ったリナだったが清史郎から返ってきた言葉は意外なモノであった。


「いいよ、俺も弱いし・・・でも女の人が剣を握るのはやめた方がいいよ」


「何それ?君若い癖に随分と時代錯誤な考え方みたいね


 今時女剣士なんて珍しくもないでしょ、そりゃあ男に比べて


 数は少ないだろうけどさ」


「数とか時代とか関係ないよ、女の人が戦って死ぬとか・・・


 嫌なんだよ、魔法士とかは否定しないけどさ、でもやっぱり


 戦って死ぬのは男だけで十分だと思うんだ・・・」


その言葉と心痛な表情を浮かべている清史郎を見て何かあったのだと悟るリナ。


「ねえ、え~っと清史郎君だっけか、過去に何かあったの?」


すると清史郎事は少し沈黙した後、静かに語り始めた。


「俺の母さんも聖風流抜刀術の剣士だった、一応【目録】まで習得した


 剣士だったんだ、でも五年前、俺が森で迷子になった時ある魔族と遭遇した


 俺は恐怖でただただ震えていた、そんな時、俺を探しに駆けつけてくれた


 母さんが魔族の相手をして俺を逃してくれたんだ、俺は急いで


 父さん達を呼びに行った、でも父さん達が駆けつけた時には


 母さんは死んでいた・・・しかも母さんの体は原型を止めていない程


 バラバラに切り刻まれていたんだ」


そのあまりに凄惨な話の内容に絶句するリナ、清史郎は話を続けた。


「俺の父さんは聖風流十五代目当主で俺は十六代目になる予定


 何だけど、今の時代、聖風流抜刀術は時代遅れだ・・・」


「そう?さっき聖風流抜刀術の技見たけど凄かったじゃない


 ゴールドを一蹴したのに弱いはないでしょ!?」


すると清史郎はリナの言葉を否定するかのように首を振った。


 「魔族やモンスター相手に役に立たない剣術なんて意味ないよ


 現実問題として人間にしか通用しない剣法なんて弱いのと同じじゃないか


 ダメなんだよ聖風流抜刀術では・・・」


『そうか、聖風流抜刀術はその神速をもって相手に何もさせずに


 倒す事を極めた、いわば究極のスピード流派、それはつまり


 対人戦闘に特化した剣術と言って良い、だけどそれは裏を返せば


 人間にしか通用しない剣という事、小型モンスターやC級クラスの


 魔族ならともかく、大型魔獣や準A級以上の魔族相手だと


 威力不足で役に立たないという訳か・・・』


「その相手の魔族ってどんな奴だったの?」


「背が2mくらいで妙に長い手を持っていた、全身が銀色の体毛に


 包まれていてその体毛が物凄く硬いんだ、頭に羊みたいなツノが生えていたよ」


『A級魔族【バッドシープ】か、確かにあの魔族が相手だと


 聖風流抜刀術では勝てないわね』


「だから本当は俺【龍眼上陰流】を習得したかったんだ・・・」


その言葉に一瞬ギクリとするリナ、しかしそんな事には


気がつかないまま話を続ける清史郎。


「魔王を倒した最強の剣術と言われている【龍眼上陰流】


 を習得できれば本当に強い剣士になれると思ったんだ


 でも聖風流抜刀術の跡取りである俺が多流派に弟子入りする訳には


 いかないからね、だから【龍眼上陰流】への入門は諦めざるを得なかった


 だから実戦経験豊富で強い剣士が多いと聞いていた


【アグム】の人から何か学べることはないか?と


 期待していたのだけれど・・・」


『なるほど、だから思っていたよりも【アグム】の剣士が弱くて


 落胆していたって訳か・・・ようやくわかったわ』


そして清史郎はスッと立ち上がるとリナの方を向くことなく小さな声で語りかけた。


「お姉ちゃんも剣士なんて辞めなよ、女の人が戦うことなんてない


 死んだら何にもならないからね」


そう言ってその場を立ち去る清史郎、リナはかける言葉が見当たらず


その背中を黙って見つめていた。


「何でこんなこと初対面の人に話したのかな・・・」


清史郎は自問自答するようにボソリと呟く、その理由が


リナにどことなく母の面影を見ていたとは自分でも気がついていなかった。



 














 




 





今回から新章ですが特に変わった点はないです(笑)、新キャラクター清史郎の登場で二話構成の予定です、それほどちょくちょく出てくる予定は無いですがそれなりに重要なキャラのつもり?ですねのでお見知りおきを、では。

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