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リナとソフィア

登場人物


リナ・オースティン…剣聖ベルトランの娘、女性の身でありながら若干十四歳で上眼上陰流の免許皆伝を習得した天才剣士、〈理想の男性は兄〉と言い切る程のブラコンだが男性に求める条件は低く〈男は一つでもいいところがあればいい〉というモノ、背は低いがアイドル張りの可愛い顔をしており小柄な体には似つかわしくないグラマラスなボディをしている、サバサバしている性格であまり物事を深く考えない、滅多に怒らないが剣を持つと人が変わる。


ソフィア・ベルクマン…深淵の魔女ミラの最後の内弟子、天才的な頭脳を持ちずば抜けた魔法の才能を持っている、長い黒髪に整った顔立ち、スレンダーなボディとモデルばりの容姿をしていて〈息が止まる程美しい〉と評される美少女だが、感情の起伏が激しく激怒したり激しく落ち込んだりすることも多い、相棒のリナと違い家事はまるでダメで特に料理は壊滅的、思い込みが激しく惚れっぽい性格で妄想癖もあるという、いわゆる残念美少女。


グッドリッジ・ケンバートン…世界を救った三英雄の一人で神の知恵袋と呼ばれた僧侶、第一線を退いてからは冒険者組織アグムを立ち上げ大勢の冒険者の統括をしている、三英雄の仲間だったベルトランとミラからそれぞれリナとソフィアを預かり、二人を組ませたが常に問題を起こすのでいつも頭を抱えている。

目の前には大地を覆いつくすかのように無数のモンスターが行く手を阻んでいた


圧倒的ともいえるその集団は今にも人間たちに襲い掛かろうと舌なめずりをしながら見つめていた


その集団の中には5mを越える大型の物や足が8本生えている物、巨大な牙や爪を持ち見るからに


獰猛そうなモンスター達がうなり声をあげながら虎視眈々と獲物である人間達を


見下ろす、その目には一切猶予も慈悲もなく、視界に映る者達は只々殺すべき敵であり


狩るべき獲物であり生きていくための餌であること以外、何の感情もないようだった


その無慈悲な視線は相対している人間達の心に恐怖を刻み込み


心が絶望感に支配され始めていく。


「全員戦闘態勢に入れ、隊列を乱すな、A級冒険者は私と共に前線で敵を


 食い止めるぞ、B級冒険者は我等の後ろでバックアップと共に第二線を


 張れ、C級冒険者は要人と共に避難し保護を頼む、D級冒険者は逃げろ」


リーダー格と思われる剣士風の男が全員の先頭に立ち大声で叫んだ


さる国の重要人物の護衛という形で雇われた冒険者達は突然の


魔族達の来襲に驚きを隠せなかったがリーダーの言葉で何とか


落ち着きを取り戻し、素早く体勢を立て直すと陣形を組んで


モンスター達を迎え撃とうとした、その時である


「きゃああああ〜ーー‼︎」


後方に避難させた者達の方から金切声のような女性の悲鳴が聞こえてきた


皆がそちらの方向に振り向くと後方にも上空を覆いつくすかのように


無数のモンスターが人間達を見下ろしていたのだ


その姿は人間に近いものの全身が黒く鋭い牙と爪を持っている


最大の特徴は蝙蝠のような羽が生えていて皆自力で空を飛んでいるという事である


そして空からまるで人間を物色するかのようにニヤニヤと見つめ


“ケケケケケ~~”と下卑た笑い声を出しながら舌なめずりしていた


“どうやって殺してやろうか“とばかりに愉悦に浸るような


その眼はまるでおもちゃを与えられた子供のように楽しげであり


残忍で残虐な本性を隠すことなくさらけ出していた


「なんで後ろにも魔族が!?そんなの有り得ないわ」


魔法使い風の女性が後ずさりしながら思わず口走る、リーダー格である剣士風の男が


思わず歯ぎしりをして独り言のようにつぶやいた。


「馬鹿な、魔族の待ち伏せだと!?こんな事、どこからか


 情報が漏れていなければ不可能だ、いったい誰が!?」


完全に包囲された形の冒険者達、その圧倒的なまでの大群を前に


皆の心に絶望感が漂い始める


そんな時、二人の女性がモンスターの大群に向かってゆっくりと歩いて行く


リーダー格の剣士は一瞬呆気にとられその姿を呆然と見つめていたが


ハッと我に返り改めて二人を見つめた、二人ともまだ十代後半と思しき背格好ながら


こんな状況であまりに堂々としている姿に周りの者が違和感を覚えるほどであった


その内一人の少女は背は低めながらアイドルばりに可愛らしい顔立ちとグラマラスなボディ


そしてそれに似合わない長剣を二本腰に下げている、もう一人は長い黒髪が腰まで


伸びていて美しい顔立ちにモデル張りのスレンダーなボディ、息が止まるほど


美しい容姿、そんな美女二人が臆することなくモンスター達に近づいていくのである


リーダー格の剣士が一瞬二人の姿に見とれてしまったのだが不意にあることに気が付いた


それは左腕の〈クラスインシグニア〉と呼ばれる階級章だ、冒険者はクラスによって


階級があり色で識別されている、下からD級冒険者は白色の白等級(通称ホワイト)


C級は銅色の銅等級(通称ブロンズ)、B級は銀色の銀等級(通称シルバー)


A級は金色の金等級(通称ゴールド)、それを超えたごく一部の


S級以上の上級冒険者達は赤等級(通称レッド)と呼ばれ


明確に区別されているのである、そしてモンスター達に近づいて行く


二人の女性の左手には白い階級章、つまり最弱クラスの白等級なのである


「危ない、白等級の君たちが手に負える相手じゃない、早く戻って来い!!」


リーダー格の剣士が二人に向かって大声で叫ぶ、他の者達も次々と呼びかけた


「ホワイトの出る幕じゃない早く帰って来い!!」


「そうよ、早く逃げなさい、死にたくはないでしょ!?」


仲間の必死の呼びかけにも全く動じることなく歩みを進めていく二人の美少女


そのうちの一人、髪の長い方の美少女ソフィアが隣の女性、リナ

に話しかけた


「ねえリナ、みんながあんなこと言ってるけど、どうする?」


「う~ん、聞こえなかったことにすればいいんじゃないソフィア」


ソフィアはその答えに呆れたような表情で目を閉じ首を振る


「聞こえなかったって……アンタ確か耳も異常に鍛えているでしょ!?


 普通の人にも聞こえるあんな大声が聞こえないわけないじゃない」


そんな言葉に対し、少しムッととした表情で言い返すリナ。


「アンタだってその耳に着けてるでっかいイヤリングは


 聴力強化のアイテムでしょ、聞こえないとは言わせないよ」


言い返され少し困ったような顔を見せたソフィアだったが


大きくため息をつき開き直ったように話し始めた。


「まぁ言い訳は後から考えましょうか」


「その考え方、嫌いじゃないよ相棒」


二人は顔を見合わせニコリと笑うとモンスターの群れに向かって歩いて行く


それはまるでショッピングにでも出かけるような軽い足取りであった。




時は3日前に遡る、この世界【アバンキュ・レ・ディーラ】は力が全てを支配する世界である。


世界は二つの勢力によって分割されていた、悪魔の遺伝子を持ち不思議な力と狡猾な知恵


そして強靭な体を持つ魔族、それに対し剣と魔法と知恵で対抗する人間族


この二勢力がしのぎを削りあい、世界の覇権、生存競争の為の激戦を繰り広げていた


この両勢力の戦いは二百年にも及び今でも続いている、そして今より30年前


その均衡が破れ人類は絶滅の危機に瀕した時があった


突如現れたたった一体の魔族に全人類の役半数が殺され


国も次々と滅ぼされたのだ、その魔族の名は〈ゴルバディール〉


自らを魔王と名乗りあっという間に魔族のトップとなった


元々あまり群れで行動することのなかった魔族達は魔王ゴルバディールにより


統率された戦闘集団として変化していくと、恐ろしい勢いで人類側に攻め込み


次々と国を飲み込み軍を蹴散らし人々を蹂躙していった。


人類側もそれに対応すべく各国が自国のエゴを捨て連合軍を結成し


魔王率いる魔族達との一大決戦を挑む様に迎え撃った。


その決戦の場であるミアリスト砂漠の地名から【ミアリストの決戦】


と名付けられたこの戦いは人類側の大敗北という形で幕を閉じる。


勢いに乗る魔族軍は次々と人々の領地へと侵攻、成す術もなく虐殺される人類


もはや絶滅を待つしかないと絶望に打ちひしがれていた時、三人の英雄が立ち上がる


剣士ベルドラン、魔法士ミラ、僧侶グッドリッジの三人である、彼らはたった三人で


魔王ゴルバディールの居城に奇襲をかけ、見事魔王を討ち取ったのだ


人類を絶滅の危機から救った三人は【世界の三英雄】として皆に崇められ


その話は英雄譚として辺境の子供に至るまで知らぬ者はいない程に知れ渡り


30年たった今でも人々の間で語り継がれている、


これを機に世界各国は軍事的にも経済的にも連携することとなり


世界統一通貨〈エン〉が導入された、紙幣も1万エン札にはベルトラン


五千エン札にはミラ、千エン札にはグッドリッジが表記され


その功績と偉業を讃えた、その三人は魔王を倒した後


クラスインシグニアの最高位 SSS級(トリプルS)


の称号を与えられ、その後三人は国軍のトップとして最前線で働いてきたが


15年ほど前に引退し、それぞれ後進の育成にあたった


剣士ベルドランは〈剣聖〉と呼ばれ自身の流派〈龍眼上陰流りゅうがんかみかげりゅう〉を世に広めた


世界最強の剣術を習いたいと世界中から入門希望者が殺到し今では


入門するのですら至難の業と言われるほどの隆盛を見せていた。


魔法士ミラは〈深淵の魔女〉と呼ばれ引退後は各国の援助も得て


【ミラ魔法学校】を設立する、各地から魔法の素質のある者を幼い頃から発掘し英才教育を施した


”魔法士とはミラ魔法学校卒の者にのみ与えられる称号である”


とまで言われるほど優秀な魔法士を何人も輩出しミラは自身だけでなく


教育者としても優秀さを世に知らしめる事となる


そして僧侶グッドリッジは〈神の知恵袋〉という


その二つ名にふさわしい壮大な組織を立ち上げた


それが〈冒険者統合総括事業組合〉


〈Adventurer General Universal Management Union〉 の頭文字をとって


【AGUMU】通称アグムと呼ばれる組織である、この組織が設立されるまでは


冒険者という職業はなく、剣や魔法を習得しても何処かの国軍に入れない者達は


個人で傭兵や用心棒をやったりモンスターを狩って国から金をもらい生計を立てていた


しかしそれでは生活も安定せず報酬目当てで無理な依頼を受けたり無謀な狩りに挑み


大怪我をする者が後を立たず、命を落とす者すら珍しくなかった


その為食い詰めた者達は山賊や窃盗団に身を落とす者も増えてきて


治安が悪化しいていったのである、そんな者たちを一斉に集め救済したのが


グッドリッジの設立した組織アグムである、アグムに所属する事により


彼らに冒険者という職業を与え国や民間から一手に依頼を受けその


依頼内容と難易度、報酬によって力量にあった冒険者を選抜し均等に仕事を割り振る


という仕組みを作ったのだ、そして最大の改革は全ての者に対し


〈クラスインシグニア〉という階級制度を導入したことである


能力と実績を考慮して判断し最終決定はグッドリッジが認可書にサインをして正式に決まる


この制度の最大の特徴は”使える”と”使っても良い”が別なところだ


つまりいくら強力な魔法が使えても、クラスが低い者は使用してはいけないと規制される


それは武器に関しても同等でそのクラスに見合った武器の使用しか認められないというものだ。


だから強大な魔法や強力な武器なども全てランク分けされ


国家が決めた国際規則にのっとり使用規制が存在する、つまりA級に認定されている


魔法や武器はA級以上の冒険者にしか使用してはいけないのである。


”大きな力には大きな責任が伴う”というグッドリッジの信念から出来た規則でこれがある為


冒険者は皆上級へのランクアップを目指し日々鍛錬と切磋琢磨を繰り返していた


そして少しづつ治安も回復し始めアグムの所属冒険者も設立時の10倍近く増えていた


この組織とシステムのおかげで全てがうまく回っている様であった


そう、ごく一部の人間を除いて……


アグムの所長であり最高責任者は三英雄の一人、グッドリッジ・ケンバートンである


三英雄の中では最年少だった彼も30年の時を経てすでに47歳となっていた


そんなグッドリッジに呼び出された者が二人、彼の部屋のドアをノックした。


「空いている、入りたまえ」


その声を聞いてそっとドアを開ける二人の美少女


「失礼します、リナ・オースティンとソフィア・ベルクマン入りまっす」


「緊急の呼び出しと伺いましたけど、いったい何でしょうか?」


今回何で呼び出されたのかわからず不思議そうな表情を浮かべている二人


座りながら机に両肘を付き、顔の前で指を組み二人をジロリと見つめるグッドリッジ


「呼び出された理由が本当にわからないのか二人とも?」


その言葉に思わず顔を見合わせるリナとソフィア。


「あっ、もしかして先日の仕事の件じゃないですか!?」


「ああ、あのムデルント村のゴブリン退治の一件のこと?」


二人の問いかけに対し、グッドリッジは無言でコクリと頷いた。


「やっぱりそうでしたか!?いや~あれは中々大変だったもんね~」


「そうそう、想定外の敵が一杯いてね、まあ私達にかかればあんなのザコでしたけど」


その時グッドリッジの眉間にピクリと血管が浮き出た、しかし二人の話は続く。


「そうか、もしかしてこの前の仕事ぶりを見てランクアップしてくれるって事!?」


「きっとそうよ、な~んだ急な呼び出しとか言われたから怒られるかと思っちゃったわ


 考えてみれば私たち怒られるようなこと何もしてないもんね」


どこか楽しげに話している二人のその言葉に再びグッドリッジの


血管が浮き出て肩が小刻みに震え始めた。


「ねえ所長、どうせなら2、3ランクすっ飛ばしてランクアップしてくれないでしょうか!?」


「いいわねそれ、そもそも私たちが白等級っておかしいのよ、元々私達の自力は


 レッドクラスなんだから、まぁレッドとは言わなくても


 とりあえずゴールドくらいで我慢してあげるわ」


二人の好き勝手な言葉をずっと黙って聞いていたグッドリッジだったが


遂に我慢が限界を迎え爆発した。


「馬鹿者が!!お前らのやったことをもっと冷静に思いだしてみろ!!」


明らかに激怒しているグッドリッジを見てビクッと後退りし


思わずたじろぐリナとソフィア。


「所長、何でそんなに怒っているんですか?」


「そうですよ、私達ちゃんと仕事をこなしましたよね?」


反省の全く見えない二人にグッドリッジは唇を震わせながら問いかけた。


「お前ら、あの村でどんな技と術を使った?……」


鋭い視線を向けられながらの唐突な質問に明らかにギクリとし動揺する二人


先ほどまでの饒舌な語りとは違い視線を逸らしながらたどたどしく話し始めた。


「べ、別に……特別な技は使ってないわ……きっと……」


「そうよね……規定に反する術は使って……無いわ……多分……」


露骨に視線をそらしながら滝のような汗を流す二人


その明らかに不自然であり挙動不審の態度はすでに全てを自供しているようなものであった


そんな二人に対しジト目で見つめるグッドリッジ。


「ほぉ~じゃあ何だ、お前らが使ったD級の技と術で


 村の家屋はほとんど半壊し山が一つ吹き飛んだというのか?」


その問いかけに首の筋がおかしくなるのでは!?と思えるほど顔を背け


視線を合わせられない二人、重い空気と沈黙がその場を支配し


グッドリッジの無言のプレッシャーが二人の美少女に重くのしかかる。


そんな重圧に耐えかねたのか遂にソフィアが開き直った。


「ああ~!!もういいわ、そうよ、使ったわよA級の魔法を、


 だってしょうがないじゃない、あの村にはホブゴブリンや


 ゴブリンロードまでいたのよ!?普通の白等級じゃ死んでたわよ


 私たちだから何とかなっただけで……ほらアンタからも何か


 言ってやりなさいよリナ!!」


開き直って規定違反を犯した事を正当であると主張するソフィアは


怒りに任せて悪びれることもなく言い放った、しかし相棒の言葉は


そんなソフィアの心をへし折るものだった。


「あの……私は使ってませんから、ちゃんと規定通りの技で対応しました


 ソフィアだけ勝手に違反したんです、私は無実ですハイ……」


その言葉にソフィアの顔から一気に血の気が引く、隣にいる相棒の顔を


マジマジと見つめると、怒りでワナワナと震えだした


ソフィアはすかさずリナの胸ぐらをつかむと激しく揺さぶり責め立てた。


「何言ってるのよリナ、そもそもアンタの方が先に規定外の技使ったじゃない!!


 なに自分だけ逃れようと思っているのよ、信じられない!!」


目を血走らせ激しく揺さぶりながら問い詰めるソフィアに対し


顔を背け半笑いで答えるリナ。


「ハハハハハ何言ってるんですか、嫌だなあソフィアさん、いつもの妄想ですか?」


その言葉にソフィアの何かが切れた、反射的に右手を高々と上げ既に魔法の準備に入っていた。


「いいわだったら思いださせてあげる、あの時山を吹き飛ばした魔法を見れば思い出すでしょ


 まあ記憶ごと他のモノも吹き飛ぶかもしれないけど、それはしょうがない事よね!?」


怒りに我を忘れ今にも巨大魔法を放とうとするソフィア。


「いい加減にせんかーーー!!」


グッドリッジの怒りの声は部屋の外まで響き、ドアの前を通りかかった者が


一瞬驚いて立ち止まるほどであった、あまりの大声に二人は直立し思わず息を飲む


「お、落ち着いてください所長 最近血圧が高いと聞いています体に障りますよ……」


「そうですよ、所長ももう年なんですしお体を労わりましょう……」


グッドリッジはおもむろに立ち上がり両目を見開いたまま鬼のような形相で


二人に詰め寄り顔をグッと近づけた。


「あ、あの所長、そんなに近づかれるとその……最近はほら、


 王宮とかでもセクハラが問題になってますし……」


「そうですよ、そんなに迫られても私は所長みたいな男性は


 あまりタイプではないといいますか……」


その場を必死に取り繕おうとするリナとソフィアだがそれは逆に火に油を注ぐ事になった。


「私の血圧が高くなる原因はお前らだろうが!!全くお前らはどうして規則を守れんのだ


 そしてリナ、お前が龍眼上陰流の技を使ったことも報告が入っている


 今更下手な嘘は無駄だ‼︎」


それを聞いたリナは〈バレていたか!?〉とばかりの顔を見せた


顔をしかめ苦虫をかみ潰したような表情を浮かべる。


逆にソフィアは口に手を当てニヤニヤしながら横のリナの反応を見てほくそ笑んだ。


「ほらごらんなさい、嘘なんかつくからよ、今後は反省して本当の事を言いなさいよ」


なぜか勝ち誇るソフィアの態度にますますグッドリッジの血圧が上がる


リナは”バレちゃしょうがない”とばかりに首をすぼめ両手を広げた。


「でも所長、結果的にゴブリン退治は完遂したんですし何か問題でも?」


開き直ったリナの言葉に震えながら答えるグッドリッジ


「何か問題でも……だと?いいか、お前らがやった村の家屋のほとんどを半壊させた


 事による修理代、山を吹き飛ばした事による山の幸の収穫と木材の保証


 山の所有者である村長に対する賠償金と交通復旧の為の工事費……


 一体いくらかかったと思うんだ!?」


再び顔を背ける二人、そしてリナが何かを思いついたように口を開いた。


「じゃあゴブリン退治の代金でそれを賄うのはどうでしょうか?」


「馬鹿もん!!ゴブリン退治の依頼料だけで補えるような金額か!?


 そもそもこんな仕事をしておいて料金などもらえるわけないだろう


 我々アグムは信用が第一なんだ、アグムが国際認定機関だという事を忘れたか!!」


ハアハアと息を荒げながらまくしたてるように言い放つグッドリッジ


あまりの勢いにたじろぎながらも不満気な表情を浮かべるソフィア。


「でも所長、あの村の村長は虚偽の申告をしていたんですよ!?


 ゴブリンが10体ほどしかいないって……でも実際は40体以上いましたし


 中にはボブゴブリンやゴブリンロードもいたんです


 あの村長それを言うと料金が跳ね上がるもんだから


 わざと過少申告したんですよ、これって契約違反ですよね!?」


「そうそう、がめつそうな村長だったもんね~今回の出来事はいわば


 自業自得といいますか、身から出た錆といいますか、自己責任といいますか


 まあそんなところで損害賠償なんて無視しちゃえばいいんじゃないですか!?」


「そうね、それが正当な判断だと思うわ、嘘をついたりごまかしたりすることが


 いかに悪質で卑劣な行為なのか、勉強の意味でも反省を促す意味でもそうするのが


 一番だと私も思います、という訳で問題は解決ですね所長」


悪びれることもなくニコニコ笑う二人に対し顔を真っ赤にして震えるグッドリッジ


しばらく無言のまま鬼のような形相で二人を見つめていたが不意に椅子に座り


頭を抱えながらボソリと小声で話した


「もういい……二人とも下がれ……」


二人は再び顔を見合わせホッとした表情を浮かべる、そして二人がドアから出る際


ソフィアが恐る恐るながら問いかけた。


「あの~それで私たちのランクアップの件は……」


その質問に対しグッドリッジは頭を抱えたまま視線を向けることもなく答えた。


「ランクアップだと?本来ならランクダウンに該当する案件だ


 お前らはこれ以上下がりようのない最下級の白等級だから


 ランクダウンの処置ができないだけだ、なんなら私が


 国に掛け合ってお前らの為に白等級の下の階級を作ってやろうか!?」


その低くて重い語り口調に”これは本気でやりかねない”と判断した二人は


頭を抱えたまま動かないグッドリッジを尻目にそのままそそくさと部屋を出た。


廊下を歩きながら手を頭を後ろに組み話し始めるリナ。


「それにしてもそこまで目くじら立てる事なのかな、まあ私達がやりすぎたのは


 事実だけどさ……あんたもそう思うよねソフィア?」


しかし問われたソフィアはその質問に答えることはなくジッと疑いの目を向けていた。


「リナ、あなた私を売って自分だけ助かろうとした事、忘れてないでしょうね?」


ソフィアの目は怒りと不信感に満ちており”返答次第では許さない”と訴えかけていた


もうその事はすっかり忘れていたリナは苦笑いを浮かべ右手で”ゴメン”のポーズをとる


「いや~あの時は瞬間的な逃走本能っていうか、つい口に出ちゃったというか……


 ゴメン、謝るから許してよ~」


何だか軽いその言葉と態度にプイっと顔を背けほほを膨らますソフィア


「私はあなたという人間が信じられなくなったわよ、普通なら


 絶交されてもしょうがないくらいの事よ、わかってるの!?」


「だから謝ってるじゃない、どうしたら許してくれるのよ?


 じゃあ〈ミルキーカフェ〉の〈スペシャルパフェ〉おごるからさ」


その提案にソフィアの耳がピクリと動く。


「そ、そんなんじゃ足りないわ……もっとこう……


 誠意というか気持ちというか……ほら、あるじゃない」


ソフィアの態度がやや軟化した事を見逃すリナではなかった


ソフィアの顔に近づき瞬時に言葉使いを変えた。


「じゃあ~どうすればいいのかな~ソフィアちゃんは?」


ソフィアは顔を背け恥ずかしそうにボソリとつぶやいた


「じゃあ、料理作ってよ……コルド鶏のバルドリシチュー……」


その瞬間リナの表情が少しあきれ顔に変わった。


「あんた本当にあの料理好きね、なんだったらあの料理のレシピ教えてやろうか?」


その瞬間、ムッとした表情を浮かべ少し恨めしそうに睨むソフィア。


「あなた私が料理全くダメなこと知ってる癖に、なんでそういう事言うのよ!!


 今回はあなたの誠意を見せるんだから四の五の言わずに作りなさいよ!!」


逆切れ気味に言い放つソフィアに対し、両手を上げ首を振りながら


”お手上げ”のポーズをとるリナ。


「はいはい、わかったわよ、でもあの料理を作るには材料が足りないわよ


 結構仕込みにも時間かかるし……」


するとソフィアはリアの手をグイっと引き寄せ、腕を組んでニコリと笑った。


「買い物なら付き合うわよ、ミルキーカフェのスペシャルパフェも


 おごってもらわなきゃいけないしね」


「はぁ?パフェもおごるの?料理作ればOKじゃないの!?」


「それはそれ、これはこれよフフフ、さあ早速行くわよ!!」


「ヤレヤレ、全くがめついわね……食い意地の張った相棒を持つと


 苦労するよ、じゃあ行こうか」


二人はグッドリッジに説教されたことなど微塵も感じさせないまま


仲睦まじく買い物に出かけて行った。












さて今回の作品も剣と魔法のファンタジーです、前作で女の子を書くのが凄く楽しかったので今回は女の子二人の主人公としました、しばらくはドタバタアクションといった感じの物語になると思いますので気長に生暖かい目で見ていただけると嬉しいです、では。

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