第6話 濁
このころの与兵衛は、まだ言われていることが理解しきれず、
振り回されてばかりですね。
今、手元では第30話の途中まで書けているので
個人的にちょっと与兵衛の成長を感じます。
いつもありがとうございます。よろしくお願いいたします。
「ゲン様、何言うてるかわからん!」
そう言うと与兵衛は、おっ父の前に走って行った後に、またおっ父の後ろについて歩きだした。
「てめえ、小っちぇえ時の記憶、ないだろ?」
今の与兵衛の5、6年前だろうか。というとその頃の与兵衛は6つ、7つだが。とにかくその頃以前の記憶が、与兵衛にはなかった。しかし、与兵衛は友人が少なかったので、そのことを特におかしいだと感じたことはなかった。それって、おかしいんやろか……?
「せやな、ない」
与兵衛はきっぱりと言った。
「やっぱり、そうか」
何が『やっぱり』なのか、与兵衛にはさっぱり分からない。
「何で、そないなことが分かるん?」
「……ばーか。俺はこの目で何人も見てきたんだ。分かるに決まってるだろうが」
与兵衛はその一言で、刀に、核心を濁されたような気がした。
と、おっ父が目の前で、寺の扉を開けた。いつの間にか、家に着いていた。
おっ父がおれのホンマのおっ父じゃない……。そんなアホな……。でもおれは、その小さい頃の記憶がない。それは、おっ父がおれのホンマのおっ父に何かしたから? でも、なんで記憶がないんや?
今、与兵衛が刀に言われたことのいくつかが、与兵衛の頭の中をぐるぐると回っていた。
なので与兵衛は、おっ父が近づいてきて、背中の刀に触ろうとしていることに気が付くのに、少し時間がかかった。