第5話 淀
刀が訳の分からないことを与兵衛に言います。果たして、その真意は?
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結局、その夜の特訓は、なし、ということになった。与兵衛はそれを聞いて、少しほっとした。
今夜は気が滅入っているのか、逆に興奮しているのか、与兵衛には分からなかった。
しかし、とにかく与兵衛の放つ気が乱れているらしい。
「そんなんじゃ、大けがをするのがオチ、だからな」
とおっ父は言った。
背中に隠している刀が、おっ父以外の誰にも分らないよう、与兵衛は気を遣いながら夜道を歩いた。
そうして、おっ父の背中をしばらく見つめた後。与兵衛は自分の背中の刀に話しかけた。
「おい、お前」
「『お前』、じゃねえって言ってんだろ!」
刀が答えた。
「じゃあ、ゲン様」
「そうだ。何だ?」
「何も言わんな?」
「言ってるじゃねえか。それに……」
刀はちょっとためらったように言い淀んだ。与兵衛はその様子を、ちょっと疑問に思って、言った。
「何や? 言えや」
「あいつ、てめえの『おっ父』じゃねえ」
その言葉に、与兵衛は耳を疑った。
「何やて?」
「あいつはてめえの本当の親の仇だと思うぜ」
「何やて?」
何や、自分、何べんも同じこと言うてるなあと思いながら、与兵衛はそう言った。
「だから、今言った通りだ。あいつが、てめえの本当の父親を殺した」
与兵衛の頭は、何かを考えているようで、何も考えていないようだった。それでも、刀に言われていることを理解しようと、必死に頭の中身を回転させて考えようとした。思考が、刀との会話に追いつかない。
おれを育てたおっ父が、おれの本当の父親を殺した? 何でや?
与兵衛の歩みが止まった。かすかに聴こえていた、背中の刀と与兵衛の着物がこすれる音も、止まった。おっ父はそれに気づかず、まだ与兵衛の先を歩いている。
「てめえが俺の知っている『与兵衛』なら、俺が言うことは正しいはずだ」
刀は言った。
「殺すなら、誰も周りに居ねえ今だと思うぜ。手伝ってやろうか?」
おっ父は、いつものおっ父のように見えた。