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第3話 暴
「おっ父、刀がしゃべっとる……」
まず、与兵衛はそれだけ言った。おっ父はもう、お侍さんに念仏を唱え終わっていて、与兵衛のおかしな一言を聞いていた。
「そんなわけないだろうよ、与兵衛」
「で、でもっ」
刀を握りしめたまま、与兵衛は言った。
「おれの名を訊いてきたで?」
「うむ」
おっ父は、言葉とは裏腹で、刀への関心があるように、与兵衛には見えた。
「殺気を、感じるな。その刀が、突きさすような痛い殺気を放っている」
おっ父は、言った。
その時だった。
与兵衛の手から、刀が離れそうになった。まるで、刀が意思を持っているかのように。
「うわあ!! 何やねん!!」
慌てて与兵衛は、刀を握りなおした。
「……せ!! 離せ!! 俺は『奴』を殺す!!」
刀が叫んでいる。
「奴って、誰!?」
ぶんぶんと暴れる刀に文字通り振り回され、与兵衛も叫び返した。
「お前さんこそ誰と話してるんだ、与兵衛?」
与兵衛の様子を見て、さすがにおっ父が、肩眉を下げて変な顔をした。
「誰って、こいつや! この刀や!!」
刀は木に突き刺さり、ようやく暴れなくなった。