第15話 拭
血の臭いって、駄目な人と大丈夫な人がいますよね。
今回は、二人の違いがそこで如実に出ています。
実はそこには理由があるのですが。それはまた今度書きます。
いつもありがとうございます。よろしくお願いいたします。
「今から拭いてやるわ。暴れるんやないで」
「暴れねえよ」
与兵衛は、自身の寝間に行き、スッとふすまを閉めた。部屋の中はまだ真っ暗だったので、火打石を取って油紙に火を点けた。部屋が少し明るくなった。
刀は床に立ててみると、結構長かった。与兵衛は明かりを頼りに刀を拭き始めた。
手ぬぐいはすぐに赤黒くなった。嗅いでみると、腐った魚みたいな血の臭いがした。
「うわあ、くっさあ…」
思わず与兵衛は、顔をしかめた。
「はは! てめえ、やっぱりガキだな!」
と刀が笑った。
与兵衛は、むっとした。
「うるさいなあ。拭かんでもええんか?」
「拭かなくてもいいぜ。俺は血の臭いは大好物だからな。嗅ぐと背筋がぞくぞくしてたまらねえんだ
!」
刀がそう言って、少し震えたように与兵衛には見えた。もちろん、震えたように見えたのは気のせいだろうが。
「こんな臭いが好きなんて、ゲン様、変わってるなあ。おれは嫌いやあ」
「てめえこそ、嫌いだなんて、変わってんじゃねえか。いいか、与兵衛。これは戦場の臭いだぜ。てめえだって男ならいつかは嗅ぐもんだ」
「おれはこんな臭いのするところ、無理やわあ……」
与兵衛は、だんだん眠くもなってきた。刀をふすまに立て掛けてから、急いで布団を敷いた。そして、そこに刀ごとばたんと倒れこんでいびきをかき始めるのに、そう時間はかからなかった。