第1話 斬(ざん)
去年あたりから温めていた話です。
最後までかけるか分かりませんが、とりあえず始めてみます。
この時点では主人公はまだ幼いです。
倒幕運動が盛んな頃。それはそれは、男どもは皆が血眼になっておった。やれ昨日は倒幕派の誰々を天誅しただの、また一昨日は尊王攘夷派があっちで騒ぎを起こしただの、毎日噂になっておった。
それじゃから、江戸の端にあったその寺―天龍寺と申すがな―に、侍が決闘をしに来ても、誰も何も言わんかった。
☆ ☆ ☆
与兵衛は息を殺していた。
その夜も、鳥天狗、おっ父と特訓をする予定になっていた。
一部始終を見ていた与兵衛は、辺りに誰もいないのを確かめると、回れ右をした。そして、一目散に走りだした。
「おっ父!! おっ父、大変や!!」
と叫びながら、ばたばたと縁側に入り、戸を開け放った。
「お兄やん、なあに~?」
まだ5歳の妹のお千代が、眠たそうに目をこすりながら、起きてきた。
「失礼します!」
「与兵衛、どうした?」
「裏山で、お侍さんが斬られて、亡うなっとる」
おっ母は、口元に手を当てて、目を真ん丸くしている。
「さようか。では、弔わねばな」
何でもないようなことのように、おっ父は言った。
おっ父は、僧侶でもある。だから、人の死には慣れている。それが、与兵衛には理解できなかった。
「そこまで案内してくれるか?」
「え……ええけど?」
まだ心臓が、バクバクと高鳴っている。
今しがた、殺し合いを見てしまった与兵衛は、戸惑いを隠しきることが、出来ないのであった。