44.魔女の祈り
美女と美少女が揃うと、碌なことにならないとケンはつくづく痛感した。
ワインレッドの巻き髪が美しい魔女と、エメラルドグリーンの艶やかな髪が眩しい突如現れた少女。
人間ではないケンでも素直に美しいと認める二人は、互いに向き合ったまま威嚇しあっていた。
“夢の旅人”と魔女は相いれない存在だが、おそらく、性格的にもウマが合わないのだろう。二人と同じ空気を吸わねばならないこちらとしては勘弁してほしいことこの上ない。
「ここにラゥがいたのは分かってんのよ? 何処行ったかさっさと教えなさい」
「だからぁ、消えたっつってんでしょう!」
「あんたの夢でしょう? それぐらい把握してるでしょう」
「今、私は他の事に力を使ってるから…そこまで回らないのよ」
「その他事にかかずらっている所為で闇の奴らに付け込まれてちゃ世話ないわね」
「…で、でも普通思わないでしょ! “奇術師”なんてやっばい奴が来るなんて…どんな確率だと…」
無数の夢が存在している夢の世界で、その一つでしかないドロテアのところに、闇のモノに侵される確率は高くない。やってくる闇にしても、片手間で追い払える塵に等しい餓鬼くらいだ。“奇術師”だなんて名前まで付いてしまっている闇に出会う確率なんて1/∞だ。しかし少女の追及は止まない。
「そんな言い訳通じるとでも? 夢の世話をきちんとしなかったあんたの怠慢だわ」
ドロテアが興奮気味に対して、エメラルドグリーンの少女は始終冷静さを失わなかった。少女の顔はまるで一度も笑ったことが無いんじゃないかと思う程にピクリとも動かない。
「あんたは……もしかしなくても、あの少年に憑いてる“夢の旅人”ね?」
「だから?」
そっけなくしたが、少女の威圧感が増した。それ以上に踏み込んでくるな、と。
「あの子の腕輪。貴女の魔力を纏っていたわ。普通あんな髪一房で、あの規模の力はあり得ないでしょ。…貴女、“星姫”?」
「…ラゥが何か言ったの?」
その言葉が、答えだった。
「あの子は何も言わなかったわよ。でもあんな出鱈目な波動がそうそうあってたまるもんですか」
「で? 私が“姫”だろうがあんたには関係ないでしょう」
「……そうとも言えないのよね」
ドロテアは一呼吸すると、改まって姿勢を正した。エルメラはその様子を微かに訝しげに眺めた。
「恥を承知で“姫”にお願いしたく存じます」
突如跪いてきた魔女に流石のエルメラも虚を突かれた。
「…は?」
ドロテアの顔に一瞬迷いが生じたが、すぐに消え去った。
「私の夢を壊して下さいませ」
クラスメイトだったものを手で掬った。赤が指の間から零れる。
たぷ、と弾力のある肉入りの液体は、赤黒く、温かく、そして沼の様に底が見えなかった。
「………」
ラドゥーの口からは何も発せられない。瞳は虚無に囚われて色を失う。感情を忘れたかのように虚ろを漂う。
破裂したクラスメイトは、決して親しいとは言えない程度の認知度で、言葉を交わしても当たり障りの無い挨拶くらいで、それだって他の友人達も交じってのものだった。彼との思い出は無いに等しいが、ラドゥーは“ムークット”としていられる学校に属する彼は、それだけで守る対象だったのだ。
なのに
「あぁ~ぁ。木端微塵になっちゃったネ」
耳障りな軽い声がラドゥーの耳朶を打った。
「折角分けたのに、宝物が勝手に動いて結局宝物は三コくらいに纏まっちゃったし。ほんと人間て集合本能の塊だよネ」
もっと楽しいの用意してたんだけど、という言葉はラドゥーに聞こえているかも怪しい。背を向けたまま身動ぎもしない。
「この土地に残ってる人間達の欲や傲慢の思念を夢の主に見せつけたのは楽しかったけど、肝心のゲームは宝物は全て見つけられたからこれで終わりになるのカナ?」
“奇術師”は一方的に喋り続ける。
「ああ、でも宝物は勝手に君達のところに行っちゃったのはダメだったネ。楽しさ半減だよ。つまんない。でも君壊しちゃったし、これって引き分けになる? でも引き分けは嫌いなんだ。ゲームには勝つか負けるかしか存在しちゃいけない。そうだろう? そう思うよね。そうだ、ゲームをやり直そうよ。安心して、今度はきっと大丈夫。動かないようにちゃんと足切っとくから」
突如、どす黒い念が湧きあがり、ラドゥーを埋め尽くした。
「……………殺してやる」
突然の申し出を、エルメラは蹴った。
「自分で勝手に夢を閉ざせばいいじゃない。態々他人に頼むまでも無いわ」
ドロテアは首を横に振った。
「無理よ。ここにあるものは全て現実世界のもの。森や湖がある内は閉じられないわ」
現実世界のものは、夢の産物のように薄れて消えたりしない。壊れても、その残骸は残る。壊れた家の瓦礫は山と積もる。形は崩れても構成要素はそのまま残る。
「ならここを元の場所に戻しなさいよ。その後に夢を清算すればいい」
「勿論そのつもり。ちゃんと元の世界に戻すわ。でもね、入れ物は残るでしょう? 夢の骨組みが。人間の子供達がいなかったら、自然消滅に任せても良かったんだけど……」
ここを元の世界に戻した後はドロテアは消える。夢の主がいなくなった夢は灰色空間に覆われ、扉が消える。出入り口が無くなるのだ。夢に属するケン達住人には影響はない。ここをひき払う前に出て行けばいいだけだ。
けれど人間はそうはいかない。灰色空間から抜け出せない人の子は、あの不安が付きまとう中で迷子になってしまう。そしていくらもしない内に発狂して、夢の中で死んでしまうだろう。ケン達がこの夢の主になる事も出来ない。彼らは人間ではないからだ。唯一可能性のある、かつて人であったロジェとロジャーは、あまりに人であった期間が短いため、人間としての自覚は薄いから主としては役不足だ。
かといって、土地を返す前に人間の子供達を現実世界に返すことも出来そうもない。力が尽きかけている今のドロテアに――二~三人ならまだしも――何十という大人数は無理だ。ケンとロジェ達も同様。唯一力のある龍だが、夢のルールにおいて、龍は“渡し”を禁じられている。おそらく、龍にかかれば国単位の人数を一遍に異世界へ渡らせられるため、世界の均衡がズレてしまうからだと思われるが、ともかく無理であることには変わりは無い。
そんなことをして、ルールを破れば夢の管理人たる、“調律師”か“審判”が出てきて彼らに罰せられてしまう。
ただ一つ、正規の扉を潜らせれば帰せるのだが、扉の鍵は、主のドロテアにも開けられない。何故なら、鍵はここの土地を完全に浄化することなのだから。ここに人間を呼ぶつもりはなかったし、ドロテアにとって何より重要なのはそれだったから『鍵』は必然そうなってしまったのだ。
だから、土地を返すと同時に、人間界に人の子達を帰すには夢を壊して、強制返還させるしか、無い。
「この闇は、貴女のモノでしょう?」
「え…」
「…この夢の主はあんた。なら、ここに凝っている闇は、ここで生きていた人間の暗い部分を具現化したもの。そしてこの転がってる子達に憑いた。闇の源は貴女の知る人間達。違う?」
「……ええ。その通りよ」
ここの毒を完全に浄化して、元の世界に返したあとは、ドロテアはゆっくりと眠るつもりだった。新しい魔女として再生するまで。
「“姫”なら分かるでしょう? この土地の穢れを。薬害だけじゃない。人間の醜い部分によっても踏みにじられた場所。人の自分本位の愚行のせいで極限まで侵されてしまった。その人の思いが、今もなお残って自然を痛めつけている」
正常な森から感じられる静謐な息吹を、清き水面から漂う清涼な流れを、今は感じない。人の手で踏みにじられた自然は、沈黙に沈んでしまったのだ。薬害だけなら、ドロテアは百年足らずで清められていた筈だ。人の欲望が森の修復を遅らせ、同時にドロテアの力を削ぐのだ。
「そうだとして、なんであんたがそこまでする必要があるの?」
「…正論ね」
ドロテアだって馬鹿馬鹿しいと感じてる。ドロテア汚したわけではないものを、自分が引き受ける義務など何処にもないのだから。この土地を見捨てて、何処かもっと綺麗な場所を探せば済む話だ。
“奇術師”の差し金で、その闇を被った人の子がドロテアに牙を向いた。その自業自得で死に、思念だけになった人間達の為にする必要など何処にも…。
――なのに
「ここをひき払った後は私は消えることになるから、人の子を帰すために夢を壊してほしいの」
「何故? どうしても貴女が消えなければいけない訳でもないでしょう?」
その通りだ。ドロテアがここまで強行軍でいかなければ、ドロテアは消える事無く、時間は余分にかかっても土地はいずれ癒える。
でも、人の死を、土地の死を、人間が為し得る残酷な行為を見せつけられて、ドロテアはそれに追われる様に森と草原と湖を浄化してきた。まるで、一秒でも早く元に戻せば、全部戻ってくると。そしてそれがドロテアの手で為し得たなら。
「私はもう、融通が利かなくなってるの。分かっていても、もう止められない。ひたすら浄化し続けるしかないの。ここに捕らわれちゃったの……消えるまで」
ドロテアだって、分かってはいる。一度失ったものは二度と戻らない。その最たるものが、命、だった。
いくら森を綺麗にしても、そこで育くまれた動物達が帰ってくる事はない。
いくら湖を浄化しても、腹を見せながら浮かんでいた魚が再び泳ぎだす事はない。
いくら草原の地雷を除去しても、そこで駆けていた子供達が生き返る事は、ない。
ドロテアが愛したものは、決して完璧な形に直るわけではないのだ。
けれど、けれど、けれど………どうしても、出来なかった。
だって、ここに生きていたの、確かに。私が愛した人間達が。その残滓を感じられるここが、どうしても見捨てられなくて。
今でも、幼子の笑い声が、母親同士の井戸端会議の姿が、地を突く鶏と相伴する雀のさえずりが、ドロテアの瞼の裏で振り切りがたい輝きとなって纏わり付いてる。
エルメラは、魔女のくせに感傷的で、人間臭い変わり者を見つめた。
ドロテアに共感した訳でも同情した訳でもない。エルメラの関心はラドゥーのみで、ドロテアの願いを叶える義理など無い。
一般的に、魔女にとって“夢の旅人”は己の世界を我が物顔で闊歩する面白くない存在である。その中で最も力を持つ“夢の旅人”の一角とされるエルメラに頭を下げるのは苦渋の選択だろうに、それを振り切って頭を下げる彼女が興に入った訳でもない。
けれど、エルメラはドロテアの状態が少々気になった。ラドゥーが一瞬だけ出会ったウォンバルト皇子と同じだ。もはや自分で創り出した檻から出る事も不可能となって足掻くだけの…
…己が望みに捕われた、哀れな茨の蝶。
夢の住人にはよくある事だが、恐らく、ラドゥーがこれを知ったら、知らぬ存ぜぬとはいかないだろう。
一瞬だけすれ違っただけのくせにあの皇子は、思いのほかラドゥーに影響を与えてくれた。
交わるはずのない邂逅。彼はとっくに死んでいたのに、その想いは全く別の世界にいたラドゥーに届いた。
不思議な話だと思う。それこそが、夢だからこそ成し得る奇跡なのかもしれない。
「……気が向いたらね」
そんなことを思ってしまったからだろうか。エルメラはそれ以上突っぱねる事はしなかった。
「…うぅ…」
と、その時、背後でうめき声があがった。
「あら、やっとお目覚め?」
むくりとロジェ達が身を起こした。
「あれぇ? ドロシィ、どぅしたの?」
ロジェが寝ぼけた顔でこちらに向いた。先程の荒んだ気配は既になりを潜めている。闇が払拭されたのだ。ドロテアは安心して息をついた。
「このバカ者! 心配させおって」
ケンが目を吊り上げて人魚達を叱った。泣くのを堪える為なのは一目瞭然である。
「おバカなのはケンだもん。ごめんねぇドロチィ。なんか強烈なのが一発キてね~むぎゅってなってうが~てなっちゃった」
つぎはぎ並によく分からない説明だが、エルメラにとってはどうでもいいことだったので聞き流した。
エルメラはラドゥーを求めて気配を探った。
気配は、感じる。だからここからいなくなったわけではないのは確かなのに、闇の膜の他に、別の大きなモノの気配が邪魔をして、正確な位置がよく分からない。
「ねえ魔女」
「何よ…」
唐突に呼びかけてきたエルメラを訝しげに振り返った。
「ここの夢にまだ何かいる?」
「何か?」
「この夢には他に住人がいるのか訊いてんのよ」
ぞんざいなエルメラの口調に顔を顰めるも、大人しく口を開いた。
「ディックがいるわ」
「「デリバーンが向こうの草原にいるよ~」」
「ゴーツェがまだおる」
同時にケンタウルスと人魚も口を開いた。ただし、口に出した名前はばらばらだった。
「……何人?」
「一人、いや一匹?いるだけよ」
「名前が複数あるってこと?」
「ええ。彼は数万年の時を生きる龍だから」
龍、という言葉にエルメラは僅かに眉を上げた。龍まで住まわせられるここの大きさと強固さに。
龍を受け入れられる夢はそうは無い。その気になれば一帝国ほどの世界をドロテアは単独で創り上げられるだろう。しかし、その力はこの世界を修復することのみに注がれている。なんて勿体無い。けれど周りがとやかく言うのはそれこそ大きなお世話だ。夢の世界は自己満足の世界なのだから。
エルメラもラドゥーにへばり付いているのだから、彼女のことは言えない。
夢の世界の中でも古株で、強い力を蓄えていた人間好きの変わり者の魔女。その全てはとうに失った人間達の為に。全く意味のない事に費やして、ドロテアは消えようとしているのだ。己が望んで。
「ふぅん…道理でラゥの気配があやふやな訳だわ…」
それもやっぱり、エルメラにはどうでもいい事だったから、ドロテアのことを考えるのは止めた。
龍はどの世界においても特別な地位にある。それは悪神の化身だったり、神聖な獣だったり、自然の支配者だったりと立場は変わるが、いづれも強大で、特別視される種族である。
その龍がラドゥーの傍にいるというのであれば、ラドゥーの気配を読み切れなくても納得がいく。
「その龍は草原にいるって言ったわね」
「そうだよ~デリじぃちゃんは草原で日向ぼっこが大好きだから」
ロジャーが気だるそうに身を起こしながら答えた。
草原、そこにラドゥーがいる。目的地は定まったのならここに長居は無用だ。
エルメラは踵を返した。
直後、世界が、揺れた。
「きゃっな…何…?」
「地震っ?」
「馬鹿な…夢に地震なんぞ起こるわけあるか! 地が無いのだぞ!」
「くそ真面目に理屈こねてんじゃないよっ馬鹿ケン!」
「そうだそうだ! じゃあ何で今揺れてんだよ!」
ロジェ達は戦いた。生きた人間で例えるなら血の気が引く、とでもいうのだろう。それほどの恐怖だった。
夢の世界は停滞した世界だ。揺れるなんてありえない。ただ一つ、夢そのものを揺さぶられる、ということを除いて。
エルメラは一人、冷静に上を見上げていた。
――あの人が、嘆いてる。
いつだって自分を保ち、安定感のある彼が、血を吐く思いで叫んでいるのを感じる。腕輪を通して感じる痛哭は、感情の薄れたエルメラでさえも胸を締め付けた。
何があったかは知らないが、今この状況を鑑みれば、彼の身に抜き差しならぬ大事があったのだろう事は確実だ。
一刻の猶予もならない、とエルメラは足を踏み出す。
「ちょぉっとすみません」
しかし、去ろうとしたエルメラを引き留める声にエルメラは気が削がれた。いつの間にか、一人の少女がエルメラの傍にいた。今の今までケンの後ろにいた人間の少女。今初めてエルメラの視界に入った。
エルメラは迷惑そうな、不機嫌を隠そうともせず、冷たい眼差しを少女に向けた。
「ムークット君に寄り添っている緑の光の人ですよねぇ?」
ひどくのんびりとした物言いだ。急いでいる時には遠慮したいペースである。なのに、そんな今すぐ草原へ発ちたいと焦れるエルメラさえ、耳を傾けさせた。
「……あんたは?」
「私はアルネイラといいますぅ。ムークット君のクラスメイト」
エルメラ程ではないにしても中々の美少女だ。その少女が逆三日月型に目を細めてゆったりとほほ笑む。
「何か用?」
「いいえぇ。ただ、今を逃すと言えないままになっちゃいそうだったんでぇ」
「……何が言いたいの?」
エルメラは大人しく耳を傾けている自分が不思議だった。けれど、本能が聞く事を推奨している。今聞かなければ、後悔すると。
「私もよく分からないんですけどぉ。貴女を見た途端、何故か貴女に言わなきゃいけない気になったんです」
アルネイラは一度軽く深呼吸をした。
「やっと、逢えたのじゃな。妾も嬉しいぞ――」
エルメラは目を見張った。その口調は…
「――って。…よく分かんないんですけどぉ、貴女を見たらとにかく言わなきゃって」
何なんですかねぇ、と首を傾げるアルネイラにエルメラは首を振った。
「いいわ。分かったから…」
人間であったなら、涙が流せるのに。
エルメラは人ならぬこの身を恨んだ。
この娘も、かつて私と深く関わった者。だから、彼の人は、彼女に言葉を託した。彼の人が今でも私を案じてるのが、申し訳なくも嬉しかった。それで、充分だった。エルメラは目を閉じて深く息を吸い、気持ちを入れ替えた。
行かなければ。私の“探しもの”に手を出す阿呆に鉄槌を。
「あんのマスカレード……潰してやる」
顔を歪め、足を踏み出す。ドロテア達はおろか目の前のアルネイラの事さえ念頭から追いやった。
「ちょっと…何処行くのっ?」
ドロテアの制止する声など無視してエルメラは駈け出した。
もう貴方が苦しむ必要はないの。もう貴方は解放されたんだから。
ねぇ、貴方が望むなら、私が世界を壊してあげる。貴方に無理をさせるモノはいらないでしょう?
貴方が自ら動く必要はない。“破者”の魂を持つ貴方が齎したのは、いつだって破滅の未来。それを嘆いていたのを私は覚えてる。
決して忘れない。
「そうでしょう?」
リ ア
アルネイラは結構重要キャラだった。
解説コーナーをアップm(_ _)mどうぞ↓
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「こんにちはリンさん、ジャックさん」
「あぁら、いらっしゃい!」
「……よ」
「さぁさ、座って下さいな。かぼちゃプリン出来たてですよ。かぼ茶もあるわ。男衆ももうすぐ畑仕事から帰ってくるでしょうし」
「もうすっかり一面かぼちゃ畑ですね」
「そうなの。住民全てに手伝わせていてね。皆やる事が出来て嬉しがってるわ」
「夢の世界って暇だものね」
「かぼちゃプリン美味しいです」
「……」
「(ちょっと嬉しそうだ)。ジャックさんが作ったものですか?」
「そうよぉ。かぼちゃの種によって甘さも変わるしね」
「貰った苗のかぼちゃはまだ熟してませんが、どんな料理に合いますかね?」
「あれはやっぱりスイート系かしら。でも勿論お料理にも使えるわ。あれは両立できる優れ物だから」
(どやどや)
「おっ! なんだ君達来たんだね」
「久しぶりってほどでもないな。元気か?」
「元気ですよ。皆さんもお変わりないようで」
「そりゃ夢の住人だからな」
「皆お前に感謝してんだぜ?そんな片っ苦しいのはなしにしようぜぇ」
「そうそう!こないだ『こん☆パ』の材料調達係とかいうやつがここに来て菓子用のかぼちゃを大量予約してったよ。珍しい物と交換してくれるみたいでさ。何だか楽しくなってきたよ」
「これを機に他の夢と連携していけるかもしれないんだ。そしたら不安も孤独も薄まるし、かぼちゃは皆に喜んでもらえる。万々歳さ」
「さすがパティね。行動が早いわ」
「伝えてくれたんですか?」
「ええ。情報料に一回無料権を勝ち得たわ。今度また行きましょうね(にっこり)」
「(ちゃっかり自分の益にしてるとこが流石というか)是非」
「そういうわけで、あーん」
「は、しません」
―――――何かとジャックさん達との交流が続いていたりする。和やかなひとこま。