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夢の旅人  作者: トトコ
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41.回帰する記憶(前)

人間の欲望程、醜くて、素直で、強いモノはない。

自分の欲求に素直で、貪欲に次から次へと願う人間を軽蔑し、愛した。

世界を発展させていくのも人の欲。そして世界を破滅へ向かわせるのもまた、人の欲だった。


どうしようもなかった…。

わたしは、ただ人の笑顔を見ていたかっただけなのに……。








「バル君!」

テリーは背後から現れた影に向かって叫んだ。茂みから現れたのはラドゥーの悪友の一人バルだった。

「無事だったのね」

湖に落ちたラドゥーの背後から出てきたという事実を失念して、顔見知りというだけで安心したテリーは、顔を綻ばせて駆け寄ろうとしたが、アルネイラが留めた。

「…どうして彼を突き落としたの?」

軽く首を傾げ、けだるげないつもの仕草。しかし声には僅かに警戒が滲んでいた。驚いたテリーは目を見張った。

「え…突き落としたって? バル君が? 何で? どうして? 嘘でしょっ?」

「…………」

アルネイラは疑問符ばかりのテリーの問いには答えずバルを見据える。

実際その瞬間を見た訳ではないけれど、この場に、この状況で、ただの偶然で、ラドゥーが消えたその後ろから姿を現すなんてあり得るだろうか?

「…そんなの間の良い物語の英雄じゃあるまいしぃ。バル君はそんなキャラじゃないでしょぉ?」

「思ってても言っちゃだめだよ、それ」

バルの容姿はどう贔屓目に見たって人人並。物語では、せいぜい素敵な王子様の後ろでおたおたする目立たない一従者、いや、名も無い村人Aポジションくらいかもしれない。そんなバルが素敵無敵なヒーロー役よろしくこんなタイミングで助けに入れるとはとても思えない。

「寧ろ、ムークット君ならそのタイプによねぇ。正統派な優しい王子様」

見た目はね、とアルネイラは心の中で付け足した。中身はちょっと分からないけども。

「白馬に乗って攫ってほしい…ってそんなこと言ってる場合じゃ」

軽く逃避してみるも、現在の状況が改善する訳も無く。しかし、アルネイラとて単にテリーと漫才していたわけではない。

アルネイラはバルの反応を見ていたのだ。普段の彼なら、必ず食い下がってくる筈だから。陽気な彼はつまらない話題にだって飛び付いて、何だって面白おかしくしてくれる。自分とその友人をネタにされて黙っているわけがない。

そう、普段の彼ならば。

「…重症ねぇ」

しかし、バルの反応はなかった。

彼はうんともすんとも答えてくれず、暗いガラス玉の様な瞳を、ただただこちらに向けているだけ。アルネイラ達の会話も聞いていたかも怪しい。たった今ドロテアによって水の中に沈められた人魚達と同じ類の瞳を目の当たりして、アルネイラは溜息を飲み込んだ。

「闇に取り込まれた人の子がここにも一人、か」

ドロテアはぐったり疲れたように髪を掻きあげた。

「この子も、貴女達のお友達よね?」

アルネイラとテリーは頷いた。ただ、今は不用意に近づけない見知らぬ人のようだけども。

アルネイラはテリーみたいに知り合いだからといって無条件に信を置いたりしない。様子がおかしい今、バルだって警戒対象だ。

アルネイラはちらとラドゥーが落ちたはずの湖を見やった。彼の姿はおろか水泡一つ生じていない。

「あの少年は消えたわよ」

「え、消えたって何処に? 湖に落ちちゃったんじゃないの?」

テリーはもう何が何やらな状態に陥った。よく分かっていないのはアルネイラだって大差ない。しかしテリーよりも冷静な分、情報を吟味する余裕くらいはあった。

「水飛沫も立ってないし、少なくとも湖に沈んだわけじゃないってことぉ」

「だから、なんで消えるのっ?」

「知らない。だけど、ここは普通の場所じゃないから、あり得ないことじゃないんじゃない?」

「飲み込みの早い子ね。あの少年といい、そういう子って結構珍しいんだけど」

「魔女さんに誉められるなんて光栄ですぅ。でも、わたしはただこういう不思議現象が大好きなだけですよぉ」

「…あ、そ」

「じゃあ、ムークット君は何処行っちゃったの…?」

テリーは支え棒よろしく寄りかかっていたラドゥーが失踪したことにより、不安が倍増した。

「私も何処に行ったかまでは分からない。でも、どうも脇から干渉してきた奴がいるらしいわ」

「え、誰ですか?」

「それも分からないわ。私にも皆目見当がつかないのよ。あの少年を守ってる“夢の旅人”か、それとも、別の目的をもった奴か…この楽園の住人ではないことは確かだけど」

「わたし達の味方ですかねぇ?」

「さぁ。助けたのか、私達と引き離したかったのか知らないけど、少なくともあの子が湖に落ちるのを救ったことは間違いないわね」

そいつの目的はさっぱりだが、あの湖の水を全身に浴びたら、ラドゥーらは窮地に立たされていた。

「ムークット君の行方が知れないっていうのは変わらないってことねぇ…」

彼は何処へ行ってしまったのか?

アルネイラは眉を潜めた。彼さえいれば、たいていのことはどうにかなるだろうと安心していたが、ここにきて彼と離されて一抹の不安を覚えた。彼なら自力でどうにか出来るが、自分達はそうもいかない。この先何が待ち受けているのか真っ暗闇を手探りで探るような心許無さ。

「……ふふ」

尤も、わたしは危険なことにわくわくしてしまう性質なのだけど。

アルネイラはオカルトクラブの会長を務めている。怪奇現象や心霊スポット巡りなど、日常にスパイスを効かせてくれる不思議で不気味な出来事が大好きだ。このスリル感が止められない。


それを承知の『本の虫屋ブック・ド・バグ』のおじじが、事ある毎にいろいろ・・・・な世界の面白いお話をいっぱい聞かせてくれた。夢の世界の挿話もその中の一つだった。夢の世界に来たのは初めてだけど、案外すんなりと受け入れられたのはその所為かもしれない。

だって、違う・・のだ。現実世界と夢の間には絶対的な境界線があった。何が違うと聞かれれば明確な説明は出来ない。ただ、違う、と感じるだけなのだが…


ここは、現を生きる人間の世界ではない。


そう感じるのだ。密接に合わさり、決して断ち切られることのない関係。少しならそこにいても許してくれる。でも、必要以上に居座ってはいけない世界だと。だから、夢は近くて遠い。

おじじの言葉が蘇る。


〈夢はの、疲れた人が休む為の世界なんじゃよ〉


現実世界に荒れ狂う濁流の中で、心身共にくたびれた人が、ほんの一時安らぎを得る場所なのだと。夜に見る夢も、本来はそういうものなのだと、つらい現実から逃げないための憩い場だと聞いた。

そういう意味ではおじじの店にも通じるものがあった。世俗から独立した様な独特の空気を纏う、石造りの貸本屋。

だからなのか、おじじの店の常連は大衆に混ざらない者が多かった。単純に読書が好きな者だけでなく、夢を真剣に研究する者や、アルネイラの様に不思議現象に多大な興味を持つ人間とか厭世的な人だとか、少々普通とは違う感性の持ち主で、非現実的なことにも寛容な人が多い。

それはつまり、普通の人が否定する事柄も、彼らはその目に現実として映すことが出来るということだ。アルネイラが夢の世界をあっさり認めたように。


それでいくと、一見ごく普通の学生であるラドゥーも、実は相当特殊な人間なのでは、と思い至って少し愉快な気分になった。

理知的ながらも取っ付き難いわけではない穏やかな彼。でも、その穏やかさは優しさではなく、暗い部分を抱えながら、なお笑っていられる度量の為である気がする。

自分のペースは崩さない。それは、周りと調和をとりつつも自分を保っているという意味だ。周囲の空気を敏感に感じ取って立ち回るという芸当。常にそういう立場にあらねば長期間その態度を保てやしない。


あの綺麗な顔で、どれほどの修羅場をくぐり抜けてきただろうか。


それに加え、いつからかラドゥーの周囲に緑色の光が纏わりつくようになっていた。

見える・・・アルネイラは、その正体が分からないながらも、そっと彼に寄り添っていることは気付いていた。明らかに普通ではない光だった。彼に何事かがあれば、その光の主が彼の元に駆けつけるだろう。それぐらい、緑の輝きは彼に優しかった。

だから、その光に惹かれたこともあって頻繁に彼をクラブに誘った。彼も充分こっちに理解を示すことが出来る部類だと思ったから。


あの光は、きっと夢の光。


扉の向こう。“扉放時”にその扉が開かれるといわれる伝説の世界。それが、夢の世界。

知る人など一握りもいない。テリーはそういう事には鈍感そうだから、説明されたって夢とは分からないかもしれない。

…もし行けたなら、怪物が蠢き、鬼が徘徊し、罪を犯した人間達が拷問を受けるといわれる鬼獄牢を期待していたのは秘密だ。


目に映った極彩色の美しい森を見た時、本当に楽園だと思った。確かにここなら、心が疲弊した人ものんびり出来るだろうと。

けれど、今はどうもきな臭い空気が漂っている様だ。変なピエロがクラスメイトを攫ってしまったし。もっと驚いたのは、ラドゥーがそのピエロと知り合いらしいということ。明らかに敵対していたが、今彼が消えたことと何か関わりがあるのだろうか。


そんな事をつらつら考えている内に、バルの視線はドロテアに向かっていた。

そして、貝の様に閉ざしていた口をゆっくりと開いた。

「……………食い物を寄こせ」


………………………………………。


「……え?」

テリーとアルネイラは目を点にした。食べ物?

「バ…バル君、お腹すいてるの?」

「お夕飯、ちゃんと食べてきたのぉ?」

口々にバルの身を気遣う。あんな暗い目をしていたのは、究極に腹がすいていたからなのだろうか。

「ご飯はないけど、飴ならあるよ。ポッケに残り一個入ってたやつだけど」

ガウンのポケットを探って彼に差し出そうとした。けれど、彼の言葉は終わっていなかった。

「土地を寄こせ……」

「水を寄こせ……」

食い物を土地を水を食い物を土地を水を食い物を土地を水を食い物を土地を水を食い物を土地を水を食い物を土地を水を食い物を土地を水を食い物を土地を水を食い物を土地を水を食い物を土地を水を食い物を土地を水を食い物を土地を水を食い物を土地を水を食い物を土地を水を食い物を土地を水を食い物を土地を水を食い物を土地を水を食い物を土地を水を食い物を土地を水を食い物を土地を水を


  寄            コ            セ


無表情に、矢継ぎばやしに同じことを呟き続ける様は異様だった。まるでバルの身を借りて別人が主張しているかの様な言葉に違和感を感じ、テリーは怖気立った。

アルネイラがドロテアの方を見ると、彼女の顔色は青を通り越して白くなっていた。ケンさんは支える様に彼女の傍に弓を構えて立った。

ドロテアは唇を戦慄かせてバルの方を凝視した。まるで、悪夢から逃げたくて、でも逃げられずに見ているしかないかのように。


「「「「「食い物を寄こせ……」」」」」

「「「「「土地を寄こせ」」」」」

「「「「「水を寄こせ……」」」」」


寄こせという言葉が重奏となった。声のする方―――湖を見ると、水底に沈んでいたクラスメイト達が地を這うゾンビさながらにずぶ濡れになりながら水辺に上がってきた。

髪が昆布の様に頬に張り付いて、無表情の顔に陰湿な影を作っていた。


あら、なんてシュールな光景。

比較的ホラー慣れしたアルネイラだが、そのゾンビな対象が、見知った級友だと話は別だった。ちょっと流石に鳥肌が立った。

「ひっ! え……な…何、何なの? リリー…オルネッサぁ…」

アルネイラでさえそうなのだから、テリーが恐慌状態に落ち入るのは当然だった。眦に涙を溜めながらアルネイラにしがみ付く。アルネイラはテリーを背に庇いつつ、ケンさんの隣の傍に寄り、バルと他のクラスメイト達が輪を狭めてくるのと向き合った。

人魚たちに振る舞っていたのは何処絵やら、今のドロテアは放心したように身動ぎ一つしない。

ケンさんは弓で結界を貼り周囲を威嚇する。

でもそれも時間の問題だ。魔法というものは無闇に人に向けてはいけない。ただ操られているだけの、人の子に、そんな危険な刃は向けられない。

クラスメイト達は結界を破ろうと、拳でドンドンと力任せに見えぬ壁を叩きつけた。

結界の見えないアルネイラ達人間組は彼らがパントマイムをしている様に見えたが、彼らのぼんやりとした顔を直視する羽目になり、元々怖いものが苦手なテリーはついに気絶した。


アルネイラはどうしようと考えた。いや、今自分が出来ることなど何もないが。

この訴えは間違いなくドロテアに向いている。この醜悪な声は、そのまま人間の欲望の塊だった。ひたすら食糧と土地と水を求めている。

「どうして……」

ぽつりとドロテアが呟く。悲愴な色を添えて。

「くっ…もうもたんぞ! ドロテアッしっかりせぬか!!」

焦って声を荒げたケンさんの声もドロテアには届かない。ただ、彼らの声に押しつぶされ、地に目を落とし、項垂れた。


ついに、結界にひびが入った。

あれに掴みかかられたらどうなるんだろうと、諦めかけたその時―――――



「凪げ――――風車かざぐるま



凛とした声が響いた。その声に、血管が浮かぶほどに力んでいたクラスメイト達の身体がだらりと弛緩した。ドロテアはその圧倒的な力に驚いて、弾かれた様に顔を上げた。

地に倒れ込んだ仲間達の向こう。エメラルドを糸にしたような美しい髪をした絶世の美少女が立っていた。

「………………」

「………………」

両者とも暫く見つめあった。ドロテアは現状を把握しようとして、エメラルドの少女は誰かを探す様にして。


「…あの人の気配がしたからここに来たんだけど……あんた達、ダレ?」


少女は不機嫌そうな、しかしそれでも耳に心地よい声で、ぞんざいに言い放った。







「うん? うう…ん」

エルメラは首を傾げた。今現在エルメラがいるのは極彩色の豊かな森だった。

「ラゥの気配を追ってきたけど…ここ…」

エルメラは首を捻った。夢は夢だが現実世界の風が流れ込んでいる。

「ああ、共存しているのね」

それに思い至った時眉を刎ね上げた。それが出来る者が存在しているのに驚いたのだ。

「魔女の世界にちょっかい掛けるアホは“奇術師ヤツ”くらいよね…」

餓鬼や夢魔達の中にも、力のあるやつがいないことはないが、現実世界と夢の世界を長期間共存させていける魔女にちょっかい掛けられる程はない。

しかし、繋いだ現実世界は複数。それを成し得る主は相当力を消耗しているはずだ。理由は知らないがご苦労なことだ。感心したのは一瞬。エルメラの興味の対象はすぐに変わった。そんなことよりも“奇術師”への不快感が勝った。


やっぱりヤツはあの時、問答無用で叩きつぶしておくんだった。


心の中で舌打ちし、物騒な事を考えつつ森を散策する。

豊かな実りある森。鮮やかな緑、咲き誇る花、たわわに実る果実。

でも…

「静まり返ってる」

豊かなのに、寂しい。

魔女の夢の世界ともなると国レベルで統括がなされているものだ。秩序を作り、そこに身を寄せた夢人は殆ど現実の世界と変わらない生活を送れる。“夢の旅人”は自分の都合で生きた夢を作るため、夢の質にムラがあるが、魔女はそんなものない。一度懐に入れた者は最後まで守り通す。夢は人の安らぎの空間であり、魔女はそれに従属する存在だからだ。

夢はそもそも“魔女”の世界だったと云われている。夢こそが彼らの生きる世界。人にとっての現世。均質な優しさを望むだけ与えてくれるモノ。

その筈だが、ここには殆どヒトの気配を感じない。

「ここは、夢人が住めないってこと?」

何故。何か思いつきそうだったが、ここの主の魔女の事情に興味など無かったのでさっさと放棄した。

そんなことよりもラドゥーだ。ここにいるのは確かなのだが。

「闇が濃いわね…鬱陶しい」

人差し指と中指を揃え、唇に軽く触れて呪文を紡ぐ。


「切り裂け―――鎌鼬かまいたち


風の刃が容赦なく粘つく闇霧を切り裂き霧散させた。エルメラならこの程度、造作もない。

しかし、主の魔女のいる方はそうもいかないだろう。力はあれど、夢と現を共存させるのは、身を削るも同然。複数ならば尚更である。つけ込む隙が出来てしまう。


かさり、と茂みが掻き分けられる音にエルメラは振り返った。

「…へぇ」

エルメラの目が細められた。

姿を現した彼らは、どう見ても人間だ。夢の住人ではない。そして服装がラドゥーの世界のものだと気付き、嫌な予感がした。

まさか、ラゥにちょっかい掛けるために“奇術師”が?

ならば、この少年少女達はラドゥーと同年代だ。彼の知り合いの可能性がある。。つまり…傷付けるわけにはいかないということだ。面倒だが、仕方がない。


「凪げ――――風車かざぐるま


優しい、風車がカラカラ回るにはちょうどいい強さの風が彼らを包む。風車は子供をあやす道具。そういうのには悪いモノを落とす力があるものだ。荒立った激情を撫で静める力。少年達が、かくんと力が抜けて地に転がった。

エルメラは彼らに近づき、さらによくよく見てみると手足のあちこちが爛れていた。勿論エルメラが付けたものではない。

ではこの傷は何?

「……まぁ、別にいいか」

とりあえず、人間は夢の世界に守護なく長く留まるべきではない。さっさと送り返してやりたいが、不可侵のルールの為に、彼らを返せない。おそらくあの鎌男が連れてきたのだろうが。

彼らが望めば出来ないこともないが、生憎今は意識が戻りそうもない。そしてエルメラには気付けてやる気もない。ラドゥーの知り合いかもしれないから、助けてやったが、そこまでする義理などない。無条件で望みを聞くのはラドゥーのみだ。


とりあえず風の力で一括りにして纏めておく。目が覚めた時にまた誰かに襲いかからないように。

「あっちの方でも魔力の気があるわね…」

ラドゥーもそこにいるかもしれない。彼らを引きずって魔力の流れてくる方向に向かった。





「うわ」

その魔力の源に辿り着くと、とある世界の陰湿なホラー映画の典型的な場面を地で行っている事態に遭遇した。

湖から浮かび上がり、地を這って結界にへばり付く。それだけでも不気味だが、さらにその結界を壊そうと力任せに結界を殴っていた。

そのゾンビ軍団は、先程拾った少年少女達と年恰好が似ていた。ずぶ濡れの彼らも、拾った子達同様、軽い火傷のように爛れた部分があった。

「……念の入ったホラー演出?」

思わず馬鹿な事を呟いてしまった。ンな訳ない。と一人突っ込み。

見物している内に、結界が破られそうになった。


ともかくゾンビな少年達に囲まれた結界の中に彼がいるかもしれないので急ぎ呪文を唱える。


「凪げ――――風車かざぐるま


ゾンビ少年達が倒れる。同時に結界が霧消し、結界内の人物が現れる。

そのうちの一人と目が合った。


「………………」

「………………」


ラゥがいない。無駄骨だったらしい。そうと悟ればエルメラは自然と不機嫌な口調になった。


「あの人の気配がしたからここに来たんだけど……あんた達、ダレ?」




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「今回は俺の世界というか、自分の街の周囲の地理状況を説明します」

「街と言うには広すぎる面積だけどね」

「…ええと、まず、俺の街、グリューノスはダンクルという国に治まっていますが、自治権があるのでグリューノス本家が街を治めています。国から派遣された軍警や役人などもいますが、我が家の力は大きいです」

「で、その周囲の街は?」

「東に位置しているのは農業が主流のミティ。長閑ですよ。で、西に位置しているのは技巧の街、ノックス。ここで作られる時計は最高級品です。北西にダンクルの王都があります。で、グリューノスの南にキグの樹海があって、そこを抜けるとムノア砂漠という不毛地が広がっていて、その砂漠の向こうにギータニア帝国があります」

「近いの?」

「ムノア砂漠事態はそこまで広くないのですがかなり危険な生物も多くて、その昔、グリューノスがまだ国として独立していた時代では、帝国からその砂漠がグリューノスを守っていてくれたんです。よしんば砂漠を抜けても今度は『酩酊の森』とあだ名される樹海がはだかるので帝国が領土を広げようと戦争を繰り返していた時代でもグリューノスには手が出せなかったとか。だから帝国は遠い感覚がありますね。今は友好条約を結び、鉄道も通って身近になりましたけど」

「山とか海は?」

「ノックスやミティに小さいながらも険しい山脈はありますよ。うちにも鉱山はありますが、観光出来るほど綺麗じゃないですし。海は…グリューノスは内陸ですし…ギータニアは海に面しています。海からやってくる侵略者に備えて海軍にも力が入っています。その武器の元となる鉄などの輸出は殆どグリューノスが独占状態ですね。かなり儲かってます」

「いろいろお国事情があるのね。だからグリューノスは強い権力を保持しつつ独立してられるのね」

「そうですね。当時のグリューノス当主らはやり手だったみたいですね」

「……将来貴方もグリューノスを率いていくのね」

「そうですね。…いつかは」


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