38.さあ、ゲームを始めよう。
ダイパルソンの朝は早い。
…と、いうより、寝る必要の無いダイパルソンにとっては朝も夜もないので、現において一般に“朝”と定義されている頃合いに、“朝”の行動を始めるだけだ。
睡眠という行為は出来なくもない。
静かに目を閉じて、まどろむ程度には確かに眠ることはできる。しかしながら、夢の住人には実体がない。“夢の旅人”やその他の種族は反則的に事情が特殊ではあるが、現実世界の人間のような確固たる生身の身体が無いという点では一緒だ。
そんなほぼ精神体の夢の住人にとって、睡眠はある意味自殺行為だ。眠れば一時的に意識手放す。それはつまり夢の世界と同化するということ。夢の住人には眠れば最後、目覚めることなくそのまま深淵の闇に溶けてしまうのではという恐れがある。実際、夢人が消える場合がままある。
そんなわけだから夢の住人は、よほど心が休息を求めているのではない限り眠ることはない。
ダイパルソンも例に洩れず睡眠を滅多にとらない。怖いからという理由ではなく、自分の趣味に持てる時間全てをつぎ込んでいたいからだ。見たい夢のない。そもそも夢の住人は夢を見ない。
夢の世界は閉じたヒトの瞼のその先にある。夢見た世界は理想とはかけ離れた姿を伴って、しかし楽園の一端をちらつかせて目の前に広がっているのだ。
「今日は…アバラッテ帝治世二年、二四七日目、だったかの」
日付というものはとても便利だと指を折りながらしみじみ思った。生前は日時など考えたこともなかったが、この世界で生きるようになってからは、近くの現実世界の暦を使い、自分が今、いつの時代に生きているのか把握するようになった。
そうしなければ、夢に生きてからまだ一日目なのかとっくに百年経ってしまっているのか分からなくなる
のだ。
眠らない、ということは新しい日に出会えない、ということだ。時は絶え間なく進む。今日は昨日の延長線上にあり、日が沈み、今日と別れを告げ、日が昇り、目を覚まして新しい今日に出会う。決められた時の中で生きる者達には当たり前のことだが、夢の住人は時間間隔が曖昧になる。
それに、たまに現実世界に紛れこむ時、そこで使われている言語に齟齬が生じてしまう場合もあった。つい先月来たばかりだと思っていたら、現では一世紀経ってしまっている場合も少なくないのだ。
夢の住人には言語の壁などないが、言葉の意味が分からないことには仕方ない。言語も変化する。たとえ同じ土地で子々孫々が代々暮らしていたとしても、時代の変化とともに世界も形を変えるのだ。
不変な夢に生きる様になってからはそれがよく分かる様になった。
「あれ、出来てる?」
粗茶を飲んで仕事を再開しようとしたダイパルソンの前に、緑玉の輝きを放つ美しい少女は突然現れるなりそう言い放った。十年に一度来れば頻繁と言える位には珍客な彼女は、どういう訳か最後に来てからから一年経たずに再びここに舞い戻ってきた。
「…お前さん。いつもいつも思うがわしをなんだと思っとるのかね?」
「気の触れた天災魔具職人」
「そうでなくてだね……いや、間違ってはいないが…」
あんたに比べればわしは常人だと主張したい。
「何が言いたいの。私はあんたと無駄話してる暇はないわ。『ティンカーベルの粉』は出来た?」
暇はないという言葉に天災魔具職人は自嘲気味に笑った。
「暇…ね。わしらは常に暇を持て余しているだろう」
ヒトの一生分の時間を暇つぶしに使えるくらいは。
「あんたに割く暇が無いだけ」
「………愛想という言葉を何処に置いてきた」
気紛れで、冷淡で、無関心と囁かれる“姫”。それは真実だ。美しいが表情の伺えない彼女は本物の人形のよう。
「あんたの家の前で捨ててきたわ」
ここに来る時までは持っていたというのだろうか。俄かに信じ難い。昔――といっても軽く数百年前だが――気まぐれに色々な伝説を築きあげた他人の都合などお構いなしの少女だというのに。
「…こないだも魔具を創れと無理難題吹っかけられたしのぉ…」
ついこの間も、いきなりやってきたかと思えば唐突に自分の力を貯め込める魔具を創れと言い渡された。
仰天したなんてもんじゃない。
『無能なる支配者』の愛娘たる“姫”の力を、一部とはいえ貯め込める魔具など易々と創れるものではない。それを数日で創れと言ってきたのだ。
可能かどうかも分からない、当初は断ろうとした。しかし、根っからの研究者の探究心と、少しだけ、ホントに僅かだけだが“姫”が焦っているように感じた。それで結局了承してしまった。
とはいえ、“姫”の力に耐え得る魔具の素材なんて思い浮かばない。たっぷり三日分考え尽くして、ふと頭を擡げた。“姫”の力は“姫”自身で抑え込めばいいのではないか、と。
「身体の一部?」
ダイパルソンが駄目元で言ってみた提案に、案の定“姫”は眉を顰めた。やっぱり“姫”の一部は等価交換にはならないか、と彼は諦めかけた。
夢の世界での取引は等価交換が基本だ。ダイパルソンの場合、魔具を依頼してきた者に材料収集を行わせる。その魔具を創った際に余ったそれを対価として貰う、という仕組みだ。
ダイパルソンの顧客は大物が多く、貴重な素材をもたらしてくれる場合が多い。目の前の“姫”はその中でも極上の顧客なのだが、今回は材料が自分自身。“姫”の一部など爪の切片さえ一角獣の角以上に貴重過ぎるのだ。
「…指とか?」
ダイパルソンは顔を上げた。指?
「あの人の前では五体満足でいたかったんだけど…でも、どうしても必要なら小指とかなら…」
一体“姫”はどんな恐ろしい事を想像しているのか。
「いやいやいやいや、待て待て待て待て」
恐らく鉈を探しているだろう“姫”を焦って止めた。知らぬ人から見れば怪しげな素材や器具満載(彼にとっては宝の山)にはあらゆるものを切り裂く危険物も多い。
「…髪! そう、髪の一房でもくれれば充分じゃよ」
魔法と括られる第七感の力は、身体の一部に宿る力を使って繰り出すか、その世界に漂っている源を借りて行使するかの主に二種類。ダイパルソンの見立てでは“姫”のはどちらも可能だ。なら、その髪一筋にも相当な魔力が備わっているはず。
「髪でいいの? あんた人体実験とかよくしてるじゃない。何うろたえてんのよ」
若干拍子抜けしたような“姫”の顔を見て、ダイパルソンはほっと肩を落とした。
「“姫”相手にそんな破滅行為するものか。それより…それで、いいかね?」
“姫”は二つ返事で了承した。
さて、難しい注文を受けてしまったものだ。
しかし、“姫”の髪を貰える事になったダイパルソンは職人魂が燃え上がるのを止められなかった。彼女の髪一本を仕込むだけでそんじょそこらの魔具よりもずっと優れた物を創る事が出来る。それを、純度百%の物を創るのだ。ダイパルソンは研究者で職人。拘る事に関しては何処までも深みに突き進んでいく人種だ。どれだけの物が出来るか考えるだけで興奮で顔が赤くなった。
しかし、冷静になってからふと気になった事があった。
彼女は誰にこれを贈るつもりなのか。
職人として依頼人の希望に最大限応えるために、私情を挟まぬ為、依頼者の事情には踏み込まない事にしているダイパルソンだが、“姫”が漏らした“あの人”という発言が気になった。
あの“姫”に対してそれだけの事をさせる誰か。
踏み込めばおそらく“姫”の逆鱗に触れる。それくらいは分かる。だから何も聞かなかった。けれど、彼女は全てを抱く『無能なる支配者』の“星姫”だ。その“姫”とて探し物を求める“夢の旅人”。だから彼女の以来の理由がそれに関わることだというのは容易に想像が付く。
背筋が冷えた。
“姫”が“探しもの”を見つけた…。それは、想像以上に、大変な事態ではないだろうか。
何はともあれ、何日か一睡もせず(いつもの事だが)、魔具の製造にとりかかり、なんとか完成した。
エメラルドグリーンに輝く編み込みの入った一見シンプルなブレスレット。エメラルドを糸状にしたような美しく繊細な物に仕上がった。これを身に付ける者に絶対の守護を与える鉄壁の盾であるそれを“姫”に渡したのが数カ月前。
そして今また“姫”が姿を見せた。今度は別件だ。
「出来とるよ。そろそろかと思っておったからの」
ダイパルソンは手のひらに乗る位の黄色い蓋の小瓶を少女に手渡した。
「あのボロうさぎは相変わらずのようだ」
「全くね。少しは大人しくしててほしいものだわ」
エメラルド色の少女に渡した品は『ティンカーベルの粉』と名付けた砂金のような粉である。
ティンカーベルという、きらきら光る鱗紛をまき散らしながら軽やかに飛ぶお茶目な妖精がいる。その鱗紛の様に、この粉はかけられた対象に纏わり付き、通った痕跡が視覚化出来るという効用があることからダイパルソンがそう名付けた代物だ。
ただし、本物のティンカーベルの粉ではかけられた者は飛べるようになるが、これはただ通った痕跡を残すのみだ。しかし一振りでその効果は半年もつ持久品である。エルメラは主につぎはぎに使用している。いつもいつも勝手に遊びに行ってしまうつぎはぎを見つけやすくする為に。
「こないだまでやってた隠れ鬼には足りなかったけどね…」
「おや、もうそれは終結したのかね」
ダイパルソンは何度かここにつぎはぎが来ていないか押し掛けられた事があるので、一世紀続いた隠れ鬼騒動を知っていた。
「ええ勿論よ。とっ捕まえてやったわ」
心なしか少女は満足げであった。感情を見せるなんて“姫”にしては珍しい。
「…よく見つかったの」
図らずも某腕輪の受け取り主と同じような感想を抱いた。
“姫”はそれ以上答えず、踵を返してダイパルソンの住処から出ていった。
「…そのおかげであの人に出会えたというのなら、運命も馬鹿に出来ないわね」
ぽつりと落とされた呟きは、誰に聞かれるともなく闇の中に消えていった。
消えていく…
砂時計の砂のように、上から下へと止めどなく、サラサラと、サラサラと…
〈昔々、あるところに、とても意地悪なおばあさんがいました。
そのおばあさんは人里離れた寂しいところに住んでいました。
けれど豊かな森、日当たりのいい草原、底が見えるくらい澄んだ湖のあるとても広い土地をおばあさんは持っていました。
ある時、おばあさんの住んでいる近くに数人の人が移り住んできました。
彼らは自分達が住んでいた国を戦争によって失くしてしまってここに流れてきた人達でした。
ある時、人々は食べ物を求めて森に実る木の実や果物を求めました。
おばあさんに山に入らせてくれるよう頼みました。
おばあさんは言います。
「だめだめ。この森の物は何一つ口に入れてはいけないよ」
仕方なく、人々は自分達の住む村の小さな土地を耕して畑を作る事にしました。
ある時、村の人口が増え、人々は耕す畑が足りなくなり、別の土地が必要になりました。
おばあさんに日当たりのいい草原を貸してくれるよう頼みました。
おばあさんは言います。
「だめだめ。この草原に何人も近づくのは許さないよ」
仕方なく、知恵を絞って一つの苗に沢山の実がなるように改良する事にしました。
………………………………………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………〉
もう半分も思い出せない。それとも、最初から知らなかったのだろうか。
この物語が自分にどんな感想をもたらしたのかも、どれほどこの物語を気に入っていたのかも覚えているのに、内容だけが消えていく。
もがいても、手を伸ばした先には何もなく、為す術も無く、消えていくのを感じているだけだった。
ラドゥーの腕から、パタパタと真っ赤な水が滴った。
「…少し間に合いませんでしたか」
ドロテアを突き飛ばした腕を引っ込めるのに間に合わず鎌がラドゥーの腕を裂いた。だが掠めただけだ。それなのに、どういうわけかひどく腕が重かった。
―――だが、使えないことも無いか。
指を動かすだけで激痛が走るものの、それを無視してナイフを振るえないこともない、と自己診断を下した。
「ム…ムークット君っ! だ…大丈夫?」
テリーの悲壮な叫び声が耳に響き、意識を戻した。
ここには何も知らない同級生がいるのだ。無茶を通してでも引くわけにはいかない。
だがラドゥーは歯噛みしたい気分だった。“奇術師”が出てきてしまった。これでも何でも無いと誤魔化すのはもはや不可能だ。
夢の世界での出来事は、夢から覚めた時にその夢が消えていくように記憶が曖昧になるらしいが、その余韻は残る。恐怖なら、なおさら。
それに、全ての夢が記憶から消えるわけではない。ずっと記憶に残る夢も確かに存在するのだ。
「俺は大丈夫です。貴女達は少し後ろに下がっていてくださいね」
かろうじてそれだけを言った。けれど視線は“奇術師”から離さない。
この危険人物から目を離す程余裕なんてあるはずがなかった。守る人を背に庇っているこの状態で、緊張の糸を切る馬鹿はいない。
テリーの駆け寄ろうとする気配を感じてひやりとしたが、即座に彼女を引きとめるアルネイラに安心した。アルネイラの冷静さは一方ならない。元来の気質が悠揚であるせいか、物事に動じにくい。冷静にその場の状況を鑑みて、後ろに引っ込んでいた方が無難だと言われずとも悟った。
彼女は、信用できる。
こんな時だが、ラドゥーの本来のあちら側に引きたてたいと思った。
「これが…“奇術師”なの?」
ドロテアが剣呑に睨みつけた。針金の様な体つきのそれ。見た目からして不気味である。
ピリピリとした空気があたりに充満している。しかし、“奇術師”の周りではうそ寒い程の暢気な空気。
この生き物は殺意なく人を殺せる。この間も殺気など殆ど感じなかった。
逆に言えば、殺気の交じる時は本気ではない。楽しみたいと思っている場合だ。殺意を向けられて、それでも真っ向から跳ね返そうと闘志を漲らせる者など滅多にいないから。
「で…何の用です?」
ゆっくりと、懐のナイフを取り出した。しかし手は太腿につけたまま。
「遊ぼうよ」
まるで親しい者に対する様に無邪気に誘う声。ざわざわと背筋が泡立つ。
「生憎、暇ではありませんので」
「それじゃぁねぇ…宝探ししようか」
ラドゥーの言葉など聞いていなかった。“奇術師”は黒鎌をくるくる回しながら勝手に話を進めた。
「宝探し…?」
「そう、キミの宝を何処かに隠したよ。全部で二九個」
ラドゥーははっとした。その数は…
「肝試し参加者の残りの数」
アルネイラが呟いた。
そうだ。全部で三十二人。今いるのがラドゥー達三人。つまり残り全員が、ラドゥーの宝だというのなら…
「彼らを何処にやった…」
「大事な遊び道具だもん。傷付けてないから大丈夫だよ」
「何処にやったと訊いているんだ」
努めて冷静に言葉を発しているが、ふつふつと怒りが湧き上がるのを止められない。
普段なら、たとえ最愛の弟妹を攫われたとしても、冷静に振る舞う自信があるのに。
〈―――闇に引きずられないで―――〉
エルメラの言葉。これがそうなのだろうか。
負の感情を嫌でも引き摺り出されるこの感覚は、吐き気がするほど不愉快だ。それを振り払おうとして荒れて、また闇に引きずられる悪循環。確かに抜け出すのは難しそうだ。
ケンさんの蹄の音がした。おそらくケンさんはアルネイラ達を庇うために寄り添ってくれたのだろう。ケンさんはそれなりに強い。この程度なら耐えられるだろう。
落ちつけ。これを打開するのは俺だ。背後は彼に任せればいい。彼がいる限り彼女らに危害は及ばない。
ラドゥーは深呼吸した。エルメラの腕輪を意識する。すると、不思議と心が落ち着いた。
「ちょっと…待ってよっ。私の許可なくここを引っかき回すのは許さないわよ!!」
ドロテアの抗議は黙殺された。ラドゥーは“奇術師”に掴みかからんとする彼女を目で制した。ドロテアも夢の住人。目の前の道化が危険なものを内包しているのは本能的に分かるはずだ。
自分の夢を踏み荒らされるのは我慢ならないだろうが、ここで“奇術師”と争うのは得策でない。ここには“彼女”もいない。
「遊びには、ルールがいるでしょう」
だから、“奇術師”の出方を見るしかない。
「ここは森と湖と草原とに分かれているんだよネ」
“奇術師”はくるくる回していた鎌をいきなり布に変えた。鎌と同じ真っ黒な布。
「その区域内に宝物を隠した。それを全部見つけられたらキミの勝ち。途中で挫折したらボクの勝ち。制限時間はナシ。好きなだけガンバッてヨ。単純でショ?」
ルール上は、確かに単純である。しかし…
「ただし、その道のりに、もちろんボクが用意した邪魔が入るヨ」
毒々しい道化衣装の彼は付けたした。
「その途中で、キミが動けなくなった時点でゲームオーバー。その代り、誰かの手助けだって存分に受ければいい。ゲームは公平でなきゃ面白くないしネ」
あの時も、こいつは確かに出口を残していた。ただし、決してくぐる事の出来ないゴールを。
勝算ははっきり言って薄い。動けなくなるということは、言うまでもなくラドゥーの死を指す。夢の世界で死ぬとどうなるのかは分からない。危険は承知の上だ。ここで引き下がったら友人らの命が危ない。
相手は、暇つぶしに人を屠る殺戮のピエロ。彼は同級生達を無傷で攫った方が楽しめると踏んだ。だからきっと彼の言葉に嘘はない。ラドゥーがこの提案に乗らなければ、確実に彼らの首を捥ぐだろう。ならラドゥーの答えは一つだ。
「――――良いでしょう。受けて立ちましょう」
ニィっと楽しげに笑う気配がした。
先程出現させた黒い布を自身に巻きつけた。
「さあ、ゲームを始めよう」
言うや否や溶ける様に“奇術師”が布ごと消えた。
現れた時の様に唐突に消えた。まるで性質の悪い悪夢の様に。
「………」
腕の血はとうに乾いてこびりついていた。しかし、傷の痛みはいっこうに引かない。しかしその痛みがラドゥーの頭を冷まし、かえって直面した事態を冷静に受け止めさせた。
唐突に始まったゲームという名の戦いの火蓋が切って落とされたという現実を。
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「夢の住人とは生きる事を諦めた者の総称。以上」
「唐突に重い話題を持ちこまないでください」
「それ以上何を言えばいいというの」
「知りませんよ。夢の住人のことなんか。例えば夢の住人が夢に来る理由とか、“夢人”と“夢の旅人”の違いとか…」
「千差万別」
「そうなんでしょうけど…でも」
「“夢人”と“夢の旅人”は、まあ意志の強さの他に“探しもの”があるのかどうかの違いもあるわ」
「“探しもの”…ジャックさんに聞きました」
「夢人に多いのは、現実世界で生きる事に意味を見出せなくて夢に逃れるって理由が多いかな」
「ですが、生きる事に希薄なら夢の世界でもそう長く生きられないのでは?」
「そうね。そういう奴らの六割が僅か数年で消えるわね」
「残りの四割は?」
「諸々の理由で現実世界にいられなくなった人とか、宿る意志は強いのに、現実から退く必要があった人はしぶとく夢で生き残るわ」
「どういう経緯でそんな事態になるのか想像つきませんが」
「人生何が起こるか分からないのよ」
「貴女に言われると凄い響きます。夢の住人になるにはどうすればいいんですか」
「…聞きたい?」
「え?」
「聞きたい?」
「……いえ、遠慮しときます」
「あら残念」
「……。あ、そうだ。エルメラ」
「なぁに?」
「エルメラの“探しもの”ってなんですか?」
「………………」
「………………?」
「……秘密」
「気になる間がありましたが…。あ、ちょっと待って下さいっ」
「…言えないわよ。でも、いつかは知る事になるでしょうけど―――必ず」