35.肝試し in キグの樹海
「よお」
来訪者は突然だった。
「いきなり誰かと思えば…来るなら来ると手紙の一つくらい寄越して下さいよ」
「何を水癖ぇ。俺とお前の仲じゃねぇか」
「はて…俺は人様の部屋に勝手に侵入した揚句、俺の楽しみにしていたおやつのタックァを一人占めするいやしんぼさんと知り合いになった覚えはありませんが」
「嫌みな歓迎ありがとよ」
ラドゥーは笑った。
「ご機嫌麗しく、お元気そうでなによりです。クローガ様。いつも冴えないお顔ですが、本日の御顔はまた格別ですね」
態度だけは国主催の式典張りに恭しく一礼する。
「俺は勇猛で精悍で無敵にステキな御方だと評判なんだぞ。…ま、お前もそのえせ臭い笑顔が健在の様で何よりだ」
「失礼ですね。わたしの笑みはいつだって心からのものなのに」
「お前は白か黒か判別しづらいのが一番性質が悪いんだ。いっそ全部黒く染まっちまえ」
「心外ですね。社交の場ではご婦人方に真っ白な天使の微笑と褒めていただいたこの笑みをお疑いになられるとは」
「ほう。その真っ白なお前に俺はガキの頃にされた数々を忘れてはいないが?」
「いい思い出ですね」
ラドゥーは優しい笑顔を少しだけ崩した笑い方をした。
「全くだな」
クローガは、はっと吐き捨てるように笑った。
一瞬だけ見つめあった二人は、ごつっと拳をぶつけあった。
「お前、最近動き回ってるそうじゃないか」
「動いているのは今更じゃないですか」
「そうじゃねぇよ。表立って動いているって意味だ」
ラドゥーは紅茶を啜って答えなかった。
「ま、良い頃合いだ。いい加減煩いやつらを黙らせるべきだろ」
「…遅すぎたかもしれないとさえ思ってます」
「なんで?」
「馬鹿は放っとくとつけあがる、というのを知ってましたがまだまだ甘かったようですから」
「ああ、ちょっと変な動きをしてやがるやつらがいるな」
「ええ。…少々、やりすぎだと」
「お前のことだ。じわじわ甚振って追い詰める手立てを考えてるんだろ」
「失礼ですね。周囲に迷惑をかけずに自己清算できるよう、手引きして差し上げているだけじゃないですか」
「それを甚振ると言うんだ。えげつねぇ。で、どんなことを考えてるんだ? いや、お前のことだ。もう動いているだろ」
「二度手間になるので…リオから聞けばよろしいでしょう?」
クローガのカップを持つ指が微かに動いた。
「……何の事だ?」
「しらばっくれなくてもいいですよ。俺と貴方の仲じゃないですか」
穏やかなグリューノス家の後継者の目は決して笑ってなかった。
「……いつからだ?」
観念したクローガは両手を上げて首を振った。
「まあ何となく。でも、辞めさせはしませんよ。このまま俺のとこに置いとくつもりです」
「お前んトコの情報が筒抜けだと知っても、か」
「何が言いたいんですか? 別に貴方に知られて困るような真似はしてません。リオはとても役に立ちますから離したくないだけです。貴方に歯向かう気は毛頭ないんですから。寧ろそういう輩を根絶やしにする側です。知ってるでしょう?」
「………」
二人はしばし無言で見つめあった。
「…言っとくが、別にお前を疑った訳じゃねぇぞ」
ばつが悪そうに顔を逸らしたクローガに、ラドゥーは少し表情を緩めた。
「ええ、分かってますよ。貴方の立場ではそれも仕方ない。疑うのが仕事みたいなものですからね。だからわたしも怒ってないでしょう。グリューノスの名はそれだけ重い」
ラドゥーはティーカップを置き立ちあがった。
「何処に行く気だ? もう“扉放時”じゃねぇか」
「俺は一般庶民の学生です。遊びたい盛りの友達との付き合いがあります。貴方ばかりにかかりきりという訳にいかないんです。――――いるな、リオ」
ラドゥーは扉に向かって声をかけた。
「………」
リオはすっと音もなく部屋に入ってきた。珍しくその顔には笑みが形作られていない。
「この方の用向きはお前が全てみろ」
リオは深々と頭を下げた。
「帰りは遅くなるんで、大人しくここで留守番しててくださいね」
そうしてそのままラドゥーは出て行った。
後に残ったクローガはぽつりと呟いた。
「さすが…次代を担う男、か」
リオのことを気付いていながら平然と傍に置くその度量。
「リオ。お前、あいつの傍にずっといたいか?」
リオは柔らかく笑って頷いた。
「あ、来た来た! ムークット君」
ラドゥーが歩いてきたのに気付いた女の子がラドゥーに向かって手を振った。
「すみません、遅れてしまいましたか?」
「全然大丈夫っ。まだ早いくらいだよ」
女の子は頬をうっすらと染めてラドゥーに笑いかけた。
今夜の集まりは学校の奴らと肝試しをするためのものだ。こないだうっかり埋め合わせすると言ってしまったのでラドゥーは参加を余儀なくされた。
あたりを見渡すと、すでに見知った顔ぶれがちらほら集まっていた。中にはアルネイラもいた。まあ、当然と言えば当然の顔ではある。
「ファルデさん」
ラドゥーは自分からアルネイラに近づいた。
「あらぁ、ムークット君…」
一緒に話していた子から顔を逸らしてラドゥーに向いた。
「こんばんは」
「こんばんはぁ、貴方も参加してたのねぇ。オカルトに興味が出てきたぁ?」
とろんとした目で笑うアルネイラにラドゥーは苦笑した。
「いいえ、あいつらに無理矢理来させられたんですよ」
「あいつら? ああ…あのおバカさん達ね…ムークット君とよくつるんでる」
確かに奴らは成績がそれほどよくない。出席でも呼ばれる順番は後ろから数えた方が早い。だがそれでも名門と名高いラドゥー達の学校の生徒だ。世間一般基準から見るとエリートもいいトコのはずなのだが、アルネイラにかかれば出来の悪い悪ガキと相違ないらしい。
「おバカって…彼らもうちの生徒なんですがね」
「頭の事じゃなくてぇ、女の子に対する振る舞いのことよぉ」
「…ああ」
それにはラドゥーは深く頷いた。奴らは年中遊びたい盛り、女の子にガッツきたい盛りなのだ。今日の企画だってあいつらが、無い頭を捻って必死で立てたもの。
「だからってこんなに集めるとは…」
美少女ランキング上位者のアルネイラを初め、学内のきれいどころを集めてきたのには感心した。尤も、アルネイラの場合は、この企画自体が目当てなのだろうが。
こないだは美少女ランキング名簿者にフられ、女は顔じゃないとかなんとか言ってたくせに。何度も同じ轍を踏む。あいつらは馬鹿なのか。
そう内心毒づくラドゥーに悪意はない。しようのない気心の知れた悪友達だからこそ、こうやって遠慮なくけなせるのだ。
「悪ぃ悪ぃ、遅れちまったよ」
「女の子待たせるなんてサイテー」
最後の一人が数分遅れでやってきたところで、会場となる森の奥へ固まってぞろぞろと歩く。ラドゥーは成り行きでアルネイラと並んで歩いた。
「結構集まりましたね」
数えていないがだいたい三十人くらいいる。六:四の割合で女子の方が多い。夏休み真っただ中だというのに。学校には地方から来ている者多い。帰省している者も多い中、よくぞこれだけ集めたものだ。
「ムークット君の名前を出して呼んでたわよぉ。あのおバカ達」
アルネイラが種明かしをした。
「……どうして」
「それはぁまあ…ムークット君人気者だしぃ、特に顔は女の子が好きそうよね」
「面と向かって言われるのは何やら照れます」
気まずそうに顔を逸らすラドゥーに、アルネイラはぱちぱちと豊かなまつ毛の目を瞬きさせた。
「うふふ」
「何笑ってるんです」
「いいえぇ何でもないわぁ」
アルネイラは目元を細めたまま顔を正面に戻した。
「おおぉ〜い! ここに集まれぇ」
企画者でありラドゥーの友人である少年バルが声を張り上げて皆を呼んだ。
「これからくじ引きをするから。順番に引いて」
キグの樹海の入口に辿り着いていた。キグの樹海とはグリューノスの南に位置する広大な森である。ここから先は迷いやすい。
「…やばくないですか?」
安直な少年たちに肝試しの舞台として選ばれることから分かるように、キグの樹海は、出ると云われている有名な心霊スポットである。
それだけでなく魔女伝説や魔物が出現するなどと色々曰くが絶えない。
キグの樹海は別名『酩酊の森』。
奥に行くほどに前後不覚になり、酔っぱったように方向感覚がめちゃくちゃになって森で迷子になることからその名が付いた。
伝説云々はさておき、キグの樹海は普通の森とは違うのは確かだ。土の栄養がいいのかどうなのか、古い歴史を誇るこの森には通常よりも一回りも二回りも大きい巨木が林立しているし、崖の底から得体の知れない獣の唸り声ような音が響いてくる時もある(気がする)。枝のしなり具合や、垂れる葉もこれ以上ないほどおあつらえ向きだ。
「…色んな意味で不安になってきました」
領地内の森とはいえ、ラドゥーはこれまで森の深いところまで入ったことはなかった。
キグの樹海の向こうは砂漠だ。これだけ鬱葱と茂る森が、あるところを堺に、すっぱりと切り取られるように途絶えているのだ。その先は草一本生えない荒涼とした砂漠が広がるのみ。点々とオアシスもあるにはあるが、規模も小さく、人は長いこと住める場所ではない。それだけでもこの森の特異性が分かるというものだ。森の謎を解明しようと研究している科学者もいるほどに。
「ムークット君、こういうの平気じゃなかったのぉ?」
アルネイラが覗き込むようにラドゥーを見上げた。暗くても分かる。瞳が輝いていた。
「怖いのではなくて…」
何事もなく円満に肝試しが終わらないだろうという、当たってほしくないラドゥーの予感だ。
ラドゥーはそっと溜息をついて、回ってきた籤を一本、適当に引いた。
「ムークットくぅん、私こわいっ」
ラドゥーの腕にしがみつく女子がいっそう身体を擦り寄せてきた。
「大丈夫ですよ、ただの葉っぱです」
「テリーちゃぁん、とっとき第二弾のお話聞かせてあげましょうかぁ?」
テリーと呼ばれたその女の子はびくりと身を震わせた。
「むかぁし昔のことなんだけどぉ…」
テリーの返事も聞かずに、勝手に始めたアルネイラにテリーは必死でぶんぶんと首を振った。
「いいっいいの! 言わないで! さっきので充分お腹いっぱいだから!」
叫ぶように懇願した彼女はラドゥーを盾にして後ろに隠れた。
ラドゥー達は今、鬱葱と茂る暗い暗い森の中にいる。アルネイラののんびりとした声音は、今は恐怖を煽るだけ。
ラドゥーは服が伸びる程しがみつくテリーにこっそり溜息をついた。
「皆引いたかぁ?…じゃあ籤の先の色が同じ奴と集まれ」
最後の一本が引かれた後、バルが指揮をとって皆をバラけさせた。その声を合図にそれぞれ同じ色の人を探しに動き出した。ラドゥーの色は緑だった。あたりに緑がいないか見渡す。
「うふふ…よろしく、ムークット君」
目の前のアルネイラが緑色の付いた籤を持ち上げて笑った。
「…よろしく」
アルネイラが一緒なら心霊現象も楽しく解説してくれそうだ。言っておくが、皮肉だ。
「あ、ムークット君、緑なんだ! ほら私も私もっ」
程なくして、同じく緑色の籤を持った隣のクラスのテリー・セルニックが駆けてきた。
テリーは黄色のブラウスに、ベージュのスカートという恰好をしており、特に流行というわけではない装いながらも、きちんと着こなしている。自分の似合うものが分かっているイマドキの女の子だ。
ごく一般的な薄茶の髪を一つに纏めて高いところで縛っている、ブラウスの色とお揃いの黄色いリボンが頭の動きに合わせて揺れていた。
ランキングの娘ではないが、明るくて愛想のいい子だと悪友達が話しているのを聞いたことがある。
「わぁ嬉しいな! ムークット君と一緒なんてっ」
アルネイラも一緒だ。
向こうでテリーの友達が、彼女に向かって何やら叫んでいた。
「いーーっだ、組は換わってやんないわよ!」
テリーが叫び返し、少しの間彼女達の間で口論が続いたが、それはぎすぎすしたものではなく、友人同士のじゃれあいのようで見てて微笑ましかった。
「おぉい! そこ静かにしろよなっ」
仕切っているバルがテリー達が騒いでいるのを聞き咎めた。
「ごめーん」
「なによぉっ仕切っちゃってぇ」
「女の子にもてないわよぉ」
などと今度は女子達が団結してバルを揶揄する。それにバルが顔を赤くして反論しだした。学生ならではの可愛い口喧嘩。ほんとに愉快な彼らだが夜は更けるばかりだ。話が進まないので適当なところでラドゥーは待ったをかけた。
「…えー、それでだ。肝試しの約束事をこれから言う。これからアルネイラちゃんにとっときの怖い話をしてもらった後に順番に森の中に入る。そんで、森の奥にある祠の石を一つ持って帰ってくるんだ」
組で集まった後順番を決める籤を引いた。ラドゥー達は最後だった。周りからえーだの、やだーだのと抗議が上がった。肝試しに参加した奴らのくせにアルネイラの怪談話は怖いらしい。
「うふふ…とっときの楽しいのを用意してきたわぁ」
などと意味深に笑うものだから、同じ組になったテリーなどは早速ラドゥーにしがみついてきた。
「そう…あれは五十年前の事…――――」
アルネイラが岩に座り、遠くを眺める様に語りだした。
内容は割愛しよう。参加者の半数以上が気絶寸前だった、とだけ明記しておく。
さて肝試し本番だが、一組が帰ってきたら時間がかかるので、前の組と一定の時間を開けて森に入るという形を取った。
最初の組が森に入ってから十数分毎に、次々と後方の組が入っていく。ついにラドゥーの組の一つ前の組が森に入って行った。もう少し経ったらラドゥー達緑組も森に入ることになる。
「まだ…誰も帰って来ないね…」
テリーが声を潜めて言った。まだ若干顔が青い。
一組に一つランプが支給された。ラドゥーの手にある唯一の光源であるランプの灯りは、ラドゥー達の周囲を照らすだけで一歩先は暗闇だ。
ラドゥーは“道”の暗闇を体験しているせいか、この程度の暗さはどうということはない。けれど、テリーはそうもいかないだろう。ちなみにアルネイラは嬉しそうに身体を揺らしている。頼もしい限りだ。
「そうねぇ…一番最初の組は、そろそろ帰って来てもいいのにねぇ」
組みは一組三、四人で組まれ、全部で十組ある。最初の組はとっくに帰ってきてる筈の時間は経っていた。
何かあったのかしらぁ? といつもの口調で嘯いたアルネイラにテリーは反応した。
「ちょっ止めてよ、縁起でもない! きっと迷ってるだけだもんっ」
確かに森は大きく、迷いやすいが、それでも祠までの道は比較的単純らしい。らしいというのはアルネイラから聞いたからだ。ラドゥーは入った事はないので比較的と言われても比較する対象がないわけだが。
結局、ラドゥー達が出発する時刻になってもどの組も帰って来なかった。
「…ほんとに行くの?」
不安で一杯のテリーは、森に入ろうとするラドゥー達を引きとめた。
「ほんっとうに行くの?」
テリーは何度も繰り返した。どうしても行きたくないらしい。ラドゥーとても行きたくはない。だが、行かねばなるまい。
「彼らがただ怖くて、なかなか進めないというのならいいんですが…」
「そうねぇ…『酩酊の森』は伊達じゃないからねぇ。これはちょっと迎えに行ったほうが良さそうねぇ」
留まる気配を見せない二人にテリーは絶望した。けれどここに一人置いて行かれるのも勘弁である。テリーも仕方なく森の中へと入って行った。
ラドゥーが思い返している間にもアルネイラのテリーのからかいは続いていた。
「ファルデさん…」
可哀相なくらい青い彼女とはうってかわってアルネイラはイキイキしていた。ともすれば普段の学校での彼女よりも。
「ごめんなさぁい、反応が素直で可愛らしくって…ついつい」
ふふっと笑う彼女は反省の色などなかった。
「ムークット君…なんかっなんか面白いお話してぇっ!」
半泣きの彼女はラドゥーに救いを求めた。
「じゃあ…わたしが…」
ラドゥーはとっとき第三弾を繰りだそうとしたアルネイラをやんわりと止めた。アルネイラの持ちネタは怪談のみなのか。あっても出す気はないのは確かだ。
テリーに請われたラドゥーも、唐突に何か話せと言われてもそうぱっと出てくるものではない。
「何でもいいの! 歌でもっ物語でも! 猥談でもいい!」
恐怖から逃げようとする彼女は必死だ。猥談の単語が出てきてラドゥーはビックリだ。女子二人に男子一人の中で桃色な話が出来るわけがない(あいつらじゃあるまいし)。しかし、物語と聞いて思いついたお話がある。
「じゃあ…『いじわるおばあさん』でも」
誰もが知っている物語。しかしだからこそ恐怖もまぎれるのではないかと思った。
「昔々…―――
〈―――…あるところに、とても意地悪なおばあさんがいました。
そのおばあさんは人里離れた寂しいところに住んでいました。
けれど豊かな森、日当たりのいい草原、底が見えるくらい澄んだ湖のあるとても広い土地をおばあさんは持っていました。
ある時、おばあさんの住んでいる近くに数人の人が移り住んできました。
彼らは自分達が住んでいた国を戦争によって失くしてしまってここに流れてきた人達でした。
ある時、人々は食べ物を求めて森に実る木の実や果物を求めました。
おばあさんに山に入らせてくれるよう頼みました。
おばあさんは言います。
「だめだめ。この森の物は何一つ口に入れてはいけないよ」
仕方なく、人々は自分達の住む村の小さな土地を耕して畑を作る事にしました。
ある時、村の人口が増え、人々は耕す畑が足りなくなり、別の土地が必要になりました。
おばあさんに日当たりのいい草原を貸してくれるよう頼みました。
おばあさんは言います。
「だめだめ。この草原に何人も近づくのは許さないよ」
仕方なく、知恵を絞って一つの苗に沢山の実がなるように改良する事にしました。
ある時、全く雨が降らないため、植物が枯れそうになり、人々は水が必要になりました。
おばあさんに湖の水を畑まで引かせてもらうよう頼みました。
おばあさんは言います。
「だめだめ。この水を使う事は許さないよ」
とうとう人々は怒りました。水ばかりは代用が利かなかったからです。
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………………………………………………………………………………………………
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……………―――〉
――――…あれ?」
ラドゥーは語りを止めた。
「ど…どうしたの?」
テリーが不安そうに見上げてきた。
「………」
続きが思い出せない。
ラドゥーは眉間にしわを寄せた。
何か…引っかかる…。
その時だった。森の向こうから悲鳴のような声が響いてきた。
ちなみに作者は怖いの嫌いです。駄目です。怖いです。お化け屋敷入れません。
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「で、解説広場三回目ですが」
「今回は夢の種類だったわね」
「“意志を持つ夢”“生きた夢”“死した夢”でしたね」
「区別するために便宜上そう言ってるだけで、どう呼んでも構わないんだけどね。こう呼ばなきゃってルールはないし。でも夢は曖昧だからね、名前でも付けとかないと何が何やら分からなくなるから」
「へぇ」
「それで、まず“意志を持つ夢”ね。人が夜見る夢とか、夢人の創る世界とか、ラゥが最初に行ったような物語の世界とかがこのカテゴリーに括られているわ。これはとても脆くて、すぐに壊れる。人間が夢を見てそれをすぐ忘れるのもそのせい」
「でもずっと覚えている夢もあるじゃないですか」
「そういうのはうっすらとだけど残るわ。吹けば飛ぶ塵みたいなのだけど。オイボレーの場合みたく同じような夢ばっか見ていると、今度は逆に消えにくくなったりするけどね」
「…ウォンバルト殿下もずっと夢を見ていたようなものだったのでしょうか」
「そうね。死者にとって夢も現もありはしないから」
「…そうですね」
「悲愴な夢だったけど、ちゃんと救えたんだから貴方が気にすることないわ」
「…そうですね」
「もぅ。で、“意志を持つ夢”は実は“飴夢”とも言われているの」
「本編でも出ていないネタを…」
「飴は飴でも綿飴よ。綿飴のように甘く、けれど味わったと思えばすぐ溶けて無くなってしまうからって意味らしいわ」
「それを言ったら悪夢とかどうなるんですか?」
「あ、実は悪夢は悪夢で別カテゴリーなの」
「え…?」
「ん…それはまあ、それはまあ…置いといて…」
「…気になるところで切らないで下さい」
「…じゃ、次回は“生きた夢”ね」
「ほら、逸らした顔をこちらに戻しなさい」