15.若君の苦労
それから数日後、ラドゥーは列車の中にいた。
どうにか学校には折り合いをつけ、はしゃぐ母をあしらい、護衛を数名を伴って、手配させた切符で列車に乗りこんだ。
封筒の中に入っていた切符は使わなかった。あれはギータニアの首都に直通で行ってしまうものだし、他人に手配された物を使う気もなかった。ただし、その券は勿体無いので、休暇にギータニアへ旅行に行く予定の使用人に下げ渡した。一人旅が趣味な彼は泣いて喜んだ(一等席だから)。
ラドゥーはクリス・ウォールに正体を明かすか否かを考えた。
彼女は手紙にあった通り、舞踏会後も恐らく学校に戻ってはこないだろう。というより戻れないという方が正しいか。親の意向で見合いをさせられ、最も好物件の男と、縁談話が進められるのだから。
身分を偽って学校生活を営んでいたのは自分も同じ。お互い、いづれ政略結婚する身なのだ。多少の火遊びは許されれも、他国の令嬢のクリスと、遊びぶ気は毛頭ない。そして本気になるつもりはもっとない。女性故の立場の弱さに同情は感じるが、彼女を愛すことと話は違う。
学校に知られる心配がないのなら、身分を明かして諦めさせるか?
…いや、寧ろ憂いが取れて逆に迫ってきそうだ。よし、黙って庶民に徹しよう。
「若君、本当によろしかったのですか?」
傍付きのセナンが控えめに問いかけてきた。
今はこの青年と列車の個室に二人きりだった。二人しかいないこの部屋は、列車の中とは思えないほど豪華で広い。他の同行者は外で控えている。
「問題ない。療養を兼ねた旅行中、近くを通ったところを誘われて軽く顔を出すという筋書きなんだから。長居はしないよ、早々に帰るさ」
「…些か無理がおありではないでしょうか?」
滅多に公に出てこないと専ら噂のグリューノス家の嫡男を、あちらがそう簡単に帰すだろうか。
「なに、そのグリューノス家のご嫡男は病弱なんだろう? 体調を崩されて責任を問われたら困るのは向こうだ。帰る頃合いになったら人の多さにあてられて、体調を崩してみるさ」
既に決定事項だ。
「では、そのように」
忠実な彼は、ラドゥーが最も信を置く配下の一人である。名をセルナンティスという。ラドゥーより少々年上である彼は、しかし苦労性からか老けていると言わないまでも大人びている。何処に行くにも必ず彼が付いてくる。
今回の旅行も、腕も立つセナン一人で充分だと言い張ったが、こないだの事件が尾を引いて、二人での外出を許してはもらえなかった。
「もうすぐ“扉放時”ですね」
青年は列車の窓の外を見て呟く。外は既に淡い紫色に染まっており、天上に向かうにつれてその色を濃くしていく。その濃淡の美しさにセナンは溜息を吐いた。
「セナン」
「はい」
「…いや、扉の向こうは何があるんだと思う?」
唐突な言葉に彼は首を傾げたが、律儀に考えた。
「わたしは…そうですね、楽園があるんじゃないかと思っております。伝説の扉の真実など、誰にも分かりはしませんが、だからこそ、美しい楽園であると思いたいのかもしれません。“夢の旅人”に誘われれば、分かるのかもしれませんね」
その“夢の旅人”に連れていかれたのだが。ラドゥーは。
「…そうか。そうだね。俺達の現実が、血に塗れた上に成り立っているのを、嫌というほど知っている。だからこそ、せめて扉の向こうだけでも優しいものであってほしいからね」
なあ、セルナンティス。扉の向こうは夢の世界だったよ。不思議で不気味で滑稽で、でもどこか惹かれるおかしな世界だった。誰もが精一杯、己を“ここ”に在ろうとしている世界だった。
優しくて幸せな夢ばかりなんかじゃない。思いの果てに狂って歪んでしまうことだってある危うい世界だ。
だからこそ美しいと思った。触れてはいけない禁断の園を覗いた気分だった。
「謎は、謎のままでよかったんだ」
どうかしましたか、と訊いてくるセナンに、何でもないと首を振る。
今、あの少女はどうしているんだろう…。
夕闇せまる空を見上げ、エメラルド色の少女を思った。
「んっんん〜♪ ふんふん〜」
“それ”は上機嫌にスキップを踏みながら歩いていた。何がそんなに嬉しいのか鼻歌まで歌って。
「紅茶はぬるめに、枕は固めに、そよぐカーテンピンク色〜♪」
どんな歌だと、すかさず訊かずにはおれない歌だったが、あいにく周りに誰もいなかった。
そんな時、耳を揺らす風が流れてくるのに気付いた“それ”は、歌を中断し、不思議そうに上を向いた。
その瞬間、そよ風だったものが突然突風に代わり、“それ”に吹き付ける。
「うわぁっ」
とても軽い“それ”は、いとも簡単に風に飛ばされてしまった。
“それ”―――つぎはぎだらけのぬいぐるみ―――はなす術もなく、そのままそこから『外』まで弾き飛ばされた。
列車の中での一泊後、ラドゥーはギータニアの首都からは少し外れた、緑の多い綺麗で落ち着いた街に到着した。ラドゥーは名目上、療養旅行に来ているので、空気のきれいな観光地を訪れる必要があった。とはいえ田舎は嫌いじゃない。折角なので本当に観光することにした。
舞踏会は、ギータニアの建国式典のついでに行われるもので、招待状は早めに届けられるが、その式典が開かれるはだいぶ後。焦ることはない。
それに、ラドゥーは舞踏会が開かれるのをたまたま知り、適当なギータニア貴族から首尾よく誘われるのだ。何日も開かれる舞踏会の初日に顔を出すのは必要ない。
駅を出ると、人々の賑わいの声がラドゥーを出迎えた。都とは離れているこの街でも、式典が近いからなのか、記念品などが露店に並びちょっとしたお祭り騒ぎだった。旅行者に物を売る声があちこちで響く。
ちらほらと、式典に出席するのだろう、富裕層もいた。都に行く前にここに立ち寄ったのだろう。彼らの後ろには、使用人が大きな荷物を抱えて諾々と付き従っていた。
「……――――」
がやがや ざわざわ ざわざわ……
ラドゥーの耳に膜が掛ったように鈍い音が反響した。これ以上の賑わいを、ラドゥーはつい最近見ている。自分の胸の上の服を掴んでいることにラドゥーは気付かなかった。
違う。これは、現の世界だ。
自分に言い聞かせ、ゆっくりと息を吐く。そばにいた護衛の一人が、異変に気付き、気遣わしげに大きな体を屈めてラドゥーに声を掛けた。ラドゥーはどうにか、大丈夫、と柔らかい笑顔で返した。
「若君」
馬車を手配しに離れていたセナンが戻ってきた。
「セナン、ラゥでいいと言っているでしょう?」
少々困った風に笑う。お忍びということになっているのだ。それをあちらから情報を掴んで声をかけてきてもらわねばならない。あまり完璧にお忍びすると気付かれない場合があるので、それとなく穴をあけておく。ラドゥーの名前さえあまり知られていない。知っているのは中流以上の奴らくらいか。
その呼び名と、柔らかな物腰の、明らかに育ちがよさそうな雰囲気の少年に、目ざとい者はきっと気付く。
「では、参りましょうか」
セナンに笑顔で案内され、その場を立ち去った。
「何だったんだ〜? 今の」
飛ばされに飛ばされ、やっと風が収まって、周りを見る余裕が出来たうさぎのぬいぐるみは、きょろきょろとあたりを見渡す。
「あぁあ、毛並みがメタメタになっちゃったじゃん」
もともとボロボロだったが、風に煽られてさらにひどい状態になっている。
「ここどこ?」
うさぎには自分の位置を知る術はない。知っていたってどうしようもない。
「まいっか。んっんん〜お肉はレアで、童話は悲劇、傾国の歌姫風邪をひく〜♪」
三歩歩けば忘れる脳みそ綿毛類のつぎはぎは、その通り風に飛ばされたこともすぐに忘れ、再び宛てもなく上機嫌でスキップを踏み出した。
一日のんびりと観光をして、地元の人に聞いたお勧めの店で夕食をとることにした。店はあたりだった。ラドゥーは上機嫌だった。
「たまにはこういうのもいいですね」
小さい頃は屋敷から出られなかったし、成長してからは学校に通いだしたから、こんな風に旅行を楽しむ機会なんて殆どなかった。
「明日はもう少し東の方に行ってみましょうか」
もう少し東に行くと、確かとても奇麗な湖が観光名所になっている地が記憶にあった。
「そうですね、療養を兼ねた旅行にはぴったりでしょう」
同じ食卓の席についていたセナンが同意する。従順な彼は同席することに些か抵抗があったようだが、ラドゥーの命令に大人しく従った。
「あそこはワインでも有名でしたね、大公様方のお土産も見繕って買いましょう」
祖父と両親――特に祖父――は酒を好む。彼らの一度の晩酌は、一つの酒場を潰すんじゃなかろうかという程の量だ。本当に彼らと血が繋がっているのかと疑いたくなる。ラドゥーも飲めはするが、それほど好きではないので。
何気ない会話を楽しみながら、ラドゥーは地元の食材を使った料理に舌鼓を打つ。見知らぬ地にいるからだろうか。不思議と気持ちが浮くのを感じた。
こればかりは機会をくれたあの娘に感謝してもいいな、と思っていると、セナンが顔を上げた。
「それより若ぎ…ラゥ様、どうして急に舞踏会に出る気になられたのか訊いても?」
セナンは心持ち声をひそめて訊いてきた。
おっと、珍しい事もあるものだ。
セナンも、このちょっとした旅行で気が緩んだのだろうか。普段なら訊かない事を訊いてきた。使用人にあれこれ私情を聞かれ、それを気に障る主人もいるが、ラドゥーは特に気にした風もなく簡単に答えた。
「そうですね…。学友の自立を手助けをする為、でしょうか」
「学校の?」
セナンには何故ここで学校の生徒の話になるのか分からない。ラドゥーの通う学校は殆どが平民なのだから、それも当然だろう。
「俺と同じように、こっそり高貴な花が忍び込んでいたみたいでね」
「なんと、そんな事が」
「まあ、詳しい事は俺も知らないが、留学生として来ていてね。勿論身分を伏せて」
「その令嬢に何か思い入れでも?」
ラドゥーは短く笑った。
「実はね、その御令嬢から熱烈な招待を受けたんだ。クラスメイトの誘いを無碍にはできないだろう?」
セナンは完全に納得したわけではなさそうだ。それでもラドゥーの顔を伺い、それ以上情報を引き出せないと見取ると、大人しく引き下がった。
「そういう事にしておきましょう。ですが、くれぐれもご無理をなさらず」
「分かってるよ」
先日の件でかなり心配をかけたせいか、しっかりと念を押された。
あらかじめ取っておいた宿に戻ったラドゥーは、宿に着くなりに湯船に直行し、寝る準備が整えられた部屋で寛いでいた。
宿の人に切り分けてもらった滋養のある果物をつまんでいると、コンコン、と部屋の戸がノックされた。
短く答えるとセナンと護衛達が音もなく入ってきた。
「…今夜は団体様ですか?」
承知しているように言うラドゥーにセナンは頷く。
「まったく、折角の旅行気分が台無しですねぇ…」
目線だけセナン達の方に向ける。
正確には護衛の一人の方を。
「本家の守護が薄くなると踏んで来たのでしょうが、生憎でしたね。そちらの動向などとっくに把握していましたよ」
目を向けられた護衛の一人が目を見張り、すぐさま懐に手を入れた。しかし、その手に握られたナイフを振るう事はなかった。
「…痴れ者がっ」
地を這うような声と、その声音そのままに冷たい眼をしたセナンが、その護衛を押さえつけていたからだ。
「くっ、な…何故だ。計画は完璧だったはずっ」
暴れようとする護衛だった巨漢を、他の護衛達が無言で縛り上げる。
「大して度胸がない小物のくせに、刺客を送るのに躊躇いがないのは、めでたい頭というか救いようのないオツムというか…」
床に抑えつけられている巨漢を、ソファでゆったり寛ぎながら見下す。特に怒りの感情は籠っていない瞳。しかし、その視線を向けられた巨漢は蛇に睨まれた蛙よろしく固まった。本能が告げる恐怖。彼らは手を出してはいけない龍に手を出してしまった愚かな小人。
「じい様も鬼畜ですね。わざと間者を見逃して…」
今更、その程度で憤慨することもないけれど。
《自分の客は自分でもてなせ》
じい様の言葉。孫のラドゥーを愛してはいる祖父だが、いかんせん、甘い両親に代わって厳しい教育者でもある。
「…分かってますよ」
ここにはいない祖父に答える。護衛全員を信じてはいなかった。だからこそ、信頼のおける者と紹介されて付けられたこの護衛の前でも、病弱で物腰の柔らかな若君でいたのだ。
「しかし、簡単に引っ掛かってくれましたね」
いっそ笑えるほどに。
「若君、あれらはどうなさいますか?」
外をちらりと見ながらセナンは指示を仰ぐ。
「どうもこうも、丁重にもてなしてあげなさい」
いつもの通りに、と。
「御意」
セナンは護衛を一人残し、他の者を連れて速やかに退出していった。
「そんなっ…そんなバカな。本家の嫡男は身体が弱く、頭もそこまで回るはずがない!」
目の前にその嫡男がいるのに失礼な。こいつの雇い主がラドゥーを悪し様に言うのを鵜呑みにして信じたのだろう。護衛が眉を顰め、黙らそうとして巨漢の首に手を伸ばした。
「身体はともかく、頭まで疑われているなんて心外ですね」
首を絞めようとする彼を、手を振って止める。故意にそう思わせるよう仕向けた本人は飄々と嘯いた。
「そうか、当主の入れ知恵かっ。そうかそうなんだな! しかし、残念だったな。あの細っこい若造どもに何が出来る! 外にいるのは選りすぐりの手練の者達ばかり! 切り刻まれて肉塊になるのがオチだ」
恐れ敬われている当主である祖父を隠れ蓑にしているのだから当然だが、完全に祖父の仕業と思われている。馬鹿にしたような声が不快だ。
…まあいい、わざわざ訂正してやる義理もない。
「貴方だけは生かしてあげます。好きなだけ喚いてなさい。ああ、それと、これは親切心からくる忠告ですが、セナンを甘く見ると痛い目に遭うのでお勧めしません」
お前如きに敵うものか、と。裏切り者に確かに伝わった。自分の悪口というのはどうしてか分かるものだ。男は顔を真っ赤にした。
「なんだと! お前など当主の庇護がなければ何もできない軟弱者だろうに!」
身じろぎするも、縛られているため動けない。大きな芋虫のようだ。ラドゥーは巨漢から目を逸らした。
「…外でのもてなしも、そろそろ終わるころですかね」
なおも唾を吐き散らす巨漢を無視して戸の方に意識を向ける。丁度その時ノックの音がして、巨漢は青ざめた。ラドゥーは入ってきたセナンと護衛達を満足そうに出迎えた。
「よくやったね」
「は」
セナン達は揃って跪いた。ラドゥーはぐるぐる巻きにされた男を見下ろす。
「お前は明日の朝には解放してやろう。命が助かる事を俺に感謝するがいい」
言い放ち、全く服の乱れがない護衛達に順に目をやった。その内護衛の一人が心得たように一礼して、間髪入れず巨漢に手刀を下ろした。護衛は白目をむいて気絶した巨漢を引き摺り、部屋から出て行った。
出て行ったのを確認してから、セナンに顔を向けた。
「手間かけさせたね」
「いいえ。あれしきの事、なんでもありません」
返り血など浴びた様子もない奇麗な顔が笑みを刻む。つい先ほどまで繰り広げた戦闘を窺わせない柔和な笑みだ。ほんの僅か、袖に付いた血が、先ほどの名残を伝えるのみだ。
「…配下を守るのも俺の役目なのだけど」
「刃物を巧みに扱って、暗殺者を返り討ちにする病人などいませんよ」
思わずといった風にセナンは笑い声をあげた。珍しい。なんだかんだいって興奮状態にあるのかもしれない。
「貴方のためなら我々は手を汚すことも厭いません。その御心で充分でございます」
「…では、貴方達に付いた手の汚れは、俺が引き受けることにしよう」
一瞬、セナンは目を丸くしたが、嬉しそうに微笑んだ。
「そんな貴方だからこそ、わたし共は膝をつくのです」
セナンは手早く空になった器を片付ける。
「それではおやすみなさいませ」
「ああ、良い夢を」
部屋の灯りを落とし、セナンは部屋を辞した。
暗闇の中、ラドゥーはすぐには眠らなかった。
闇はあの、時の止まった夢を否応なく思い起こさせる。ラドゥーは右手を目の前に広げた。闇に慣れた目は苦労無くその手を認識する。
この手で、皇子を貫いた。
皇子は精神、または魂のみで存在していた。とっく亡くなった人だ。自分が殺したわけじゃない。止めただけだ。頭の中では分かっている。しかし、ラドゥーの心は未だに皇子を殺したという自責の念が拭えない。
後悔はない。何度あの場に立ち会っても同じ選択をしただろう。それでも苦しいのは、好ましい相手を手にかけたからか、皇子の悲しげながらも満足げな目が焼き付いてるからか、それとも…
「刺したという感覚が残っているからか」
実体ではなかった。精神が形づくっていたのだから、当然血も出なかった。粉々に砕け散っただけだ。ガラスの様に。なのに、刺した瞬間は、感触は妙に生々しく残った。
どうしてこんなに苛まれるのか。この程度、さして珍しいわけじゃないのに。事実、さっきまでの巨漢と、外の返り討ちにされた者たちの末路などなんとも思っていない。それは、実際手を下したのは自分ではないという理由ではなく。
「皇子は、決して、あんな結末を迎えていい方でなかった…」
交わした言葉はほんの少し。けれど、それだけで敬うに値する御仁だと分かった。たとえその御仁の望むままにしたこととはいえ、後味が悪くなるのは仕様がないことだ。
「あれが出来たのが自分だけで本当に良かった」
正直なところ安堵もしていたのだ。あの少女なら、自分で出来るなら、きっとラドゥーにはやらせようとはしない。そもそもあそこに連れてくる事もなかっただろう。そんな確信があった。
冗談じゃない、と思う。一番重い責を担うのは自分だ。
自分の領民を助けるためにしなければならなかったことなのだから、自分が片をつけるべきのものだ。だからこれでよかったのだ。
この罪の念は自分が背負うものだ。皇子を忘れないためにも。今宵の様に、配下がしたことも、自分の責任なのだ。
人が、刃物で人を刺した時、悪いのは刃物か、使った人か。
「当然、人でしょう」
刃物に罪は無い。刃物だって使いようによっては無害になるのだ。
「…俺らしくないな」
沈下していく気分を食い止め、まもなくやってきた眠気に誘われるまま、瞼を閉じた。