砂浜の戦い
朝起きると、お婆ちゃんは、増築した新しい部屋の床に描かれていた魔法陣について、事細かに説明した。
「えっ!? いつ増築したの? ま、魔法陣っ!?」
駄目だ。完全に脳が置いてきぼりです。一体、お婆ちゃんの正体は?
「まぁ、魔物を連れて、魔法陣に乗ってみなさいな」
言われて通りに、三匹の魔物と魔法陣に乗ると、足元から光が溢れ出し、余りの眩しさに目を閉じた。全身が軽くなるのを感じる。次の瞬間、重力が戻り自分の体の重さを思い出す。恐る恐る目を開けると、同じ部屋? あれ? 違う…。ザザーンと聞いたことがない音が何度も何度も聞こえる。お、お婆ちゃん? 小さな部屋の扉を開けると、砂浜が広がっていた。
「やはり、海の日差しは強いね」と後から転移してきたアロハシャツ姿のお婆ちゃんが呟く。
”三日月の砂浜”? 砂浜が地平線の彼方まで続いていて、全体的な形がわからない。でも透き通るような青い水たまりが海なのだろう。波っていうのも始めて見た。誰が作り出しているのか? まったくわからないけど。
誰もいない砂浜にビーチパラソル、ビーチチェア、ビーチテーブルをセッテイングする。幼女とお婆ちゃんという力仕事に向かないコンビで大変苦労した。
「わたしは、ここで見ているから、ほれ、あそこにいる”海猿”を魔物で討伐してみなさい」
お婆ちゃんは、サングラスをかけると、ビーチチェアに寝転がった。
戦闘準備だ。ダンモフは、わたしの左腕にくるりんと抱きつき、うさ角は足元で震え、メタフォはお婆ちゃんと一緒にピーチフェアで寝る…。
ぐぬぬ…。メタフォめ…。まぁ、相手は一匹だ。「いくよ、うさ角!!」
海猿は、ベースが猿、特徴が砂浜の剣士と言うだけあって、剣を持っていた。身長が50cmほどだけど、うさ角よりも遥かにでかい。こちらが近づいてくるのを堂々と待つあたり、かなり舐められているのだろう。
「えっと…どうするの? う、うさ角、攻撃? そん命令で良い? 倒し…」
海猿の目の前で、しゃがみ込み、うさ角と話しているのが、気に入らないのか? 海猿は剣を振り上げ、襲い掛かってきた!! 「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」とわたしとうさ角は、砂浜を全力で逃げる。
ぜぇぜぇ…10分ほど、砂浜を全力疾走すると、海猿も諦めて去っていった。休憩も兼ねて、おばちゃんとメタフォが寝転がる、ビーチパラソルまで退却する。
「お、お婆ちゃん、ま、魔物が戦ってくれないよ?」
「さぁ、それは、お前さんと魔物が、考えることだよ。わたしが協力できるのは、修行の場所に連れて行くことだけじゃ」
むぅ…でも、そうなんだろうね…。それからも数回、海猿と戦ったけど、逃げることしか出来なかった。お昼ご飯のサンドイッチを食べていると、申し訳無さそうに落ち込んでいるうさ角に、半分サンドイッチをあげた。
「うさ角は、がんばってるよ。大丈夫、大丈夫。わたしだって…」ハッと思いつく。もしかして、うさ角は、戦い方を知らない? それにわたしだって、あんな剣を持つ魔物は怖いもん。うさ角なんて、ブルブル震えているじゃない?? わたしが見本を見せないと駄目なのかな?
ブリタルアに貰った短剣をぎゅっと握りしめる。大丈夫、わたしだって…。