食事会
村長バルベルデの家で一緒に食事をする謎の男性は、ブリタルアと名乗っている。北にある”凍てつく山脈”を超えて、”夜の森”を抜け、毎年この村にテイマー用の魔物を運んでくる。テイマーとして魔物が貰えるのは、成人式(10歳)を迎えた男の子のみだ。女の子は、村で自立し稼ぎのある男性と結婚するため、魔物は必要とされていない。そもそも魔物は、とても高価で、村の資金では賄えないため、そのほとんどを国からの援助で賄っている。平等性を保つため、連れてきた魔物の情報は一切教えてくれなかった。
会話は、事前にマレカラートと打ち合わせした無難な内容で進められた。
前菜からメインディッシュへ移ると会話は成人式の話になった。成人式になると、命の封印が解かれる。命の封印とは、個人が持つ特別な個性である。人の能力は、多少の違いはあれど、そんなに変わるものではない。例えば、物語に出てくるような、一人で十人以上と力比べができるようなことは現実にはない。だが神様は、それでは面白くないと、個人にちょっとだけ、秀でた能力を分け与えたのだ。それは封印を解くことで発揮できるのだ。こんな感じに…。
・頭:洞察力がある
・体:親の特徴を受け継ぐ
・魔:☆☆☆☆
・心:努力を惜しまない
これが俺の個性だ。個性は他人に伝えることはできない。話そうとしても、手紙に書こうとしても、兎に角、絶対に他人に知られることはないのだ。神様が作ったルールだ。絶対なのだ。理由は、個性は長所でもあり、短所でもあるから?
魔の☆は、覚えられる魔法の数だ。覚えると★のように黒く塗り潰される。気を付けなければいけないのが、50%よりも多く覚えてはいけないということ。俺の場合は、☆が4つだから、2つまで魔法を覚えることが許されている。最大4つまで魔法を覚えられるのだが、50%を超えて覚えようとすると、凶暴で残忍な破壊主義者へ変貌して、いずれは魔物になるというのだ。
また魔法は、魔物を討伐したときに、その魔物の個性を取得する感じで覚えられる。一度、覚えた魔法は消すことが出来ないので、慎重に選ぶことが重要らしい。
だから俺は”洞察力”のおかげで、薬草を取りに行くときに、薬草が生えやすい場所を特定したり、茂みに隠れた魔物の足跡を見つけることが、簡単にできるようになった。
また”親の特徴を受け継ぐ”で、体の筋力がアップした。もしかしたら父親は、戦士だったのかもしれない。
最後の”努力を惜しまない”により、どんなことでも、粘り強く頑張れるようになった。
食事会の終わり際、ブリタルアは、明日、俺に北の”夜の森”まで一緒に来て欲しいと言った。
それは絶対ダメだ。なぜなら明日は、テイマーの魔物が貰える日だ。朝一から、村の同年代の男の子は、我先にと並んでいる。魔物が放たれている大きなテントに、一秒でも早く入り、魔物に気に入ってもらえないと…。より強い魔物に好かれるように頑張ることが重要なのだ。後から行っても、残りカスのような魔物しか残っていないのだ。
慌てて、村長バルベルデを見る。バルベルデは首を横に振り、付いていくように促す。悔しさに歪む俺の顔を見て、マレカラートがニヤける。
はぁ…。駄目だ。どんなときでも自分だけが不幸を思ってはいけない。自分の気付かないところで誰かに助けられてるはずだ。イーノーベ老婆の言葉を思い出す。
「それでも、お前は何か村人に助けられているのが、わからないのかい?」
「いいかい? それは…お前を蔑む村人に、お前は結局守られているじゃないか。ごらん、村人は魔物から自分の子を守っているけど、お前も村に住んでいるんだ。守られていると変わらないじゃないか? 自分の目線だけじゃなく、もっと広く考えるんだよ…」
きっと、これも、そういうことなんだろう…。