食事会、前日
ガイドラインに抵触してしまい…心折れかけました。
得意ではないのですが、今度は、王道ストーリー!!
ゆっくり、真面目に、がんばろうかと…。
今春の”目覚めの宴”の一日後に成人式を終え、四日後にテイマーとして魔物を貰えるのだ。それと重なるように煩わしいイベントがある。一年に一度、村長の自宅で素性の知れない中年男性と食事会をするのだ。
そのため、食事会の前に、一年分の垢を落とし、ボサボサになった青い髪の毛を散髪する。そんな俺の青い瞳は光を失っていた。
「ベネツィオ、わかってるだろうな?」
まだ若いメイドが忙しく俺の身支度をするのを中断させ、少し頭部がハゲかけた中年太りの村長バルベルデが、俺に念を押す。
「あぁ、毎年同じことを言わせるな」と冷たくあしらうが、俺にとっては精一杯の反抗だった。
物心付いたときには、父親の姿はなかった。俺の母親メリッサは、バルベルデの一人娘だったが、俺と妹のアルジェリカを残し、自分の母親と同じように若くして他界してしまった。母親のメリッサが亡くなる一年前に、バルベルデは、町から嫁いだサーヘルサと再婚したばかりだった。バルベルデもサーヘルサも、俺とアルジェリカを歓迎してはいなかったが、仕方なく受け入れようとしたときに事件が起きた。
バルベルデが俺の父親を侮辱したのだ。俺はバルベルデを許すことが出来ず、殴りかかってしまったのだ。子供のパンチも避けられないほど体が鈍っているのは、村に生きる男としてどうなのだと? 今でも思うのだが…。この事件により俺とアルジェリカは真冬に子供二人で耐え忍ぶことになるのだが、元々体の弱いアルジェリカが高熱を出してしまった。
俺は現実が見えていなかったのだ。大人の手助けもなしに子供だけで生きて行くなんて不可能なのだ。身をもって知った俺は、真冬の夜、村長バルベルデにアルジェリカの保護をプライドを捨てて頼み込んだ。村長の出した条件は2つ、村はずれのイーノーベ老婆に家に住むこと、年に一度食事会が開かれるから、まるで村長の家で暮らしているかのように振る舞うことだった。
村長バルベルデとの確執は、村人の知るところとなり、まだ幼かったベネツィオに容赦なく理不尽極まる嫌がらせが毎日のように続いたのだ。心を壊しかけたベネツィオを救ったのは、イーノーベ老婆であった。ベネツィオが村人に対して仕返しをしようとしたとき、イーノーベ老婆は言った。
「それでも、お前は何か村人に助けられているのが、わからないのかい?」
「わからないよ! 何も、何も、助けられてやしない!」
「いいかい? それは…」
あの時、教えてもらった答えは、今も胸の中に大事にしまってある。あのことが切っ掛けで、前を向くことが出来たのだ。毎年ここに来るとなぜか思い出す。
村では誰も着ていない貴族風の服に袖を通す。そんな馬鹿らしい身支度を整えていると、今度は妹のアルジェリカが挨拶に来た。
「お兄様…」とアルジェリカが話しかけるのを、サーヘルサの連れ子で同い年のマレカラートに遮られる。すらりと背が高いマレカラートは、サラサラの緑色の長い髪をかき上げるながら言った。
「アルジェリカ、お前の兄は、この俺だ」
「マレカラートの言う通りだ」と少し怒った口調で言う。どうでも良いことでアルジェリカに迷惑をかけたくない。
「ごめんなさい…」真っ白な肌に薄い桃色の髪の毛に似合うワンピースの裾をぎゅっと握る。
昼間から始まった身支度も夕方には粗方終わった。俺は毎年と同じく夕食を断り一人部屋に篭もる。なぜか理解できないのだが、村長の家には俺の部屋があるのだ。使われていない割には綺麗に清掃もされている。毎年、本棚にある”テイマリアン・サーガ”という本を手に取り、フッカフカのベッドにダイブする。こんな柔らかいベッドは、イーノーベの家にはない。
テイマリアン・サーガの内容は、何度読んでも心躍る。貧乏な少年が、伝説の魔物を従え、魔王軍を次々と蹴散らし、地位と名誉と富を手に入れるのだ。明後日貰える魔物を想像しながら、いつの間にか寝てしまった。