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はじめに

完結まで大体20話前後を予定しています。どうぞよろしくお願いします。

 あなたの小説には騎士が出てくるでしょうか。

 もし出てくるのであれば、それはどのような立ち位置でしょうか。


 かっこよく敵を倒す、騎士の中の騎士と称えられるかのような存在でしょうか。それとも高貴な人々を守る存在でしょうか。もしかしたら帝国の矛となり盾となる存在かもしれませんし、力及ばず倒れてしまう存在かもしれません。


 ではそう言った騎士はどのように振る舞い、周りの登場人物からどう思われているでしょうか。もし脇役だったとしても何かしらの描写がされているはずです。

 その描写には、その小説の設定に基づいた明確な動機というものはありますか。


 人種や職業に基づく性格設定。これが存在すると、よりリアリティのある世界が構築できる事でしょう。本考察では物語としてリアルな騎士を生み出すために、物語に必要とされている騎士のバックボーンを史実と文学の両面から探り、性質とそれに付随する世界設定を明らかにすることを目標とします。



 騎士について見る前に前提としていくつか書かなければいけないことがあります。


 小説家になろうにはファンタジーという一大ジャンルがあります。


 ファンタジーは空想や幻想と訳され、その言葉の通り、現実の常識では考えられないような事がおこる異世界が魅力となっています。


 そのため一口にファンタジーとはいっても内容は千差万別になっていますが、少し観察すると、いくつもの小説に見られる共通した要素とその小説独自の要素が組み合わさって物語ができていることが確認できます。


 未開の地を探索してモンスターと戦うといった冒険が軸になるというのもそうですし、「中世ヨーロッパ」が舞台となっているというのも大きな特徴です。

 魔法という現象が社会的に認められているという設定はもはや説明しつくされた要素ですし、そもそも人間が生活を営んでいて社会を構築している、人間社会に身をおく人間が主人公である、というのも多くのファンタジー小説に共通した要素です。


 そんなことは当たり前じゃないかと思われるのも分かるのですが、しかしこれによって多くの要素が生まれることを、本考察としては確認しておかなければいけません。


 人間であればご飯を食べて水を飲み、服を着て、屋根が付いた空間で生活し、寒ければ火で暖を取るという活動をしなければいけません。

 つまりファンタジー世界の中にも現実世界と同じように畑や井戸があって、生存し要求を満たすために人々が仕事を分担し、町を形成しているという事になります。その社会の成長度合いを中世という時代に設定すれば、ここに土地を支配する階級やそれを守る軍隊、つまり領主と騎士が登場するのです。


 しかしなろうファンタジーには冒険者や冒険者ギルドいう武装組織が"共通要素"としてあって、騎士の存在価値があるのかどうか、という問題が出てきます。「中世ヨーロッパ風」という便利な言葉は、一体どこまで効果を及ぼすのでしょうか。


 多くの考察小説や書き方講座では、まず「中世ヨーロッパ風」という言葉を使うな、という内容が目立ちます。些細な資料集めや描写を怠ってはならず、読者により精度の高い世界を想像させるべきだという趣旨です。

 しかし、そもそもなぜ「中世ヨーロッパ風」という言葉が便利に使われるのかという部分を考えてみると、我々が意識すべき重大な前提があることに気が付きます。


 それは我々が書いているのはライトノベルである、という前提です。読者に深い読み込みや前提知識が無くても、物語が生み出す感動を味わえるというのが、ライトノベルの大きな利点です。

 ここには文学としてどうかという問題はありません。娯楽なのですから、主人公が何かを達成する、その爽快感がストレートに表現できれば良いのです。


 そういう性質がある以上、世界の詳細な設定、言ってしまえば枝葉に当たる部分は、読者が既にもう持っているであろう知識やイメージにふんわりと任せて、如何に主人公がかっこよくヒロインが可愛いか、敵が強いのか、という部分に読者の想像力を向かせるべきでしょう。


 そのために「中世ヨーロッパ風」という、"どうでもいい(と思われていた)舞台設定"を簡単に処理してしまえる言葉が重宝されたのです。

 この言葉にとどまらず、読者が持っているであろう共有された知識に基づいた表現、というのは沢山あります。


 我々は大体同じアニメ作品をみて、大体同じゲームで遊び、大体同じ小説を読んでいるので、なんとなく"これはこんな感じ"という共通のイメージは持っています。ゴブリンと言われれば、何かしらイメージはパッと頭の中に浮かび、それは大同小異なものでしょう。


 このような設定を私は「ゲーム的設定」と呼んでいます。

 共有されたゲーム的設定を利用することで、書き手から読み手にストレスなくイメージが受け渡されるのです。


 といっても、もちろん批判の対象になるくらいですから問題があります。

 作品の増加と共に読み手がもつイメージが増え、そのようなふわっとした伝え方では、読み手が持つどの知識に当てはまるか分からなくなってしまうのです。


 この「中世ヨーロッパ風」を筆頭とした一連のテンプレートなフレーズが批判を浴びるようになって、最近ではより詳細な描写が町や人物、モンスターに施されるようになりました。資料集めや研究も進み、これはこうではないか、ここは無視してもいいのではないか、という共通認識も生まれているように思えます。リアリティが増し、より鮮明な映像を読者の頭の中に投射できるようになったのです。


 しかし、騎士や貴族という身分は描写の問題ではありません。これは設定の問題、言い換えれば歴史の知識や社会学のような考察が必要となってくる問題です。

 もう少し詳しく言うと、騎士がその世界でどのような組織を作ってどのような役目を負い、そして物語の中でおこるイベントに対してどのようなアクションを取るのか、という部分を描写しようとすると、その他の冒険者や勇者という登場人物の行動とぶつかってしまう可能性があるという事です。

 その世界の多くの人間が属しているわけですから、個としてではなく全体の行動原理(例えば現代の学生なら学校に行き何かしらの交友関係を築き、経済基盤はお小遣いで、何らかの娯楽に興味を持っているなど)を、ファンタジーが持つ独特な要素を加味したうえで設定しなければなりません。


 これを解決するには単に文章力を鍛えればよいという話ではないことでしょう。騎士についての書籍を購入し知識を増やしたところで、史実中世の食糧事情や生活様式と違い、すぐに文章に変換できる話ではないのです。



 そもそも史実からして騎士という存在は、簡単に定義できるものではありません。

 社会情勢や地理的な性質によってさまざまな形態で騎士は存在し、さらに中世という時代なので記録も多く残っておらず、その起源や実態について専門家も議論しているようです。しかし物語には古くから登場して現代の娯楽作品に受け継がれているので、そのうすぼんやりとした騎士と言うイメージだけが、我々一般人の中で膨らんだ状態になっているのです。



 このような問題を抱えながら描写されたファンタジーの騎士は、なろう小説に関わらずおおきな揺らぎを見せます。近世の特徴を見せる騎士や(多くの作家、長い時間をかけて)独特な進化を遂げた騎士です。

 本考察はそれを問いただしてやろうという目的はなく、むしろなろう小説に登場するものを基本的には認め、史実と合わせて考察することでその存在をより確かなものにする事を目的にしています。

 


 なろう小説の世界観を考察するというテーマですので、個々の設定、作者個人によるという問題が大きい話ですが、それでも先述した通り"多くの小説に共通した要素"というのがあるわけで、これが本考察の主な対象になっています。


 ところで、フィクション作品に対して史実を根拠にした設定がどれだけ有用なのかという疑問を持つ人もいるかと思います。

 フィクションと史実は全く異なるべきだという主義主張があるのであれば別ですが、物語の中に現実世界と同じような人間社会があってそれが中世とされている以上、何かしら定まった世界観が流用されていていると思います。そしてそれは歴史の中に実在した物を引っ張ってきているわけですから、史実を参考に考察を進めることは、小説の世界の設定に厚みを持たせることができるのではないか、と考えられます。

 言い方を変えれば、人間社会に所属する人々が各々判断したり活動をしていくと、自然とある程度似たものになるのではないかという事です。人間社会が発展していけば、大体同じような問題を抱え、同じような解決策を生み出すことでしょう。

 つまり史実を参考にすれば、ファンタジー世界の住人が取るであろう行動やもたらされる結果は、よりリアルに推測できるという事になるのです。



 最後に本考察の流れをお話します。

 まず史実での騎士や伝統的な創作物の中の――つまりパブリックなイメージとしての――騎士がどんなものであったのか確認し、現代日本の創作物の騎士を観察し、そこからなろうファンタジーによく見られる一般的な騎士の成り立ちや社会的な立ち位置などを探っていきます。


 読みにくい文章になってしまうかもしれませんが、最後までお付き合いいただければと思います。



 前作、幻想歴史読本と同様のスタンスで、今回は一つの要素に絞り込んで考察をしていきます。基本的に前作の考察内容や歴史の専門知識が無くても大丈夫なように心がけていますが、短くまとめたいため端折る部分もでてきます。

 幻想歴史読本ではほぼすべてのファンタジー要素に加え、色々な話題(例えばゲーム的設定など)の考察も詳しくしています。25万字超えと長くなっていますが、興味がある方はそちらもお読みください。


十分に注意を払っていますが、勘違いや勉強不足、そして(主に文章力の問題によって)意図しない伝わり方をしてしまうことがあるかもしれません。間違いや気になる点を見つけられた方は是非ご感想お寄せください。

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