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第二話 ヒロイン候補2名

まだどのくらいの字数にするべきか熟考中です。

まあ、お付き合い下さい。

「さてと、まずは自己紹介から始めますか。」


僕は自然なニコニコ顔でそう言った。


勿論彼女とははじめましてである。少なくとも今は。

自分が一方的に知っているだけで、彼女が僕を知っているわけではない。

かといって僕はストーカーでもない。

今の彼女の表情も納得できる。だが、暫くは付き合ってもらうぞ名無しさん(仮)!


「僕はソウヤ。マドッミク・ソウヤ。よろしく。自己紹介だからね、もっと詳しくいこうか。えー、性別は男、趣味は睡眠。特技は…特に何もないかな。仕事はしてるけど別に大したものじゃないよ。それに言える立場じゃないからそこは黙秘権を酷使しようかな。嫌いなことは沈黙、だから今一生懸命喋ってるんだけど。それからそれから、えーと、そう!僕の性癖は……」


『ソウヤ、ソウヤ、大丈夫!?迷走してるよ!気を確かに!』


沈黙の恐怖のために危うくとんでもないことを口走りそうになった僕をイアは必死に止める。

危ない危ない、もうちょっとで手首を掻き切る運命を辿っていた。自重しなければ。


『で、今君は何してるの?僕から見たら幼女を誘拐する一歩手前の変態にしか見えないんだけど。』


「違う。誤解だ誤解。それに幼女ではない……」


そこまで言って理解した。

イアはこの事を知らない。

パンを二人分持ってきたこともおそらく知らないだろう。

もう1人分は彼女のために持ってきたものだ。

はたからみればこれは幼女誘拐だ。

本当の事を言えばこれは本当に誘拐だ。

僕は意思をもって幼女誘拐をしている!

あたかも近くを通りかかった友人のように当たり前のように住居不法侵入をして、今、僕は確信犯。

もし今ここに警部が来たらなんの言い逃れようもなく僕は牢屋にぶちこまれるだろう。

だが、それでも僕は止めない、名誉とか人生とかいろいろ捨ててもやる価値がある!


僕は更に畳み掛ける。


「まぁそれ食べてみてよ。毒とか入ってないからさ。なんなら僕が一口齧ってみようか?」


名無しさん(仮)はいい、と言うように首を軽く降ってパンを手にもち、もしゃりとかぶりついた。


内心安堵の息を吐く。

取り敢えずは信じてくれたことの証左だ。

ここで心を鬼にして誘拐させてもらうとしよう。

ただ、[信用した≠警戒心を解く]であるようだ。


名無しさん(仮)はパンを食べながらも右手――――つまり利き手の方は刀を握っている。左手でパンを食いながら、右手で武器を持ち、警戒色を見せるその視線の先には―――――僕がいた。

実に器用なやつだった。


僕もパンを齧った。

僕の味覚としてはまぁまぁにカテゴライズされるが、彼女にとってはどうなのだろうか。

見ればもう食べ終えていた。

速い。速すぎるぞ。そんなに速いわけがない。

そんなに速く食べたら確実に喉を詰まらせるだろう。

依然として右手は固定。

そこで僕はパンを食べながら質問した。


「ねぇ、君の名前は何て言うの?」


嫌がらせに近いその質問は彼女をどう思わせたのだろうか。

僕はここまできても、自分の行動が正しいルートを通っているのか甚だ疑問だ。

だが確実且つ穏便に、そして迅速にこれをクリアーしなければならない。


彼女は未だに沈黙を貫徹し、僕を社会的に厳しい目で見つめる。

やっぱり質問なんてするもんじゃなかったと内心反省し、次の手に出る。

それはシンプルで強力な友情表現―――――


「よろしく。」


―――――握手である。


刹那、ボケ~としていた彼女の急変に気付いた。ときには遅すぎた。

忘れていた。警戒を解いているわけではなかったのだ。


僕が手を差し出した直後、彼女は構えていた右手を体の左上付近に挙げ、振り下ろした。

そして僕の腕をキレイに下ろした。


「あああああああぁぁぁぁぁッぁぁぁぁあぁあああぁあああぁあ!!!!」


僕はわけもわからず、ただ絶叫した。

それが最初痛みによるものだと理解できなかった。

溢れ出す鮮血と腕から発生する熱でやっと事態を理解した。

理解したところで何になるのか。


名無しさん(仮)は何の感じないのか、顔の表現力に乏しいのか無表情。

慈悲のじの字もありゃしない。


「イア!イア!!プリーズヘルプミー!!今すぐ止血して!速く!あああああぁぁぁぁぁぁ!!!」


激痛に喘ぎながらイアに救援信号を発信。というかしてる頃にはイアは行動してた。

イアは切り口を凍らせ、一瞬で止血してみせた。

おまけに痛覚麻痺まで施してくれる。

幾分か痛みはマシになった。

そこで僕はすかさず―――――


――――――左手を差し伸べた。


次に路地裏に響いた悲鳴は、ただ痛みによるものだけではなかった。


_  ̄ _  ̄ _  ̄ _  ̄ _  ̄ _


這う這うの体で大通りに戻ってきた。


左手は下ろされずに済んだものの、串刺しにされ、今は急速冷凍保存によってなんとか致命傷にはならなかった。

本当に大丈夫かはどうかは神のみぞ知る。

僕はこの傷を癒してもらうべく、次の目的地に向かおうと思うのだが、その前に1つ。


「なあイア、どうして僕を助けてくれなかったの?二発目もだけど一発目、ちゃんと見てたよね?なんで見て見ぬふりしたの?それ、いじめになっちゃうんだよ?」


『いや~ごめんね、ソウヤ。どう見てもソウヤに非があったからね。まあちょっとした罰として受け止めなよ。』


「片手落とされて1分後にそんなの納得できるわけがないだろ。非があったのは自分だと思うけどさ。」


『応急処置を行ってあげただけ感謝してほしいくらいだよね。私がいなかったら君、死んでたよ。』


「そしたらお前も死んでただろうが。」


『全く、憎々しいよ、あいつは。私の一切の自由を奪い上がって、その上、こんな出来損ないの面倒を見ろだなんて、鬼畜以外何者でもないよ。』


「イアは今までそんなこと思ってたんだな。あと満面の笑みでよく言えたな、そんな台詞。あとで絶対許さないからな。」


『アハハ、かかってきなよソウヤ。どうせ君は私抜きではただの無能だからね。』


鋭い声で睨みながら吐いた言葉だったが、挑発的に返されてしまった。

イアの言ってることは事実でもあるし。

けど文句の一つでも言ってやりたかった。


そこで僕は、パンを忘れて来てしまったことに気付いた。


あ~あ。

今日は昼食抜きですか。

昼にあそこに行ってもおそらく僕のパンはないだろう。

大海に放った小魚が帰ってくるはずがないのだ。


僕はため息を漏らす。

よくよく考えたら、もうかなりの遅刻だった。


_  ̄ _  ̄ _  ̄ _  ̄ _  ̄ _


「さてと、イア、出来るだけ守ってくれよ。」


『アハハ、無理だよ。レリエスとは特に相性が悪いからね。耐久戦になったら確実に負けるよ?こんな天気だしね。』


「いやいやそういうことじゃなくて、ちょっとだけ弁護してほしいだけだよ。」


『あ、な~るほど~。(棒)』


僕は大きな一歩を踏み出した。

僕は現実から目を背けなかった。

成長したはずだ。

緊張のためか、額の汗腺が崩壊している。

歩いて10メートル、建物はパッと見て豆腐なのに屋敷かというくらい無駄に広いこの家が僕の孤独感を拡大させる。

正直、イアの代弁なんて信用できたものじゃない。

それならば詭弁であろうと僕が言い訳した方が良いのではないか?と思い始めたとき、僕は玄関に到着した。


ここで本日何度目か分からぬため息を一つ。

そして、僕はドアを叩いた。


扉は勿論鍵が閉まっており、僕が開けることはできない。

僕は暫く待った。


3分後、玄関で待つにしてはあまりにも長すぎる時間を門扉の前で過ごし、棒立ち。

5分後、更に棒立ち。

10分後、そろそろ苛立ちが目に見えて現れる。


『ソウヤ…………』


「ああ、分かってる。この扉をぶっとばす許可を出す。責任は全てレリエスに押し付ける。」


『りょーかーい。』


僕は真剣な眼差しで突入許可を出した。

イアはその小さな体から風を集め始める。

そこら辺に生えている芝や僕の茶髪がなびく。

それはイアと同じくらいの大きさになった直後、扉にめがけてその竜巻を叩きつける。

扉は内側に開いた。

大丈夫大丈夫、元々内側に開く仕様だから。金具が外れてる事以外は全く問題ではなかった。


「『おっ邪魔しまーす!』」


二人とも黒い笑顔で正面突入する。


「イア、ちょっとそこの扉もとに戻しておいて。」


イアは、は~いと呑気な返事を返し修復にかかる。

僕はその間にキレイに靴を脱ぎ、靴の踵を揃え、猛ダッシュでレリエスの部屋の前に立つ。

その目は憤怒のためか、充血している。

僕は深く息を吸って一言。


「おっはよぉぉぉぉございまぁぁぁぁぁす!!!!」


「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


僕の怒号とレリエスの絶叫がこの屋敷を支配するなか、彼女にとっての1日が始まった。


数秒後、今度はだまれェェェェェとレリエスの怒号が木霊しながら、彼女がバタンと扉から出てくる。

隠すつもりがないのか、鬼のオーラを纏って。


「朝からうるさいのよ!どうしてよ、どうして私を天国(ベッド)から引き剥がすのよ!許さないわよ!これは何にも変えられないんだから覚悟しなさいよ!」


ビシッと僕を指差してまさかの死刑宣告に多少たじろく。

身長は僕より少し高く、凛々しく慓悍なエメラルド色の双眸が僕を睨み付ける。

肌と髪は雪のように仄かに白く、特に銀髪の特徴的だ。

イアが門扉を完璧に修復させたのを横目に、レリエスに文句を紡ぐ。


「早く髪直せよ。暴風起こしてんぞ。」


「え、そうなの?じゃあ直してくるってそんなので逃げ切れるとでも思ってるの!?許さないから。只でさえ昨日はあまり眠れなかったのに。」


ああ、どうしよう。これは本当に逃げ切れそうにない。


「まあまあ、説教はあとで聞いてやるから。取り敢えずこの手、治してくれない?」


「うわー。一体どんなことをしたらこんな怪我をするの?どちらにしても夜まで待ってってね。そんなことより早く準備しなきゃ。」


どう考えても「怪我」なんてレベルじゃないし、そんなこと扱いするレリエスに僕は表情を歪ませる。

確かにお前にとってそうだろうか、僕にとっては違うだろう。


まあこれから放たれるであろう罵詈雑言を回避することはできたので、あとは早く忘れてくれることを祈るのみである。

さっきまで怒りで限界まで開いていた双眸は今は5分の4以上閉じており船をこぎながら、手洗い場に向かう彼女を見送りながら、イアに礼を言っておく。


「ありがと。何から何まで。」


「ん?こんなこと朝飯前だよ。礼を言われるまでもないね。」


暫く時間が空いたのでこれからの事を考える。

これから僕は何をすればいいか。

この時間は神様が僕にくれた貴重な時間だ。

と言ってもだいたいの行動は決めているのだから、あくまでも確認作業だ。

抜け目はないか。何か誤解してないか。読み落としはないか。

僕の頭は焼き切れるほど回転する。

………やっぱりやってみないと分からないか。


ものの数分で暴風を収めたレリエスは腰まで伸ばした白銀をたなびかせ、さっぱりしたような様子でまたしても自室に戻る。

僕も重石にしかならないけど、ロングソードを腰に携え、準備を進める。

そしてイアに呟く。


「イア、今から寝ててね。」


『りょーかーい』


そう言うが早いか、僕の右腕にある中二病歓喜の呪印(イア曰く天輪)の中にダイブした。

その間、全く精霊とは思わせないくらい普通に、僕の天輪の中だけが水面であるかのように潜っていった。


レリエスが自室から出てきた。


「さて、行くわよ。」


「ハイハイ、分かりましたよ。」


レリエスは絹色のキトンを身に纏い、更に白くなる。

あと、エロく見えるのは僕だけなのだろうか。

それともレリエスが露出狂なのか。

後者だけは信じたくない。


扉を開け、鍵をかけて、大通りに再び入っていく。

僕はレリエスの丁度斜め右後ろ辺りを彼女のペースに合わせて歩く。

歩行人は自ら遠退く。

当たり前の話だろう。だって彼女は………


唾が飛んできた。

いったい誰が唾罵を飛ばしたのか、考えることはない。

僕はただそれを彼女にだけは当てまいと風の膜を張る。

その唾罵は明後日の方向に飛んでいった。


次はどこからか舌打ちが、そして陰口が、彼女を襲う。

「人間の敵」「人の皮を被った悪魔」「偽善者」…………


匿名を得た人間はどこまでも自由だ。そして横暴だ。

自分とさえ分からなければ何をしてもいいと勘違いをした人間は、生物史上最強の毒を吐き出す。

その毒は解毒薬はなく、血清もない。

絶対に癒えることのない猛毒。


彼女はなぜこんな毒に耐えきれるのだろうか。

僕は握り締めた拳から血が滴り落ちているのに。


この時間は僕にとって地獄に等しい時間だった。

何度聞いても堪えきれない罵声の数々が聞こえなくなるなら、僕は針山を素足で何度でも往復して見せよう。


今日は晴れ。

とてもいい天気なのに、僕の、否、僕たちの気分は曇りきっていた。


_  ̄ _  ̄ _  ̄ _  ̄ _  ̄ _


俯きながらもなんとか目的地に到着した。

目的地―――――王城の門番に顔パスで通してもらうと、執事のエイスさんに謁見の間に案内してもらう。

してもらわなくたって僕は分かりきっているんだが一応、初めて謁見の間に入る。という設定。

レリエスは堂々としていた。

先程のことがなかったように、悟らせないように、堂々としていた。

それに比べて僕は………。


こちらです。の一言でエイスは去っていった。

僕たちは大きなドアの前に取り残される。

レリエスは迷うことなくドアに手を掛ける。

そして勢いよく押し出した。

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