第一話 目覚め
太陽とは、いろいろなものを僕たち人間にもたらしてくれる。
昔から星を見守ってきた太陽はとても尊い存在なのだ。
ただ、太陽が与えてくれるものは全てが全て高尚なものだがいいものというわけではない。
太陽がもたらす最も憎たらしい恩恵は―――――――朝である。
朝。それは新たな一日の始まり。
街が目覚め、通常の人ならば活動時間の開始を告げているであろう。
しかし、僕は疑問に思う。いったいこの世界で気持ちよく朝を迎えられる人は何人いるのだろうか。
僕はこの疑問を暫く楽な姿勢で考えるとしよう。うん、それがいい。
『245字にわたる言い訳は済んだのかなソウヤ君さっさと起きてよ君が言った時間に起こしてって言うから私は昨日から起きてたんだよねえ起きてよそろそろ私の一点突きが君の瞼に直撃させるよ沈黙は了承と受け取るよじゃいっきまーすサヨナラソウ...』
「うるせぇよ!文が長い上に早口で言うな!句読点使え、句読点!」
夢から覚めて早々に変な目覚まし時計がなったのはさておき、僕は猛烈に飛び跳ねるように起き上がった。
まさか目覚まし時計に脅迫で起こす機能がついたとは。
『私を機械呼ばわりしないでくれる?別にソウヤの目覚まし時計になるために契約したわけじゃないんだしさ。不愉快にも程があるよ。』
「わりぃわりぃ...って!今のモノローグだろ!どうして、どうやって読んだんだ。まさか、それも精霊の加護の能力なのか!?」
『そんなの顔見れば大体分かるよ。そんなことより、遅刻するよ。急がないと。』
僕はヤベェと声を漏らすとベッドから降り、急いで準備を開始する。
部屋着から着替え、水を喉に流し込み、持ち物を再度確認する。
「朝食と昼食の準備よし。」
『パン以外何もないじゃん。そこにある剣はいらないの?」
それを剣と訳するのは少し語弊があると思うが、僕はちらりとそちらを一瞥する。
僕がその剣を掛けるために壁を鉄釘で穿ち、乱雑に輪にされているそれは、最大リーチ20メートルをも越えるロングレンジな武器。モーニングスターをイメージして自作したものだが今は鉄球の代わりにつけた短剣はまだ鋭く妖しい輝きを放っている。使おうとしたら絡まって逆にこちらが痛い目を見たので、今は封印している。それに自作というだけあって性能は最悪。使い方は難しいとなったら誰がこんなコンプレックスの塊のような武器を手に取るのだろうか。
「持っていかねぇよ。あの剣のスゴいところ、持ち運びのときこれ以上ないくらい邪魔になる。以上。」
されてもいないのになんか自分の黒歴史に触れられたような気分になり、心底面倒臭そうに答える。
僕は手をドアに掛け、開ける。
まず真っ先に目に映るのは街。人口一千万人の超過密状態の都市の家々の間を街道は不規則に通り、入り乱れている。
奥の方には小さな議会も見える。
よく見るともう人々は動きだし、これもまた不規則に入り交じっている。
まぁ僕が見た場合遠すぎて人間は巣穴に群がる蟻の集団にしか見えないのだけれど。
次にさらに顔をあげて山脈を見る。
朝日に照らされ緑に輝いている山の端とまだ光の届いていない部分には深緑を与え、この二重奏のコントラストに感動する人も多いだろう。
僕は幸せなことに、もう見慣れてしまったけど。
RPGさながらの山の中腹付近に建てた家から見た景色はやはりなにか感じるものがある。
両親はこれが気に入ってここに家を建てたんじゃなかろうか。
代わりに交通の便は言うまでもなく悪い。
それでも毎日見る価値はあると言える壮大な街景色を見ながら、僕の一日が始まる。
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僕が行く場所は2ヶ所。
まず最初に行く場所に行くべく、嫌いな大通りに向かう。
王都の中でも相変わらずの人口密度を誇るこの通りは国民が40年の人生の中で必ず通行すると言われるほど有名な通りである。名をヘカス大通りという。
正面から見た景色が一点透視図法云々で美しいと観光名所の1つとされているが、僕は人混みが嫌いであるが故、この道を好きにはなれない。
向こうから来る人を下を向きながら回避して行く。
もう慣れてしまい、前を見なくてもかわすことが出来るようになった。
大通りを歩くこと一分といったところか、建物の間の暗闇のなかになんの躊躇もなく足を踏み入れる。
その中を更に歩き、夜かと勘違いしてしまうくらい闇が深くなってくる頃にあるボロボロの、ささくれる場所が全てささくれたような、この闇の中ではドアと認識できないような大きな板がそこにはあった。
僕は剣山が発生していない場所を慣れた手つきで三度ノックする。
暫くして、ゆっくりドア(?)が金具が擦れ会う嫌な音と固いものを引き摺った音と共に開く。
一般ピーポーであればこの狭い路地の恩恵を受け確実に先程の針山の餌食になっていただろうが、もう慣れたものだ。
一歩後退り、様子を見守る。
やがてドアと壁の角度が30度に達したとき、歪な音は止まった。
その大きいとは言えない隙間から少女が顔を覗かせる。
その顔はやはり半目で疑心暗鬼な性格を顔で表現したような、人生諦めた人の顔だった。
トレンドマークの麦わら帽子を目深に被り、その中から溢れる健康とは言い難い、ボサボサの金髪や、ボロボロの服は彼女が貧困層の人間だと証言する。
僕はルーチンワークのように中に入った。
室内は何もない。本当に何もないのである。
フローリングは煉瓦、壁のデザインも煉瓦(共に3D仕上げ)、ドアさえなければ家と認知できない程の一部屋に彼女は住んでいる。
流れるようにいつもの位置に座った僕を見る彼女の視線の色は変わらない。
それを無視して、彼女にも座るように促す。
今日持ってきたパンを取り出し手渡した。
そして自分用のパンも取り出し、深呼吸で緊張をほぐし開口一番、僕は言った。
「さてと、まずは自己紹介から始めますか。」