星空
「よし、チェコ、止まれ」
傾斜地の終わりで、ヒヨウが言った。
「うわーぁ!」
チェコは思わず叫んでいた。
目の前には、果てしない星空が、遮るものも全くなく広がっていて、大きな天の川が天を二つに分けて流れていた。
そして、星空は、ここでは天だけにあるのではない。
眼下には、虹カマスの湖が広々と、鏡のような湖面を横たえており、星がすっかり、眼下にも広がっているのだ。
「いやー、リコの村で見る星とは全く違うなぁ!」
チェコはあまりの爽快さに感嘆した。
夜空には雲一つなく、一筋の流れ星が、一瞬、赤く光った。
「足元に注意して歩いてくれ。
落ちたら百メートルクラスの断崖絶壁だ。
さすがに命は無いぞ」
チェコは、しかし感動に打ち震え。
「うんうん、これだけの星明りなら大丈夫だよ」
森から出ただけで、真夜中とはいえ、足元とはよく見えた。
「見えているようで星明りだ。
小さな石に気が付かない、なんて事もある」
ヒヨウは注意を促すが、チェコに問題はなさそうだった。
断崖を回り込むように歩いていくと、深い谷地に入って行った。
ここもかなりの急傾斜ではあったが、狭いながらも道が出来ているようだ。
つづら折りの細い道が、谷の底の方まで続いているのが見えていた。
「ここは、エルフか猟師しか、まず知らない道だ。
なぜなら…」
ヒヨウは、周囲に茂って来た高い木々を見回す。
「ドゥーガが襲ってくる、とても危険な道だからだ…」
囁くように言った。




