赤い女
チェコとパトスは、ゆっくりと森の、僅かに出来た隙間らしい、ダリア爺さんの畑ほどの僅かな空き地を、鏡の盾に隠れながら進んでいたが…。
「なぁ、パトス…」
「なんだ、チェコ?」
「さっきからさぁ…。
ずっとコカトリスの顔が正面に見えてるんだけど、よく考えてみたら、これ、ちょっと変じゃね?」
パトスの尻尾の毛が、瞬間、逆立った。
「…チェコ! 鏡に隠れる!
コカトリス、こっち気づいてる!」
さすがにチェコも身を竦めた。
二人は、さらにゆっくりと、前進を続けた。
しかし、女性は、もう、すぐそこだった。
いつの間にか二人の周辺には馬車の破片が散らばり、女物の衣装駕籠や、明るい色のカバン類も四散し始めていた。
苔むした大きな木の根を越え、鏡の盾が、ずりぃ…、ずりぃ…、と進んでいく。
やがて、鏡の盾は、赤いドレスの女の元に辿り着いていた。
「おい、パトス。
良かった、どうやら息があるよ」
「早く起こす!
もう、日が暮れる!」
チェコは、女の剥き出しの肩を揺すった。
「ねーさん、おねーさん。
起きてよ。ヤバいんだよ!」
豪奢な真っ赤な長髪の、美女だった。
肩を剥き出しにした赤いドレスは、艶やかなシルク製で、黒いベルベットの長手袋をはめ、金のバックルのついた黒革のベルトを締めていた。
「う…うん…」
美しい声と共に、頭を動かすと、赤い髪の毛が、サラッ、と緑の苔の上を流れていく。
やがて女は、長い睫の下から、大きな緑色の瞳を現した。
しばし。
ぼんやりとチェコを見つめ…。
「あら、なにぃ、このキュートなショタッ子は!
なに? このブロンド、本物なの?
いやぁ、本物、ってことはないでしょうけど、お目々も金色よねぇ?
まるで古代の王族みたいじゃない?」
急にチェコの顔を抱くと、わしゃわしゃと、髪といわず、頬といわず、触りまくった。