即死
猿喰い猿は、一旦、チェコたちと、距離を取ったようだ。
木々の間を飛び回る息遣いが、頭上で聴こえた。
一瞬、チェコは油断したのかもしれない。
あっ、と気が付いた時、自分の足元から、強烈な気配が熱量となってチェコに迫った。
しまっ…。
猿喰い猿の巨大で狂暴な手が、チェコに向かって跳ね上がってきた。
「ふっ…二つ頭ッ!」
チェコは、自分に二つ頭のスペルをかけた。
通常、二つ頭は、攻撃を二倍にするスペルだが、防御で使う場合、一瞬だけ自分や召喚獣の分身を作り、そちらに攻撃を受けさせられるスペルとなる。
猿喰い猿の手が、空を切った。
チェコの頭上には、二つのアースが残っていた。
「雷ッ!」
チェコは正確に、最後の雷を猿喰い猿に向けて放った。
ギャアッ!
叫びを上げ、猿喰い猿は立ち上がった。
「よくやったチェコ!」
ヒヨウは叫び、猿喰い猿に突進した。
それは、猿喰い猿がヒヨウを、その強力な両手でへし折るか、ヒヨウの剣が先に届くか、というチキンレースだった。
猿喰い猿は、獰猛な目に、殺戮の喜びを漲らせてヒヨウを抱えようとしていた。
その胸に、ヒヨウはまっすぐに伸ばした剣を突き入れていった。
驚くほどあっけなく、剣は猿喰い猿の胸に滑りこみ、猿喰い猿の顔面が、突然、表情を失っていった。
即死、というのをチェコは初めて見た。
ドゥ。
と、巨大な猿が、仰向けに倒れた。
「いやーヒヨウ!
よく剣とか使えるねぇ! 俺、剣の腕とか、全然ないから」
ヒヨウは冷静に剣についた血を拭き取り、剣を鞘に納めた。
「いや、これもスペルだ。
エンチャント減速。
これをつけた矢で射れば、逃げ足を遅くし、剣で切れば、傷つけるごとに相手のスピードを奪う。
野生動物や、さっきの…、プルートゥとの戦いでは、これがあると随分有利になるはずだ。
チェコ。
プロのスペルランカーになるなら、武器も使えないと駄目だ」
カードバトル、という触れ込みで始めたスペルランカーですが、小説を続けるにつれ、カードバトルとは言えない部分が出て来たので、ここで訂正させてもらいます。
1、カードバトルは引きの勝負ですが、スペルランカーは、基本、積み込みです。
積み込み、というのは、自分が思うように戦えるよう、予めカードを積んでいくこと、で、カードバトルでは反則の最たるものですが、この世界では、シャッフルする積極的な意味を持たないため、基本、全てのスペルランカーは、自分のデッキが思うように動くように積みこんでいます。
ただし、予想外の出来事が起きた場合、対応できるように幾つかの積み込みルートを持っています。
スペルボックス内には、仕切りがあるのです。
2、好きなカードをいくらでも投入できる。
最悪、全部ウサギでも、全部、雷でも問題ありません。
ただし、その場合、スピンウォーをお祈りスクランブルが破ったように、手の内がばれていると、勝負になりません。
3、アースの色は、色々と表記してありますが、実は、属性分解、という法則があって、基本、今のチェコたちの戦いでは何色でも使えます。
これは、例えば馬車を動かす駆動とか、ラジオのスペルカードを使えない人がいるとおかしいので、属性分解の法則によって誰でも使用できるようになっているのです。
これの詳しい説明は、小説で書こうと思っています。
どうぞよろしくお願いします。




