気配
猿喰い猿の顔が見えたのは、一瞬だった。
雷が命中したのか、それとも逃げられたのか、猿喰い猿は闇に沈んだ。
黒い体毛に黒い皮膚の猿喰い猿は、一旦、夜の中に紛れてしまったら、その速度もあり、全く知覚できない。
頭上で、再び、ガサッ、と音がする。
「チェコ!
夜の森では、目で見ようとしては駄目だ。
音と気配で区別するんだ!」
音? 気配?
チェコは、混乱しながら考えた。
が、音は、周りじゅうから、している気がする。
気配に至っては、どう感じればいいのか、まるで判らない。
必死になって猿喰い猿を感じようとしていたチェコの背後で、ヒヨウの剣が、キンッ、と鳴った。
猿喰い猿は、後ろにいたらしい。
チェコは音に耳を澄ました。
ヒュン。
何かが、チェコの右頬を掠った。
右にいるのか!
と思った瞬間、左に、凄い熱のようなものを感じた。
チェコは、左手だけを突き出し、雷、を放った。
「ギィ!」
確かに、猿喰い猿の叫びだ。
気配って、これのことか!
落ち着いて、熱のようなものを感じてみると、猿喰い猿の動きが、だんだんと、判ってきた。
チェコの右の頬を掠ったもの、それは巧みに猿喰い猿が投げた小石だ。
猿喰い猿は大変に知能が高く、高速で動き回りながら、小石を拾って投げたり、木の枯れ枝を拾って音を立てたり、巧妙なフェイントを無尽蔵に混ぜ込んでいたのだ。
「チェコ、もう少しだ。
もう一撃、雷が命中すれば、たぶん倒せる。
だが、絶対に、奴に体を触らせるな!
触れられたら、その瞬間に、死は確実だ!」
触られたら、死。
しかし猿喰い猿の腕は、とんでもなく長く、遠くにいる、と思っても、軽く腕を伸ばして触りに来る。
チェコは、三発目の雷を発射していた。
が、間一髪で避けられた…。
スペルボックスに、雷は、実はあと、一枚だった…。




