82/688
笑い
「用心しろチェコ。
襲ってくるぞ!」
ヒヨウは、腰の剣を抜きながら、囁く。
「アースを使えるよう、浮かべておけ」
チェコは、慌ててアースを出した。
それが合図になったのか、唐突に、猿喰い猿は動き出した。
動いた、とチェコが認識した時には、猿喰い猿は、ヒヨウの目前に現れた。
ギンッ
金属音が闇に響いた。
ヒヨウの剣が、猿喰い猿の手を弾いたのだ。
「チェコ、猿喰い猿は、必ず手で攻撃してくる。
奴の手に、注意を集中しろ!」
ヒヨウが叫んだときには、猿喰い猿の姿は消えている。
頭上で、カサリ、と木の葉の音がした。
チェコは思わず、頭上を見上げた。
「チェコ! 正面だ!」
はっ、と気づいた時、目の前に真っ黒い巨大な影が出現した。
「うわぁ!」
悲鳴に近い叫びを上げながら、チェコは、スペル、雷、を発射していた。
ごっ、
とチェコの手から飛び出した光りに、猿喰い猿の顔面が、鮮やかに浮き上がった。
有り得ない程に巨大な口が開き、血に濡れた錆色の牙が、不気味にてらっていた。
目は、雷、の光が反射したのか、獰猛に煌めいている。
そして、その猿とも人とも思えない、動物の顔は…。
笑っていた。




