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スペルランカー  作者: 六青ゆーせー
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終わり

白い怪物は、水のようにヨダレを滴しながら、チェコに歯を突き立てた。


が…。


「馬鹿はお前だ!」


プルートゥの剣が、一瞬前に悪魔ドルェヴァに突き刺さっていた。


そのままプルートゥは、自らの背中に灯った無数の怨霊をアースとして消費しながら、悪魔に連撃を続けた。


「ハァッ!」


ゴロタは五体の死霊を出し、プルートゥとは別の角度から攻撃を加える。


そして…。


「もう、逃がさんぞ!」


プーフが、悪魔の体を、がっちり遠隔から掴んでいた。


「あれ、プーフはアースが使えないんじゃないの?」


チェコが驚くと、


「陰狼は使えない。

奴も悪魔だからな。

だが、僕は契約者。

人間と同じ様にアースを使用できるのだ!」


プーフの頭上に三十以上のアースが浮かんでいた。


「強っ!」


に、とプーフは笑い、


「長く生きれば、アースなど自然に増えていくものさ」


言うと、更に力を込めた。


「糞が!

こんな攻撃、耐えて見せるぞ!」


悪魔ドルェヴァは悲鳴のように叫んでいた。


「ドルェヴァ、なんで死にもしないのに、そんなに俺たちにしがみつくんだ?」


チェコは、不思議に思って、つい聞いた。


「馬鹿か!

止まった時間の中に閉じ込められる、って事がどれほど辛いか判らんのだろう!

それは地獄と、何も変わらないのだぞ!」


地獄の種類は、ミカにさっき聞いた。


「えーと、火、氷、風、刃物、汚物、闇、病だったかな?」


パトスが驚愕した。


「…チェコが、いっぺんで七つもものを覚えている…!」


それはパトスにとっては、奇跡に近い出来事だったが…。


おそらく、極限状態の中でチェコの注意が他にそれなかった事が原因だろう。


「止まった時間、なんて地獄無いよね?」


「…たぶん闇、の一種じゃないのか…?」


パトスは想像した。


「病の中にも、寝たきりになるようなものはあるわよ。

きっとそれは、私たちが想像するより、ずっと辛いものなのね」


キャサリーンは言うが。


「しかし、ここで手を緩める訳にはいかないわ。

皆、さっきやったように、あたしたちは祈るのよ。

それがミカの力を何倍にもするの!」


キャサリーンたちは祈った。


チェコは、元々、集中して祈るよりは、静寂の石を維持する方が向いていた。


そして、もう一つ、チェコにできる事があった。


「スペル、力の略奪!」


チェコは石でアースを止めていても、エルミターレの岩石の効果により、召喚獣をタップすればアースを使うことができた。


「ギャ…!」


悪魔ドルェヴァは、異様に甲高い、子供のような声で悲鳴を上げ。


次の瞬間、プルートゥとゴロタの、地殻変動に近いほどの強烈な打撃攻撃の中に、粉々に砕け散っていた。





「し…、死んだかな…?」


チェコは、恐々と辺りを見回した。


「、、チェコ、あれは死なないのよ、、」


「あ、ああ、そうか…。

でも、もう復活しないよね…?」


「…大丈夫だ…」


ゴロタが言った。


「…俺のバリアーの中の奴は、完全に消滅した…。

…奴は過去のどこかの時間まで、落ちただろう…。

…呼ばれさえしなければ…、この時間に現れる事はない…」


悪魔の時間の概念はチェコには理解が難しいが、チェコの目の前から悪魔の姿は消え去っていた。


ハァ、とタークは、倒れるように座り込んだ。


皆、続いて座り込む。


「…バリアーを解くぞ…」


チェコたちを覆っていた白い空が消えていき、驚くほど澄んだ星空が、何もない平野をほのかに照らしていた。


敵軍は全滅したのか、山に逃げたのかは判らないが、見渡す限りの平地には敵の姿は、もう無かった。


「終わったーっ!」


チェコは心から叫んだ。


「もう終わったなら、眠らしてくれよ。

今の俺の楽しみは、寝ることだけなんだ」


プルートゥは、すっかり毒気が抜けたような顔でミカに促し、カードに戻った。


「ゴロタ!

本当にありがとう!」


チェコはゴロタの太い足に抱きついた。


「…何をいう。

お前が俺を救ったのだ…

チェコ、あの悪魔も、お前が倒したのだぞ…。

胸を張って良い…」


ほのかに笑って、ゴロタが消えた。


「さー、村に帰るか!」


ナミは清々しく叫んだが。


「おっと、そうはいかないぜ!」


不意に背後から声がした。


えっ、とチェコが振り返ると、チェコの背後にはピンキーの手下、左手が細長い剣を構えていた。


「ひ、左手!

いったいどこに隠れてたんだ!」


チェコは驚愕して、聞いた。


「へへへ、土の中に潜っていたのさ。

こいつで息をしていた」


円筒形の筒を出して自慢した。


「ピンキー姉さんと右手のカタキ、取らせてもらうぜ!」


チェコはポカンと、


「あんた、悪魔が俺たちを殺したらどうするつもりだったんだ?」


「お前が死ねば、本望だったさ!」


「呆れた奴だな」


ナミも感嘆する。


「とにかく、仲間の怨念は晴らすのが渡世の仁義なんだ…」


と剣を構えた左手は、だが、一瞬の後、首を食い千切られて、どさり、と倒れた。


チェコたちは、声も無く、それを見ていた。


あの袋トカゲが、左手の背後に飛び出て来たのだ。



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