夜の森
チェコたちは、ランプを片手に歩き始めた。
「ねぇチェコ、ライトのスペルの方が明るいよ?」
ミカが不満げに聞く。
「駄目だよ、ミカさん。
アースは、オバケを引き寄せるんだよ」
ミカはオイルランプなど持っていなかったが、チェコのリュックには、パトスの使うランプが予備にあった。
チェコはパトスの小さいランプで、歩き出した。
ヒヨウは、どう道を選んでいるのか判らなかったが、草も叩かずにスイスイと草の上を歩いていく。
ヒヨウの歩いた後ろであれば、安全、とのことだった。
「教えられるものなら教えた方が俺も楽だが、こればっかりは経験なので教えようがない。
今は、俺の背中を外れるな」
ミカは、ほの暗いランプの明かりで、怖々問いかける。
「ねぇ、山人とかがいるんでしょ?」
「わ、だ、す、、、わか、る、、、だ、い、じょ、び…」
ちさが、ミカの肩の上で言う。
「あら…、ちさちゃんが判るんだ、ありがとう!」
ミカに頬ずりされて、ちさは、ひひひ…、と変な笑い声をあげる。
しばらくは、皆、極力、物音を立てずに歩み続けたが…。
かさ…。
ミカの耳に、微かな物音が聴こえた。
しかし、前の男子二人は、かなりの速度で歩を進めている。
カサ…。
かさ…。
確かに…。
確かに…、ミカの左右から、草を揺らすような、おそらくミカたちを追尾している音がしていた…。
「ねぇ…、ちさ…、何か音がしない?」
「あ、た、ち…、わか、ら、なひ…」
「ね…、ねぇ、チェコ…」
「うん、音でしょ…、判ってる。
あれって、たぶん猿だよ」
チェコは、早口に言った。
「えー、猿って夜も動くの?」
「普通は、夜は木の上で休むものなんだけど、動かなきゃいけない時もあるんだ」
「えっ、どんなとき?」
「敵が迫ってきた時だよ」
「今は、俺たちが猿の動きに付いて行っているんだ」
先頭のヒヨウが答えた。
「猿の後ろには、肉食獣がいるからな」




