表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペルランカー  作者: 六青ゆーせー
678/688

笑い

チェコは、既に召喚に必要な二十アースは出す事が出来る。


冥獣アドリヌスこそ死んでしまったが、チェコの持つ大半の召喚獣は出ていて、エルミターレの岩石もあるからだ。


「召喚、黒龍山の聖獣ゴロタ!」


ドン、と音はしないが、その場の空気がガラリと変わり、音が響いたような気がした。


巨大な熊が、赤竜山に出現した。


「…どうやら、とんでもない奴に絡まれたようだな…」


ゴロタが、頼もしい声で話した。


悪魔は舌打ちし、


「めんどくさいのを呼び出しやがったな…!」


「いいか、ゴロタ!

見て判ると思うが、このボウフラ野郎が物質化したり、液体になったり、あっちの世界に逃げたりするんで手を焼いている…」


プルートゥは簡潔に話した。

彼は元々、優秀な軍人であり、優れた指揮官だった。


「奴を物質状態に固定化できれば、やりようがあるんだ。

可能か?」


確かに…。


悪魔ドルェヴァを物質世界に固定出来れば、一度は既に殺しているはずだった。


「…現実世界に閉じ込める事は可能だ。

しかし液体化や固体化の変化を防ぐのは困難だ…」


すぱりとゴロタは返答した。


「それでいい。

やってくれ!」


「ここにいる全員をバリアーにいれていいのか?」


ゴロタは、いつかのバリアーのようなものを行うつもりのようだ。


「悪いがみんな、一緒にやられてもらうぞ!

誰かを逃がして、とかやってる暇が無いからな!」


山人たちは、唾を飲みながら頷いた。

チェコたち子供が必至に戦っているのに、逃げたいとは言えなかった。


一瞬で、悪魔を白いドームが包み込んだ。


ケケケと悪魔は笑い。


「面白い遊びだ。

付き合ってやろう」


自信満々に語った。


白いドームの空中中央に、赤黒い液体が浮かんでいた。

このドームの中では、悪魔は液体か固体にしかなれないはずだ。


だが、悪魔に通用するスペルは、白の回復魔法だけなのだ。

チェコは、白のスペルなど知らなかった。


ち、と舌打ちし、ブーフが、


「下らない。

液体ならダメージを食わないとでも思ってんのか、糞悪魔!

なら、楽しませてやる!」


言うと共にブーフは空中を掴んだ。


液体が、ガチャリと四方から圧迫されていく。


「どうだ!

圧力を下げてやろう。

常温で沸騰するがいい!」


おお、とチェコはブーフの攻撃に息を飲んだ。


どういう理屈かは判らないが、悪魔は苦しんでいる様子だ。


「何だかわからないけど凄いね!」


と興奮するチェコにため息をつき、パトスは、


「…気圧が低くなれば、沸点が下がる。

やがて常温でも沸騰するようになる。

液体で居続けるのは苦しくなる…」


ふーん、とチェコはまるで理解していないように返事を返した。


気圧を下げる度に悪魔は膨張していく。


膨張すると同時に、悪魔ドルェヴァは呻き始める。


膨張のため悪魔の赤茶けた色が、だんだん小豆色に変わってきた。


と、同時に、濃い色に隠れていた細かい皺が広がってくる。

それは無数の、生き物の顔の集合体のようだった。

人間もあり、牛のような顔もあり、またチェコの見た事の無い、異様な姿もあった。


中には、人と獣の顔が重なり、異形の姿になった顔もある。

それらが皆、苦悶に歪んで、チェコを見下ろしていた。


「顔だ!」


チェコは驚いて叫んだ。


「悪魔の召喚には生け贄が必要なのよ。

おそらくあれは、生け贄になった者たちの姿でしょう」


とミカが教える。


「え、食べられないのに、その姿は体に取り込むの?」


「奴らに本当の意味の感情などは無いから、まるで美術品を鑑賞するかのように、生け贄の姿を身に焼き付け、楽しむのよ」


なんだそれは…。


リコ村の苛めっ子が、チェコをいたぶりニタニタしていたようなものなのか。


だが、その姿を体に焼き付け、美術品のように楽しむ、というのは尋常ではなかった。


「…見解の相違だよ…」


と、苦しみながらも悪魔が語った。


「私は何も所有できない。

無論、その代わりに自由なのだが、せめて束の間の美しい体験を、己の身に焼き付けても構わないではないか。

これらは、そもそも私に支払われた代価なのだから」


時間をさ迷い、召喚される度に、生け贄の姿をその身に焼きつけ、鑑賞するのだという…。


途方もなく孤独な永生者の言葉のようだが、その体は苦痛と呪いに満ちているようだった…。


だが、小豆色がピンク色に薄まるにつれ、生け贄たちの顔面はグニャグニャと蠢き始める。


「な…、なんだ…」


驚くチェコに、パトスが、


「…沸騰したんだ…」


と教えた。

なるほどそれはグラグラ煮える水のようでもあったが、苦悶に歪む顔が、不気味に体を揺すって笑っているようにも見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ