釣る
三分で、自分の持っている一番大きな召喚獣を…。
チェコは一瞬、焦ったが…。
「、、チェコ、、ウサギから出せばいいのよ、、」
とちさが教えてくれた。
「あ、そうか…」
チェコは四匹のウサギを出し、ウサギの巣穴を張った。
プルートゥは、相手が動揺しているうちに、と言うように大剣で吸血鬼に切り込んでいく。
吸血鬼は押されてはいたが、両手に何処からか短刀を取り出して、プルートゥの剣を受け止め始めていた。
ミカは、何かブツブツと呪文のようなものを唱え始めている。
タッカーは、またオルラレンの雄牛を出した。
それが最大なのか、と思っていると、
「焼却!
召喚獣をアースに戻し、カタルニアの竜兵!」
と、巨大なドラゴンと、その背に乗った甲冑姿の騎士を召喚した。
どうやら焼却、というスペルで、召喚獣を召喚時のアースに戻し、更に自分のアースと合わせてより大きい召喚獣を出したようだ。
アース一つ出すにも、色々な手があるようだ…。
と、チェコはこんな場合にも関わらず、ワクワクした。
チェコはウサギ四匹と森のリスを二匹出した。
それから黄金蝶三枚と森と闇の修験者や大地のアースを出して、エルミターレの岩石とカスバの僕を二体出す。
すかさず、エルミターレの岩石には霊憑依をエンチャントさせた。
あと二分…。
ハンザキ二号、三号、四号を出して、大マンモスも出した。
プルートゥと吸血鬼の力は、徐々に拮抗してきた。
「ふふふ、落ちたものだな。
あの傭兵プルートゥが、ただの召喚獣に成り下がるとはな!」
笑う吸血鬼の頭から、急にニョロリと三本目の腕が生えてきた。
吸血鬼の外見、とチェコが感じる姿なので吸血鬼と呼称しているが、これは純然たる悪魔であり、その姿は自分で好きに変更が可能なようだ。
別に腕など何本でも好きな場所に作ればいい。
その腕に、一瞬で、銀に煌めく長剣が握られた。
そして三つ目の腕が、プルートゥの頭に振り下ろされた。
ガツ、と岩石を撃ち合わせたような音が響いた。
「スペル、石の鎧…」
いつの間にか、プルートゥの頭の上には、大きな岩石が浮かんでいた。
言いつつプルートゥは、相手に横薙ぎに撃ち込んでいた大剣から片手を放す。
同時に、まるでダンスを踊るように片足を蹴り出し、剣の横腹を蹴上げた。
巨大な剣が、楕円の起動を描いて、プルートゥの腕を起点として回り、吸血鬼の頭に生えた腕を、草を手折るように切り落とした。
「馬鹿ほど無駄な動きをするんだな…」
言いながら、プルートゥは駒のように回転した。
吸血鬼が、胴体から切断された。
「ほらっ餓鬼ども、手を抜くなよ!」
と、しかしプルートゥは厳しく叫んでいた。
タッカーは幾つかのアースを発生させるアイテムを出し、そしてカタルニアの竜兵を焼却して。
「召喚、パンゲアの魯鈍!」
見上げるような巨大な、石像のようなものが現れた。
「呆れたわね、そんな物出してどうする気よ」
ミカが詠唱を止めて、タッカーをなじった。
「まーまー、ミカちゃん、大物を釣るには、大きな餌がいるもんなんだよ」
ケラ、とタッカーは笑う。
釣る…。
釣り、と普通に話す場合、それはチェコが黒龍山で虹カマスを釣ったような事を言うのだが、スペルランカーが釣ると話す場合、意味が違う。
魔法的には、アースの海、があると言われる。
個人個人のアースは、突き詰めて言えば、このアースの海から引かれた個人井戸、という事だ。
この海は、なので全ての生命の源、と言える。
地面とか物質とかとは違う、魂に直結した場所だ。
この海には、化物が住むといわれている。
どんな、と明確に言えるほど鮮明なものではなく、釣ったそばから崩れる程に脆い化物だが、召喚獣などとは桁違いの強さを持つという。
ただ、釣る、スペルカードは発売と禁止を繰り返している。
釣る、という非物質から物質を呼び出す危うさからだとも、この世の存在を危うくする危険性が非物質と物質の接点にはあるのだともいうが、はっきりしたことは判らない。
だが、タッカーは釣る、つもりのようだ。
「失敗なんてしたら殺すわよ!」
ミカはタッカーを睨んで、また詠唱を再開した。
吸血鬼は、胴体から真っ二つになったが、空中で爆笑していた。
チェコは、腹を決めなければならなかった。
あのカードを使うのだ。
ここで使えば、最強になると判っていた。
一万以上の人間が死んでいるのだ。
このカードでは酷い目にあっているが、使うしかなかった。
「冥獣アドリヌス!」
チェコは叫ぶが、パトスは。
「…やると思った…」
溜息をつく。
「え、どういう事?」
「、、チェコ、悪魔に食べられた魂は冥府に行かないのよ、、
ここでそれを出しても僅かな大きさにしかならないわ、、」
あ…。
だが、一応、冥獣アドリヌスは二十五のパワーとタフネスを持って現れた。




