反攻
「冷凍!」
ミカがスペルを放った。
スライムタイガーが、凍った。
「うぉう、凄い、ミカさん!」
「覚えときなさい。
召喚獣にも、それぞれ弱点があるわ。
スライム系の奴は、稲妻や火力には耐性があるけど、寒さには弱いのよ。
真冬にスライムなんて出ないでしょ」
村人たちは弓を構え矢を放つが、吸血鬼はいくら刺さっても平気だった。
ヒヨウが、不意に吸血鬼に接近した。
吸血鬼はヒヨウを片手で掴もうとするが、ヒヨウは地を這うようにして指を交わし、手に持った陶器の器を吸血鬼の顔面に投げつけた。
カッと金属的な音がして陶器は砕け、中の液体が吸血鬼にかかった。
吸血鬼の顔が、黒い炎を上げて燃え上がった。
「エルフ酒だ!」
ヒヨウは、山猫のようにしなやかに吸血鬼から逃れながら叫んだ。
俺は、どうすればいい?
チェコは迷っていた。
雷は効かないし、いきなりメテオは放てない。
「オルラレンの雄牛!」
タッカーが召喚獣を出現させた。
雄牛は、どん、と吸血鬼に野太い角を突き刺した。
「チェコ!
やっぱり、人間じゃないから、召喚獣もいつものパワーが出せるみたいだよ!」
おおっ!
チェコは感動した。
皆、やっぱり俺より機転が効く!
チェコはまだ、リコ村から出て一ヶ月も立たない、何も知らない子供だった。
だが、タッカーもミカもヒヨウも、年輪を重ねた戦闘者なのだ!
どん、と横の小屋が砕けて、スライムタイガーが飛び出してきた。
「うわぁ!」
蛭谷の男が噛み砕かれそうになった。
「コカトリス!」
キャサリーンの召喚獣が、一瞬でスライムタイガーを石にしていた。
やった!
あのスライムタイガーを、やっつけた!
それは奇跡のように、チェコには見えた。
クククッ…、と吸血鬼が笑った。
「歯向かうと言うわけか。
ご苦労なこったな、より多くの苦痛を味わうと言うのに!
そら!」
吸血鬼が手を振ると、周囲の建物五軒から、同時にスライムタイガーが現れた。
ワハハハハ、と吸血鬼は爆笑する。
「こんなものなら、幾らでも出せるのだよ!」
「召喚、ハンザキ!」
とりあえずチェコも、りぃんが体に入ったために、ギリギリ六アースのハンザキを出せた。
スライムタイガーとハンザキは小屋を崩しながら、激しく戦った。
言いながら吸血鬼は、タッカーの出したオルラレンの雄牛の角を持ち、簡単に、クリッ、とひねった。
牛の首が、それだけで千切れた。
途方もない腕力だ。
「氷の狼!」
ミカが純白の狼を召喚した。
狼は素早く、スライムタイガーの攻撃を交わし、喉笛に噛みついた。
スライムタイガーが凍りつく。
キャサリーンのコカトリスは、上空から次々とスライムタイガーを石にしていった。
「ふん、馬鹿め、そんな小鳥で俺に敵うと思うのか!」
吸血鬼は、その若木の幹程もある指から、炎の球を発射した。
コカトリスは素早く避ける、が炎の球はくるりとカーブして、コカトリスの背中に当たった。
コカトリスが、ドサリと落ちた。
矢が、吸血鬼の肩に刺さった。
無論、吸血鬼は顔色一つ変えないが…。
矢が、ドン、と破裂した。
ナミが爆弾付きの矢を放ったのだ。
「他愛の無いことを!」
と吸血鬼は笑った。
「呪い手解き!」
ミカが、聞きなれないスペルを唱えた。
吸血鬼の腕の指が、バン、と爆ぜた。
吸血鬼が、苛立ちを見せ、ミカに向かって息を吐いた。
と、黒い蛇にも見える煙となって、息がミカに襲いかかる。
「神の盾!」
ミカが唱えると、空中に白と金で作られた盾が現れ、蛇を受けとめ、蒸発させた。
何か吸血鬼に通る攻撃が、チェコにも必要だった。
だが、相当大きな召喚獣も一捻りで潰され、効いても効果は些細で限定的だった。
「召喚!」
ミカが叫んだ!
「傭兵プルートゥ!」
チェコは飛び上がった!
「ミカさん!」
ミカは笑って、
「平気よ、単なる召喚獣だから。
あれの影みたいなもの」
だが、空中には禍々しい霧が集散し始め、濃度を増して人の形を取りつつあった。
徐々に、周りの空気が歪むように強烈な殺意が濃縮されていく。
「くくくくく…」
殺意が、笑う…。
「笑っちまうよなぁ…。
人がせっかく何十年かぶりにゆっくり寝ていたって言うのによぅ…」
ギラリ、とした殺意が、チェコの背骨をカチ割るかのように走り、すぐに吸血鬼に向けられた。
「ち、詰まらねぇ悪魔かよ…」
舌打ちし、
「まぁ、ミカやタッカーじゃあ太刀打ちできねぇか…」
と、なお不満げに、
「おい、小僧ども!
三分、時間をやる!
持ってる最大級の召喚獣を吐き出せ!」
言うと、吸血鬼に向かって、大剣を振り上げた。
カカカ、と吸血鬼は笑い、
「お前、死んだのか?
笑えるなぁ!」
言いながら片手でプルートゥの剣を受けとめる。
が、受けとめた吸血鬼の手が爆発した。
「とんまな悪魔め。
お前が白のスペルに弱いなんて、お見通しなんだよ!」
吸血鬼は、怒ったような叫びを上げた。




