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スペルランカー  作者: 六青ゆーせー
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くちびる

何か、心に引っ掛かりがある。


だが、それが頭に出てこなかった。


なんだろう、何かを忘れている気がしていた。

それを思い出せば、全てが鮮明に見れるような何かがあったのではなかったか…。


くちびる…。


不意に、チェコは、そんな言葉を思い出した。

そして、背中に、くちびる、の貼り付いた子供の姿が頭に浮かび上がった。


「俺の知ってる人が、悪魔と契約したんだよ…」


チェコは、心から溢れる言葉を、溢れるままに話していた。


「その人の弟が、禁足地に入ってしまったんだ。

弟の声を追って、その人は森に入った。

だけどさ。

それは弟の声じゃ無かったんだ…」


ん、とヒヨウもチェコを振り返った。


「悪魔は契約はするよ。

でもその過程で嘘はつく。

俺は、そう聞いた…」


一瞬、空白が流れた。


「さー、違う状況のようだしな、同じに考えて良いかどうか判らないな。

禁足地に入って、そこでのやり取りだろ?

言ってみれば、悪魔のフィールドでの話では、ここと違って当然だ」


物見台の男は語った。


「ここも悪魔の魔法の中だよね?」


チェコは問う。


「まあ、出られない、という所はそうだが、平野の只中と禁足地ではかなり違いはあるだろう。

だが、何か気になる事でもあるのか?」


男の問いに、チェコは。


「うん。

出られない魔法がかけられていたはずが、簡単に出た奴がいるんだよ」


あ、とヒヨウも叫んだ。


「袋トカゲか。

確かに奴は出てきていたな!」


「あれは、袋トカゲが特別だっただけで…」


男は言うが。


「でも、おかしいんだよ。

あの時、将校みたいな人が出てきて、袋トカゲに矢を射ったんだ」


「それが、どうかしたか?」


物見台の男の質問に。


「確かにおかしいな」


とナミも語り出した。


「あれをどかすのに、こっちはメテオを三発も撃った。

外に出てくれたのなら、御の字の筈なのに、あの将校が袋トカゲをここに呼び戻したようなもんだ」


「いや、それは将校の知能の問題で…」


「あの時、もし、本当に悪魔のゲームを行っていたのなら、全ての兵士が小屋の中にいる状況はおかしいんだ。

あんたが、全て悪魔のゲームのルールを俺たちに教えた、そうだよね?」


チェコの問いに、物見台の男は、


「お前らも吸血鬼を見ただろうが!」


と語気を荒げた。


「俺の知ってる人の前に現れた悪魔は、複数の人格を演じ分けていたんだよ。

吸血鬼は必ず部屋に居る筈なのに、俺を見ていた。

それは、こういう事なんじゃないかと思うんだ」


今、物見台の男の周囲を、チェコたちは取り囲んでいた。


「おいおい、俺が吸血鬼な訳があるかよ」


男は、引きつった顔で、痙攣したように笑った。


「いや、吸血鬼なんて言ってないよ。

悪魔、でしょ?」


チェコは、男に聞いた。


男は、チェコを睨んでいた。

が、


「なるほど、勘がいい、か。

確かに、そういう人間がいる。

さっさとお前を殺しておけば良かったな」


言うまに、男は巨大化し、吸血鬼になった。


「え、悪魔が人間と合体して吸血鬼になったんじゃないの?」


タークは戸惑っていた。


「そもそも、その話が、悪魔の嘘だったんだ」


と薬師がタークに教えた。


「俺もブーフに聞いていなかったら、騙されていたよ。

ブーフのお陰だ」


吸血鬼は舌打ちし、


「あの道化師は、子供にだけは甘いんだった。

忘れていたよ」


え、とタークは驚き、


「悪魔を見つけたら、悪魔は死んでくれるんだよね?」


と叫ぶ。


「残念だけど、ターク。

悪魔はただの嘘つきだったんだ。

ただ、俺たちの命を弄んだだけなんだよ!」


チェコも叫んだ。


「いいえ。

悪魔にも最低限守らねばならない約束は存在するわ。

契約と言質と聖約よ!」


ミカが叫んだ。


「嘘をついてはいけない、というのは聖約なのよ。

聖なる、神との約束、という事。

この法則に、悪魔といえども逆らえない」


「え、こいつら平気で嘘をついているよ?」


チェコが驚くと、


「残念ながら、過程で嘘をついていたとしても、結果として相手が悪魔と契約した、とか殺されて命を悪魔に飲み込まれた、という場合、その命は冥府へはいかないの。

片牙に食べられたのと同じ事になってしまうのよ」


ふん、と悪魔は鼻で笑い。


「その通りだ。

だから違約は発生しない、という訳だ!」


タークは首を傾げた。


「どういう事?」


チェコは唸った。


「つまり、この場で俺たちを全て食べてしまえば、それで片付く、ってこの悪魔は言ってるのさ」


タークが悲鳴を上げた。


一瞬で、吸血鬼は手前にいた杣人を掴み上げた。


タフタが唸りながら、斧を頭上に振りかぶり、吸血鬼の腕に打ち下ろした。


丸太のような吸血鬼の腕が、切断された。


が、地面にゴロンと落ちた腕は、一瞬でスライムタイガーに変貌する。


「雷!」


チェコがスペルで攻撃するが、スライムタイガーの体表を雷は四散し、どこかに消えた。


「坊主、そんな玩具のスペルが、俺に通用するとでも思ったのか?

袋トカゲにも効かなかったのを忘れたのか」


ケケケ、と吸血鬼は甲高く笑った。

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