北斜面へ
「俺は、チェコ…。チェコだよ」
「あたし、ミカ」
小屋に入り、チェコとミカは、黒ヌリに話しかけた。
「あ、だ、つ、、ち、さ…」
「ちさ、かぁ!」
チェコたちは黒ヌリと和んでいたが、ヒヨウは距離を取っている。
「しかしチェコ、お前、よく、こんな危険な森で夜を過ごしているな」
ああ、それは…、とチェコは、今までの経緯を話した。
「あー、それね…、
言わない方がいいんだろうけど、もうチェコと友達になっちゃったから教えてやるわ」
と、ミカ。
「妖精女は、今頃プルートゥが捕まえているわよ。
あたしたちは三人でチェコたちを追跡してきたんだから、もう山を降りていてもおかしくないわ」
ええっ! とチェコは慌てるが、
「い…、いや、そのプルートゥって人が、馬鹿じゃなければ、とっちみち今夜は猟師小屋に泊まるはずだよ。
やばい!
何とか今日じゅうに猟師小屋に行かないと!」
ミカはカラカラと笑った。
「夜の森は危険でオバケも出るんでしょ?
諦めなさい」
ヒヨウは、考えながら語る。
「確かに、北斜面を登るのなら、夜明け前には猟師小屋に着けるかもしれないぞ?
ミカの言う通り、獰猛な肉食獣や妖しが出るので、相当に危険だが」
「行くよ!
俺、北斜面に行く!」
チェコは勢いのまま、立ち上がるが、ミカは、
「やーよ、あたし、わざわざ妖精女のために、そんなことする義理無いもの」
「えー、頼むよミカさん。
手を貸してよ」
「やーだ。
徹夜なんて、ティーンのガールがすることじゃないしぃー」
ミカは顔を背ける。
「分かったよミカさん。
俺とヒヨウは北斜面に行くから、ミカさんはこの小屋でちさちゃんと過ごせばいいよ」
ヒヨウも立ち上がる。
「あ、ちょっと待って…、女の子を、こんな山の中で一人にする気。
男が二人もいて、そーゆー事するの? 君たち?
ありえないんですけど!」
チェコは辛そうに俯くが、決然と言った。
「キャサリーンは心配だし、あっちには俺の親友、パトスもいるんだ、放っておけないよ!
俺は助けに行く!」
「いーもん、いーもん、チェコ君も、ミカが包帯女だから、本当はどうでもいい、って思ってるのね!」
「違うよ!
ミカさんはチャーミングだよ。
でもパトスは、大切な親友なんだ!」
チェコとミカは、睨みあった。
その時、黒ヌリがミカの膝に、有るか無いかの、ちいさな手を置いた。
「ミ…カ…。
と、も、だち、、、、たす、け、る、、、た、い、せ、づ、な、ご、ど…」
ミカは黙った。
チェコは、ミカを見つめる。
「わかったわよ。
しょーがないわねぇ。
ここは、ちさの顔に免じて、手伝ってやるわよ。
ハジュクに着いたら小倉パフェおごりなさいよ」




