問題
昨日書けてたのに…。
途中な事を忘れて寝ちゃいました…。
雷は、怪物には通用しなかったが、あの黒髪は出なかったな…。
チェコはどうしてか、考えてみた。
雷には始めから耐性があるので黒髪は発動しなかったのだろうか?
そうかも知れなかったが、チェコには判らなかった。
或いはパトスなら、チェコよりよほど錬金術に通じているので判るかもしれない。
パトスの前足では石を操れない、というだけで、もし仮に犬用の静寂の石、等というものがあったなら、パトスの方が絶対に優れた錬金術師なのだ。
チェコは、ゆっくりと、ゆっくりと、梯子を登っていく。
イメージとしては、梯子の縦丸太をカタツムリが進む映像を、いつかチェコは頭に描いた。
それほどの速度で、チェコは物見台を登っていた。
チェコはパトスに雷の事を話してみた。
パトスは微かに唸り、
「…怪物の、あの力には少し変なところがある…」
「変なところ?」
「…見た感じ、皮が裂けて、その中からたくさんの黒髪が出てきていた…。
…だとすると怪物の体の中は、あの毛、という事なのか、それとも一瞬で生えたのか、とにかく普通の生物ではあり得ない体の構造のような気がする…」
確かに、メテオを受け、怪物の皮膚が一瞬、裂けたようにチェコにも見えた。
そこから大量の毛が溢れ、一度は怪物の皮膚を破ったメテオを、毛が絡めとり、体内に戻ったように見えたのだ。
確かに、皮が再生したのは外道の力だとして、破れて黒髪が現れる、というのは普通の生物の動きでは無かった。
「体の中身が毛だったりして…」
チェコはジョークのつもりで言ったのだが、パトスは考え込んでいた。
「…今のままでは、なんとも言えない…」
確かにヒントが少なさ過ぎた。
本来なら攻撃して反応を見た方が良いのだろうが、外道でスペルは吸収するのではやりようが少なすぎる。
そうしているうちにも、怪物はベキベキと屋敷の壁を引き裂き、中の人間を嬉しそうに食べているようだ。
煙の中に、破壊音と悲鳴だけが聞こえている。
ナミが物見台の上に上がったようだ。
と、不意に物見台が、グラリ、と揺れた。
「この野郎!」
と声がしている。
だが、怪物の笑い声もあり、どんどん火勢を増していく火事もあり、誰の声か、までは判らない。
急ぎたいが、万一、怪物に見つかったら物見台から怪物を観察する、という目論みは崩壊するし、同時にチェコたちの命もない。
怪物は、背後でも動くものなら見極められる、極めて高い視力を持っているのだ。
チェコたちは、ただ鈍い甲虫のように、じりじりと梯子を登るしかなかった。
ヒヨウが登り、そしてチェコも物見台から中を見た。
ナミが取り押さえた男を、ヒヨウがロープで縛っていた。
「くそ、エルフめ!」
男は怒鳴っていた。
「静かにしろ!
怪物に聞こえちまうだろうが!」
ナミが耳元で囁くが、
「うるさい!
軍師、なんてふんぞり返って、蝋燭が爆発したら、慌てて逃げ出したんだぞ、あのエルフは!」
ああ、とヒヨウが笑った。
「タメクの奴、蝋燭爆弾で、こっちにハイエルフがいることに気がついたんだ。
きっと血相を変えて逃げ出したろうな」
アハハと、ヒヨウにしては珍しい爆笑を見せた。
「で、あんたは何でこんなところで丸まってたんだ?」
ナミは、冷静に聞いた。
男は、見るところ、兵士では無さそうだった。
「カード屋のお陰で研究室でも爆発が起こり、三体の化け物が外に逃げたんだ」
「三体!」
チェコは驚いた。
「お前らはあれを見たんだろうが、あれはたいした奴じゃない。
問題は吸血鬼とスライムタイガーだ!」
男が言うのに、チェコは、
「え、あれは簡単にやっつけられるの?」
と身を乗り出した。
「あいつはモグモグという小さな妖怪と、風船トカゲという研究室で作ったおもちゃを合成したものだ。
表は外道処置をした風船トカゲ。
風船トカゲは骨も内蔵もない、いわば皮だけのトカゲで、作るのは簡単だが、外側しかないのだから、すぐ死ぬ。
生命ですら無いわけだが、一瞬は生きている。
そこで外道にしてみたのさ」
あ、とチェコは思わず叫んでいた。
「それで、内部はモグモグなのか!」
「うまいこと、そうなった。
面白いだろ」
「お…、面白い、って、あれで何人も死んでるんだぞ!」
チェコは怒ったが、男は笑った。
「なに言ってんだ。
ここは戦場だぞ。
人が何人死のうが、そんなのは当たり前の場所じゃないか。
坊主には、まだ戦争は早かったか?
慣れろよ」
ハハハと笑い、
「あいつには知能も何もないから、ただ餌と見れば食らうだけだ。
面白い事に、モグモグの作用で巨大化していく。
初めは子犬ぐらいだったんだが、どさくさに紛れて、あんなにデカくなった」
楽しそうに男は喋った。
「しかし、ああデカいと、倒すのも難しくないか?」
ナミが聞くと、
「たぶんモグモグの習性で、一定以上に大きくなれば分裂するはずだ」
男は平然という。
「分裂!
外道でスペルも効かない奴が増えるのか!」
チェコは驚いて叫んだ。
「なーに、餌に釣られたところを檻にでも入れてしまえば、それで問題はないさ」
なるほど…、巨大だから難しげに見えるが、実は小さければ、ただの小動物、って事か…。
「それで?
吸血鬼とスライムタイガーって言うのは何なんだ?」
ヒヨウか聞いた。




