友達
「ヒヨウ。
この黒い子を、知ってるの?」
チェコが聞くと、ヒヨウは弓から手を離さずに教えた。
「これは黒ヌリと呼ばれる山の妖しだ。
追い払うから、そこを退いてくれ」
「そっかー。
やっぱり黒ヌリだったのかぁ。
で、ヒヨウ。黒ヌリって、悪いオバケなの?」
「黒ヌリに関しては良く判らん。
出会わないものは一生出会わないし、何度も会うものもいる。
だが山の妖しで人間では無い。
近づいても益は無い」
チェコは、ヒヨウを、ポカーンと眺め、後ろの黒ヌリを振り返った。
黒ヌリはニコニコ笑っている。
チェコは腕組みし、首を傾げ、
「えーと、もう一度聞くけど、森の民、エルフの人たちで何度も会う人もいて、特に害は無いんだよね?」
「害は聞かないな。
だが妖しであり、人とは違うものだ」
チェコは俯き、指を弄りながら…。
「あのさ…、ヒヨウ。
気を悪くしないで欲しいんだけど…。
なにか俺、この子と友達になってみようかな、と思うんだ…」
「なんだと!」
「俺さ、リコの村の住人、って名乗ったけどさ。
俺を育ててくれたダリア爺さんは移住者だし、俺は貰われっ子だったから、村の人たちは誰も相手をしてくれなかったんだ。
ただ隣のグレン兄ちゃんだけは俺と遊んでくれたし仲良くしてくれた。
凄っごい嬉しかったんだ。
だから俺、こうして、友達になってくれるって言ってる子を、悪意があるとかなら別だけど、人じゃないから、とか、益がない、とか、そういう理由なんだったら、その…、追い払う、とか、そんな風に別れたくないし、自分がそうだったから、出来ないんだよ…。
ヒヨウの方が詳しいのに、判った風なことを言ってバカかもしれないんだけど…どうかな?」
まるで、拾った仔犬を飼いたい、と願う子供のように、チェコはヒヨウを見上げた。
「あのなぁ…」
ヒヨウは困惑するが、チェコの隣に、ミカも並んだ。
「あの…、あたしも同じ気持ちなの。
あたし、ずっと師匠と旅をして育ったから、どこへ行っても友達なんていなかった。
あたしも…、この子と友達になりたい」
ヒヨウは天を仰いだ。
「全く、平地の奴らときたら。
人が妖しと交わっても、ロクなことにはならないんだぞ…」
言うが、弓を下ろした。
肩を竦めて、
「まぁ、やってみるがいい」




