空
ナミとパトスを先頭に、チェコたちは南の森を歩いた。
辺りは、なるほど何処からか、木を切る斧の音が賑やかに聞こえて来ている。
だが、今のナミの狙いは樵ではない。
それとは別に、新駐屯地を見つけ、破壊するのだ。
パトスは空中の臭いを辿る。
そして、どんどん森の奥に歩いていく。
「さすがに、こんな奥に駐屯地は作らないんじゃないの」
チェコは、薄暗くなってきた森を見渡しながら呟いた。
「いや、平野に駐屯地を作れば、どうしても俺たちの目につく、と考えたのかもしれんぜ」
とホマーは腕を組む。
「でも、森に駐屯地を作っても、こっちにはエルフがいるんだぜ」
イガは、今日はだいぶ顔色も回復してきた。
毎日、チェコはチューニングを欠かさなかったし、睡眠導入も行っていた。
「相手にもエルフの軍師がいるんだろ?」
とセイ。
「それをどうにかしないことには、また火をかけられたり、エルフ道だって安全じゃ無くなっているんだ…」
最近は確かに、敵に追われることも多くなっていた。
助けたとはいえ、ミカたちは捕まってもいた。
「だんだん手の内がバレてくるのは仕方ないんだ。
だからこそ、最後に物を言うのはココって事さ!」
とナミは自分の心臓を指差す。
「…この先、三百メートルに、大量の木の臭いが、ある…。
…大工仕事をしているのは間違いない…」
どうもパトスは問題の場所を探り当てたらしい。
「でも、大工仕事だと、攻城兵器の可能性もあるよね?」
チェコは言うが、ヒヨウは、
「周りを見てみろ。
こんなところで攻城兵器を作っても、村まで運べまい」
周りは森だ。
確かに、兵器はもっと村付近の森で作るはずだった。
しばらくすると、声を潜めてはいるが沢山の人の気配がチェコにも感じられてくる。
ノコギリの音、鎚の音、釘を打つ音などがハッキリ聞こえてきた。
ナミは相変わらず、平然と近づいていく。
森にせっせと、大工たちが小屋を作っていた。
規模はなかなか大きいようだが、まだ三割も仕上がっていない。
ざっと一回り歩いていくと、そのまま森の奥に歩き、くるりと振り返り、
「よし、ここでメテオを撃つぞ」
言われてチェコはウサギを出す。
杣人たちは、弓を構えるが、特に誰も気がつかない様子だ。
大地のアースも出して、エルミターレの岩石を出し、メテオを放った。
ゴウ…、と森を鮮やかな紅色が彩る。
チェコたちは、そのまま元来た道を帰っていった。
兵士たちが、血相を変えてチェコたちの横を通り過ぎていく。
チェコは、自分のメテオがどれ程の被害を出したのかも目視した。
多くの大工が倒れており、樵も命を落としていた。
その惨状を横目に、チェコたちは森を抜けていく。
周りに人間がいなくなると、チェコは。
「一般人が多かったね?」
と呟いた。
「いや、あれは皆、兵士だ。
奴らも狡猾だからな、地元民のような格好をすれば敵の手が止まりやすい、と知ってるんだ」
ナミは教える。
「ま、確かに一般人がこんな戦場にいないな」
ホマーも納得した。
チェコは、そう聞いても嫌な気分は変わらなかったが、しかし今日の仕事は午前中で終わりだった。
村に戻り、ナミとヒヨウ、他のエルフたちは蝋燭爆弾を抱えて再び出ていったが、チェコは真っ昼間に、風呂に入った。
青空風呂だ。
「ねーパトス。
俺、人を殺しすぎたかな…?」
いつの間にか、流されるように戦争に首を突っ込み、気がつくと多くの人を殺していた。
グレンの大切な師匠も、イガの親友のアイダスもチェコが殺していた…。
こんな、簡単な事だったっけ…?
何処から違う世界に入ってしまったのか、チェコには解らなくなっていた。
スペルカードを、夜の平原を歩いて買いに行った。
だんだんデッキが形になっていくのが嬉しかった。
エルミターレの岩石、とかを入れられるんじゃないか、と思ったのは、あの嵐の山での事だ。
あの後、プルートゥとゴロタが戦って、ネルロプァを通って赤竜山に入ると、急に戦争が起こっていた。
あのときは、まさか自分が戦争に参加するとは全く思いもしなかった。
そんなのは、何処か別の世界の話だったのだ。
片牙に襲われ、ピンキーに騙され、逃げているうちに、グレン兄ちゃんのいるヴァルダヴァ軍が元凶だとピンキーに告げられた。
パーフェクトソルジャー追いかけられ、山を逃げるうちに、段々とチェコは戦争の中に入り込んでいった。
見上げる空は、とても明るかった。
まだ太陽は、頭の真上にある。
いつも太陽は、どれだけ歩いても頭の真上にあり、こんなにチェコが人を殺しても、まだ頭の真上に太陽はあった。
「パトス…、俺…」
空に、白い雲が流れていた。
森の中で、チェコのスペルで焼け焦げて死んだ人を見た。
「俺…」
パトスは、チェコと同じ空を見上げていた。
ちさも、空を見ていた。
何処か遠くで、カラスが鳴いていた。




