猛犬アタック
村で袋をもらって、熊の爪をまとめた。
これで、この旅が無事に終わりさえすれば、チェコは生まれて初めて、まとまった財産を持つことになる。
チェコが幸運を噛み締めていると、タッカーとミカもやって来た。
「もーいきなり消えた、とか言うから、スペルの暴発かと思ったよ」
と、タッカー。
チェコは話の顛末を語った。
「あの白髪の男、外道だったのね。
どうりで強いと思ったわ」
ミカも捕まったとき、何度か致死ダメージを越えているはずの攻撃は通したのだ、と語った。
「外道と知っていたらやりようもあったけど、知らなかったからまんまとやられたんだわ」
確かに、殺した、と安心している死体が、目を外した隙に動き出したら、足元を掬われてしまう。
「グレン兄ちゃんに、強くなった、って言われたよ」
と、チェコはミルドレット隊長と本当のデュエルを戦ったことも話した。
「あー、それはたぶん一ターンキルの猛犬アタックデッキだよ」
と、タッカーは教える。
「一ターンキル!
猛犬ハヌートは三の攻撃だよ!」
チェコは驚く。
「相手が六アース出せる場合、猛犬ハヌートにアタック、という三攻撃力が高まるエンチャントをつけるのよ。
それが二アースで、アタックして攻撃が通ったときにさらにアタックを瞬間で二度目に使う。
攻撃力は九だけど、二つの呪文が使われた時、猛犬ハヌートは一、攻撃力がアップする、という性質があるんで、十のダメージが一ターンで通るのよ」
「え、じゃあ本当はあのとき、俺は十ダメージ受けていたはずだったの?」
「たぶんね。
テンプレ的なハヌートデッキなら、そうなるわね」
「え、じゃあ、どうして俺には使わなかったの?」
ミカは肩を竦めて、
「いきなりウサギが三匹並んだら、このデッキ、どう動くの?、って気になるじゃない。
相手が意表を突かれた、とも言えるわね」
「じゃあ、俺は実力で勝った訳じゃ無いんだな…」
てっきり、自分は軍に入っても結構やれるスペルランカーになった、と思ってしまった。
「ばーか。
あんたは、トーナメントなら一回は勝てるかもしれないけど、次の相手は動きが判ってるから、ホントに瞬殺されるわよ」
ミカは、鼻で笑った。
「いや、こーいう、本当の戦争ではチェコのデッキは、巨大火力も楽に使える強みはあるよ。
ただ、デュエルでは君は自分を何ターンも守らないと、まず闘うことも出来ないからね。
いわゆる遅いデッキなんだよ」
とタッカーは教えた。
「コントロールデッキなら、それでもいいんだけど、あんたのデッキ、コントロール要素もあまりないでしょ。
せめてスペル無効化四枚はないと」
ミカが言うので、チェコは兵士からぶんどったカードを見せた。
「まー、最低限のコントロール要素は達成された、感じね。
あと、漁村で買った消滅、とかがあればハヌートのアタックも交わせるから、あとは遅いデッキの早い方を目指せば良いのかもね」
「遅いデッキの早い方?」
「つまり、本当にガチガチのコントロールデッキは、世界的に有名なヴィギリス王国のビックベンのような、高度な駆け引きが必要で、それは一年二年間で身に付くようなものじゃ無いんだよ。
だから、十ターンぐらいで勝てる設計にして、その間をコントロールでしのげるようカード配分をするんだ。
敵は速攻もいれば、ガチガチのコントロールもあり、ミカちゃんみたいな防ぐ手立てが限られる相手もいるから、うまい配分を考えながらプレイングするわけさ」
「十ターンで終わらなかったら?」
「それは万策尽きて負けになるけど、そもそも、そこまで完璧にデッキを組めたら、かなり強いと思うよ」
「あたしは積極策が最強と信じるけど、上手いコントロールデッキは確かに手を焼くわね。
スペル無効化と消滅に、白でどんなカードも一枚破壊する破壊印も備えたデッキは強かったわ」
「白か…」
どうも、白は強いカードが多いらしい。
天使に色変えコンボ、殲滅と聞いて、今度はどんなカードも壊せる破壊印だという。
「白なら、僕の育った教会でも十回の講習で使えるようになるよ。
確か五十リンだったかな?」
「暴利よ!」
ミカは憤懣やる方ない表情で語った。
「え、他の協会よりだいぶ安いはずだよ。
シスターアザヘルは人々の安全を守るため、どこよりも安く講習を行っているんだ」
「なら、ただで教えるべきね」
「教会は維持するためにも最低限のお金はかかるんだよ。
白はそもそも聖職者のための色で、カードも教会系のところでのみ作られるものだから、本当はデュエルに使うことには問題があるんだ。
ただ、神の力を独占すべきではない、という意見もあって、今の形になってるんだよ。
僕は、教会で育ったから白はもう、使えるけどね」
「え、タッカー兄ちゃん、白も使えるの?
殲滅や破壊印も使えるの?」
「ああ。
ミカちゃんはこういうけど、講習だけで一アース増えるんだから、全然、安いもんなんだよ」
「え、一アース増えるの!」
スペルランカーにとっては一アース増える、というのは只事ではない。
戦いの展開が全く変わるほどの大事だった。
「コクライノに来たらチェコにも紹介するよ。
まずは洗礼を受けないと敷地に入れないけどね」
「そーゆうのもお金を取るのよ」
ミカは非難するが、
「一度、洗礼を受ければ世界中で通用するんだから、手数料みたいなものなんだよ。
巡礼地なら、格安で宿泊も出来るんだよ」
「ボソボソの黒パンと腐る寸前のワインも恵んで下さるわね」
とミカは嘲るが、タッカーは、
「清貧であることは、神の愛するところなのさ」
「あんた、コクライノのハッチャけた写真を見せておいて、よく言うわね?」
アハハ、とタッカーは笑い、
「それはそれ、さ。
人生も楽しまないとね」




