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スペルランカー  作者: 六青ゆーせー
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野法師の墓

パトスが匂いを辿って、チェコは薄暗くなりかけた森を急ぎ足で進んだ。


エルフ道に入り、しばらく歩くと森の中に突き進む。

藪を分けて森の斜面を登るうちに、陽は驚くほど早く落ちてきた。


「うわぁ、パトス、このままじゃあ夜になるねぇ…」


黒龍山に入って以来、ずいぶん夜の道も歩いたが、それは全てヒヨウの後ろを歩いてきただけだ。

パトスという頼れる相棒がいるとはいえ、エルフ無しの夜の山はさすがに背筋が冷えてくる。


「…チェコが欲の皮を突っ張らせて、熊の爪を集めてたせい…」


パトスは唸るように反論する。


「えー、だって金があればカードを買えるんだよ。

集められるだけ集めるのが当たり前じゃない」


チェコは自己を正当化するが、


「、、チェコ、もうそろそろ片牙も現れるかもしれないわ、、」


ちさが教えた。


「片牙!」


そうだった!

昨日は、なんとなく味方のように動いたが、奴はそもそも誰の味方でも敵でもない。

ただの死、なのだ。


「ま、まだ村には着かないのかな?」


チェコはビビったが、パトスは冷静に、


「…俺が知る訳が無い…」


と突き放した。


まろびとの村へは正面の門以外には抜け道を歩くしかないが、ヒヨウの匂いを辿っているチェコたちは、ナミがどんなルートで帰ったのかなど知る術はない。

ただ、匂いを追うのみだ。


チェコは、ランタンを灯すことにした。


そうしなければ、もう足元が危なくなっていた。


薄暮と言うのだろうか。

森の中なので平野のそれとは違うものの、全てがぼんやりと暗い。

しかも闇は、一分一秒ごとに深まっていく。


すぐにチェコは、パトスの尾だけを見て歩くようになった。


昔、平原を歩いた頃は、よくそうしていたな、とチェコは思い出した。

平原にはもぐらの穴などもあり、これが意外と厄介だ。

うっかり足を折るのは、大抵、道の穴にはまる場合が多い。

だから前をパトスに歩いてもらうのだ。


斜面はキツいものの、ナミが選んでいる道なので歩きやすい。


だが、パトスの尾だけを見て歩いていたチェコは、パトスの尾が緊張に震えたのを、パトスと同時に感知していた。


「パトス?」


「…片牙の臭いだ…。

…まだ、遠いが、俺たちの後方百メートルぐらいに、いきなり現れた…」


片牙は、不意に消えたり、不意に現れたりする。

スペルのテレポのようだが、オバケの能力なので、山の中でも狂わない。


あるいは狂っているのかもしれないが、崖の側面でも普通に歩ける片牙には、なんの問題も無いのかもしれない…。


「い…、急ごうか、パトス?」


「…この暗がりで急ぐのは危ない…。

…転べば余分なタイムロスをするだけ…」


確かにそうだ。

怪我など負ったら、逃げられるものも逃げられなくなる。


チェコたちは、余分な汗をかきながら、斜面を歩み続けた。


「パトス…。

奴はこっちに気がついているの?」


「…片牙の気持ちなど、俺に判るか…!

ただ、奴も山を登ってきている…」


つけられているのだろうか?


それとも、たまたま同じルートを歩いているだけなのか?


チェコたちは今、白い道でもエルフの道でもない、ただの山肌を歩いていた。

エルフ酒や塩は持っているが、服を脱いだりしているうちに捕まったら一瞬で絶命する他なくなる。

百メートルという距離は、近いのか遠いのか、チェコには全然判らなかった。


だが戸惑って足を止めたりしている場合ではない。

チェコは、必死に歩き続けた。


と、不意に…。


背筋に痛みを覚えるような絶叫が、森に響き渡った。


うわっ、助けて! と、まさにチェコの背後で複数の叫びが重なった。


どさ、と重い肉が、地面に投げ落とされた音。


片牙が、生者の命を吸い取って、残りの青ざめた肉を無造作に捨てる音だ。


チェコの足は、凍りついたように固まるが、必死に歩み続けた。


パトスは、不意に足を止め、木の根に鼻を押し付けた。


と、する、っとパトスが消えた。


チェコも木の根にカンテラを突き刺した。


そこは隠し道のようだった。

急いで、道に降りた。


「ここ、白い道だよね?」


カンテラの火が、道に明るく照り返していた。


「…俺は知らない。

…安心するな…」


パトスは言うが、道を歩く安心感に、パトスの尾は自然と激しく揺れていた。


チェコとパトスは、必死に道を歩き、十分ほどで、まろびとの村に帰りついた。


「チェコか!

どうしたんだ、急にいなくなって!」


何処かで見ていたのか、チェコは詮議されもせずに村に入れた。

ヒヨウはすぐに駆けつけ、喜んだ。


「へへへ、見てよ!」


チェコがリュックから大量の熊の爪を取り出すと、


「え、まさか本当にそんな物が?」


さしものヒヨウも驚愕する。


野法師の墓があった、という話はすぐにまろびとの村全体に広がり、チェコのリュック一杯の熊の爪は、暗い戦陣の中の明るい話題として大いに盛り上がった。


「爪より牙のが高かったんだぜ」


とタフタは教えるが、セイは、


「いや、牙は猪とかもあって紛らわしいから、爪だけを集めたのは正解だろう。

こりゃあ一財産だぜ!」


と笑った。




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