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スペルランカー  作者: 六青ゆーせー
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捩じれる

「痛ててて…」


チョコは、水際の穴に落ちてしまったようだ。


全身が痛んだが、転がりながら確認すると、別に体の何処かを痛めた訳では無いらしい。

うまく転がれたため、身体中を打撲はしたが、どこかを決定的に壊してはいなかった。


「…チェコ…!」


パトスが身軽に、穴に飛び降りてきた。


「あー、パトス。

一体なんだろう、この穴は…?」


チェコは呻くように話した。


チェコたちは、川の真下にいるようだが、辺りは湿ってはいるものの水没はしていない。

あまり聞いたことの無い地形だった。


「、、自然の地形ではないと思うわ、、。

、、隠し通路の一部では無いかしら、、」


周りは暗く、チェコには細かいところまでは判らないが、石や砂利などで出来た空洞に感じる。


「じゃあ、歩けば何処かに出るかな?」


チェコは背負っていたリュックから、カンテラを取り出し、火打石で火を点けた。

ぼんやりと浮き上がったのは、巨大な石で作られた地下空間だった。

どこからか水が滴るような音はしているが、足元は乾いている。


ちさの言うように抜け道、とも思えるが、それにしては足元が悪い。

天然の洞窟、とも思えるのだが、あんなに水辺なのに周辺が乾いているのが不思議だった。


が、首を傾げている場合ではなかった。

追手は近くに迫っているはずだった。


チェコは探り探り道を進むが。


ピュン、とチェコの頬っぺたに痛みが走り、奥の岩にガツ、と火花が散った。


「弓!」


チェコは叫んだ。


「この糞ガキがっ!

テメェのせいで、俺らぁ、こんな距離から矢を外すようになっちまったぜ!」


白髪のアイダスが、怒りに震えながら走り寄ってきた。

腰の長剣を、シャッと抜き放つ。


まずい!


チェコは悲鳴を上げそうになっていた。


相手は熊殺しのアイダスであり、チェコは、仲間がいない丸裸状態だった。

杣人やヒヨウやナミがいれば、彼らが足止めしているうちに体を狂わせることは簡単だったが、今、アイダスはチェコが静寂の石を出すより先に、チェコの首を跳ねられる位置にいた。


「雷!」


チョコは、アイダスに攻撃スペルを必死に放った。


ギャ、と叫んでアイダスは吹き飛ぶが、凄い音を立てて岩壁にぶつかっても、ふらり、と立ち上がる。


「ち、外道め…」


チェコは唸った。


相手は熊殺しの上、不死身なのだ。

だいぶ老化したようだが、きっと軍のスペルランカーに修復されたのだろう。

相当にチェコを恨んでいた。


アイダスの動きさえ止められれば、静寂の石で、再びチューニングを狂わす事も出来るが、アイダスは、すっかり若さを失ったとはいえ、熊殺しの実力は揺らがない。

身体能力も剣の腕もピカ一だ。

その上に外道で不死身なのだ。


「雷!」


立ち上がったアイダスに、再度、攻撃スペルを放つが、アイダスは軽く横に飛んで交わすと、そのまま獣のようにチェコに飛びかかってきた。


やられる!


「透明の壁!」


ドカッ、とアイダスは壁にぶつかって崩れ落ちた。


チェコは瞬間、何とか壁で逃れる事が出来た。


「雷!」


倒れたアイダスに、間髪入れず攻撃スペルを撃ち込み、悶え苦しむアイダスに、


「油溜まり!」


とスペルを畳み掛けた。


一瞬でも気を抜けば、不死身のアイダスはチェコがスペルを使えない接近戦に持ち込んで、容易くチェコの喉笛を噛み千切るだろう…。


ドスンと滑ったアイダスに、再び雷を撃ち込むと、アイダスは勢いよく燃え上がった。


ギャァア!


と叫ぶアイダスだが、すぐに回復するのは判っている。


「底なし沼!」


燃えているアイダスを地面に落とし、静寂の石を取り出した。


「うわっ!

止めろ!

止めてくれ!」


アイダスは泣き叫ぶ。


だが、ここで止める訳がなかった。

そんな事をすれば、殺されるのはチェコなのだ。


チェコは白から順に、逆向きにアイダスの体を意図的に狂わせていく。


アイダスは悲鳴を上げながら白により捻くれていく。

雑巾のように、身体がへし曲がり、指がベキベキと骨ごと折れ、背骨は捩れ、血反吐を吐いた。


紫により腐り、頬に穴が開いた。

身体が青く変色し、鼻が落ちた。


緑によりカビが生え、白い胞子に包まれた。


闇により干からび、顔にヒビが走った。


炎により燃え、爛れた。


そして水により、どろり、と溶けていった。


地面に突き刺さった奇怪な生ける腐敗物を、チェコは肩で息をしながら眺めた。


やってやった…。


ブギュウゥゥゥゥウ!


と、しかしアイダスは、まだ威嚇するように叫んでいた。


だがスペル底なし沼は、無限にアイダスを閉じ込まない。

一定時間が過ぎれば、魔法は解けてしまう。


チェコは、静寂の石の対象をアイダスの周りの石に変え、現在の、スペルで閉じ込めた状態で石を固定した。


そこまでして、チェコは、ハァ、と大きくため息をついて、沈むように倒れた。


死ぬかと思った。

まさか自分一人で、ここまでできるとは思わなかった。

本当に、ただ運が良かった。


「…チェコ、たぶんグレンも近くにいるはず…。

早く、逃げるぞ…」


グレンの名を聞いて、チェコの心は泥の中に沈んだ気分になった。

もはや、あの優しいグレン兄ちゃんは二度と、戻らないだろう。

俺はグレン兄ちゃんの師匠を殺したカタキなんだ。


唇が震えて、微かに涙が流れたが、意を決してチェコは立ち上がった。


俺の帰る場所は、もうリコ村じゃ無いんだ…。


隣のグレン兄ちゃんとは、二度と会わない場所に、チェコは既に来てしまっていた。

もはやチェコとグレンは、敵同士に過ぎなかった。





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