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黒ヌリ
小屋の隅で、小さな黒い影は、ただニコニコと笑っている。
「ねぇチェコ君。
この子…、あの…、山人、だっけ? 夜の子供? それなの?」
「う…うーん、俺も自分の目で見るのは初めてだからなぁ。
ただ…、人に成りすまして、ないよね?」
「真っ黒よ?」
「ちょっと外に出て、火を焚いてよく見てみようか?」
小屋を出ると、焚火は、まだ微かに残っていた。
小枝を燃やして、影に近づけてみるが、影は白い歯を見せて、ニコニコ笑うばかりだ。
どう、と言うように、ミカはチェコの事を見た。
「うーん、おそらく黒ヌリじゃないかと思うんだけど、黒ヌリの事はよく知らないんだよなぁ…」
だが影は、そろそろ、と小屋を這い出て、焚火に近づいてくる。
困惑する二人だったが、森の下生えが、ガサリ、と掻き分けられ、少年が姿を現した。
「チェコ、そいつから離れろ!」




