爆破
特に忍ぶ、という訳でも無く、ナミに率いられたチェコたちは大工場へ近づいていく。
そこに、見張りの兵士は見えている。
が、平然と近づくチェコたちに注意を向けなかった。
そこには、二階家程の木造の物体が作られている最中だった。
少し片側が大きく、歪んで見える。
しばらく眺めて、それが縦になったとき、装甲板付の階段となるよう作られているのに気がついた。
高い!
もし起こしたら、たぶん十メートルを越える台になりそうだった。
横に倒していても、二階家程の大きさなのだ。
こんなものが完成したら、確かにまろびとの村は陥落する…。
それはゾッとするような巨大建造物だった。
だが、こちらに気がついていないとはいえ兵士が見張っているのだ。
どうしたら…。
と、チェコは煩悶した。
当たり前のように、ナミを先頭に杣人たちは攻城兵器に近づいた。
「よーし、ここだ!」
平然とナミは巨大な攻城兵器をピタピタ叩き、
「よし親方、さっさと済まして昼飯にしようぜ!」
と景気良く喋り始めた。
親方呼ばわりされたホマーも面食らうが、
「おお。
今日の弁当は、母ちゃん、張り込んでるから楽しみだぜ」
ホマーの言葉に、ナミはヒャッヒャと笑い、
「相変わらずお盛んだな!」
と言いながら、チェコにかがんで、
「とっととウサギ出して、先を狙って撃っちまえ」
と囁く。
チェコは油汗が滲むが、こっそりとウサギと大地のアースを出し、エルミターレの岩石を出すと、次のターン、攻城兵器の先端に向けて、メテオを放った。
盛大な爆発に、ナミは飛び上がって驚き、
「てっ、敵襲だぁ!」
と叫んで、兵士のいる方に走った。
当然、チェコたちも倣うと、兵士は慌てながらも、
「早く!
駐屯所へ逃げるんだ!」
と無意識か、南を指し示した。
「うわぁぁ!」
と叫びながら兵士の指差す方向に走り、
「爆発した!」
と叫びながら、森にフェードインした。
しばらく走り、やがて足を止めると、ナミは、ニィと笑って、
「な、平気だったろ?」
と笑った。
「ちょっと打ち合わせとかしてくれよ。
ビックリして心臓が止まりそうだったぜ」
とホマーは抗議するが、周りからは笑いが漏れる。
「それより、駐屯所へも行くのか?」
イガは、高揚したように言うが、
「いやいや、さすがに駐屯所はまずい。
まずいが、位置はそう、知っとくと後々良いこともありそうだ。
俺は調べて来るから、ヒヨウ、川の傍のエルフ小屋までみんなを連れていけ」
言うときには、ナミは既に木に登っていた。
「よし、みんな、エルフ小屋に行こう」
今度はヒヨウの言葉に反発は無かったが…。
「しかし、凄い人だな、ありゃ」
とロットも唸る。
「彼は、各地の戦闘に参加している歴戦の勇者だ。
長老の呼び掛けに応じて、わざわざ時告げ峠から来てくれたんだ」
ヒヨウは教える。
「でもヒヨウを知ってる風だったね?」
チェコが聞くと、
「ああ。
エルフというのは習熟度を見てもらうことがある。
半年ほど前に、俺はあの人に三日間付きっきりでそれをしてもらったので見知っていた。
だが俺も、実戦のあの人が見れるとは思っていなかった。
大変な幸運だ」
ヒヨウにしては高揚したように語った。
森を十分も歩くと川の音が聞こえてきて、
「ここだ」
木々の間の藪に、ヒヨウはするりと入っていく。
それは建物の天井に位置してしたらしく、中は広々とした小屋だ。
奥に井戸もある。
「おー、水が無かったんだ!」
チェコは井戸に飛び付き、えっ、と叫んだ。
「…どうした、チェコ…!」
と足元でパトス。
チェコはパトスを抱き上げた。
「…川…?」
「そうだ。
川の水を引いて来ているんだ。
そこからカヌーを下ろせば、川にも出られる」
ヒヨウが言うと、杣人たちも井戸に集まって感心していた。
「凄い工事だな」
セイが驚くが、
「厳密には、自然の洞窟の上に小屋をかけたのだ」
とヒヨウは教える。
皆で珍しがっているうちに、ナミは戻った。
「よし、駐屯所はなかなか面白い場所だった。
今日はまろびとの村に戻ろう」
「え、まだ陽も高いが?」
イガは驚くが、
「そうそう近場でゲリラしてると、家捜しされる。
充分な戦果は上げたのだから、とっとと帰るのが一番良いのさ」
ナミは笑った。
チェコたちは、抜け道のトンネルを使ってまろびとの村に戻った。
村は一日平和だったらしい。
やがてタッカーたちもボロボロに疲れて戻ってきた。
チェコはタッカーと湯に入り、ホカホカと出てくるが…。
「まずいぞ、ミカたちが捕まったらしい」
エルフたちが集まっており、端にいたヒヨウがチェコに教えた。




