逆転
「包囲はまずい。
パトス、どっちに逃げたら包囲を抜けられる?」
ヒヨウが立ち上がりながら、パトスに聞いた。
「…左だ…。
一組の集団を交わせば、包囲は崩せる…」
「よし、いくぞ」
ヒヨウは言うが、
「え、ナミさんはどうするんだ?」
イガは驚く。
「ナミなら、俺たちを簡単に探せる。
まず、安全なところまで逃げるんだ!」
「しかし、そう言ってタカオさんもはぐれたままじゃないのか?」
セイも言うが、
「おい、敵に包囲されたら、ヒヨウ君の言う通り、俺たちは全滅だ。
ここは彼に従おう」
ホマーが言うと、杣人たちは頷いた。
どうも何かのわだかまりが、杣人とヒヨウの間に生まれているようだ、とチェコは感じた。
これだったらタフタに来てもらえば良かった。
タフタは、あまり落ち込んでいるタッカーを心配して、蛭谷と一緒に行ってもらっていた。
「、、チェコ、、今はあまり、、口を挟まないそうがいいわ、、」
チェコの想いを察知して、ちさがチェコをたしなめる。
「でもさ、ヒヨウはずっと良くやっているのに…」
と、チェコはちさにだけ聞こえるように、囁いた。
「彼らも、、いっぱいいっぱいなのよ、、。
それに仲間も亡くなっているの、、」
ハラチの死は、チェコだって悲しい。
だが、悪いのはピンキーで、ヒヨウでは無いはずだ。
しかしチェコたちは急いでいた。
ヒヨウを先頭に、下生えを掻い潜りながら木々の間を小走りにすり抜けていく。
「パトス、敵はどうなってる?」
チェコが聞くと、
「…包囲は抜けた…。
…だが、依然、俺たちは補足されている。
道が険しいので少しづつ差は出来ているが、追っては来ている…!」
「くそー、追跡犬か…。
犬を巻けないのかな?」
「…水場を越えるとか、強い臭いを撒き散らす、とか…、方法はある…。
だが、多方面から追われていると、なかなか難しい。
一度、振り切らないと無理…」
パトスは唸った。
ヒヨウは、岩場を登り始めた。
「イガ、大丈夫か!」
昨日まで寝ていたイガは、顔色も明らかに悪く、半分ロットが抱えていた。
「バブル!」
チェコは、イガをバブルで包んだ。
バブルの中で、イガは肩で息をしていた。
ヒヨウは、しかしペースも全く落とさずに岩場を登っていく。
かなりな急傾斜だったが、ヒヨウの歩くルートは、階段のように歩いて上れた。
チェコたちは、必死に岩場を登り続け。
「パトス、どうだ、敵はどうなっている?」
十分ぐらい登ったところで、ヒヨウはパトスに聞いた。
「…敵は皆、一直線に、岩場に取り付いている…」
「よし、チェコ、土石流を使ってくれ」
おお、とチェコは足を止め、ウサギを召喚、大地のアースも出して、次のターンでエルミターレの岩石を召喚。
「土石流!」
すぐに足元の岩場がグラリと揺らめき。
架空の岩崩が巻き起こる。
すぐに現実の岩も押されて崩れだし、巨大な土石流が大地を揺らした。
「パトス、追跡者は?」
ヒヨウが問うと、
「…全滅だ…!」
パトスは叫ぶ。
おお、と杣人たちは歓喜する。
「お前、判ってここに誘い込んだのか?」
イガは驚いた。
息は静かになっているが、顔色は悪いままだ。
「地形ぐらいは頭に入っている。
チェコ、こっちへ来い」
ヒヨウに招かれ、岩場を横に進むと。
森が途切れ、岩場の突端に出た。
すると、数十メートルの眼下に、森が切り開かれ、小屋がかかっていた。
「おー、小さな鍛冶小屋が出来てるね。
これなら、別に錬金術師がいなくても、小物ぐらいは大量生産できる」
どうやら、大工ではなく、鍛冶場をチェコたちは発見したらしい。
「やってくれ」
その一言で充分だった。
チェコはメテオで小屋を破壊した。
「おお、見事だな。
こりゃあ敵が血眼で追いかけるのも判る」
ナミは、木のてっぺん近くを、猿のように飛び跳ねて移動していた。
軽やかに岩場に降りると、チェコを誉めた。
「おお、ナミも無事だったか!」
と杣人たちは笑顔になる。
「追っ手をどうしようか迷っていたが、さすがヒヨウだ。
迷いの無い行動だな」
「なに。
教えられた通りに動いただけです」
とヒヨウは、顔色一つ変えない。
「朝一番の仕事にしては、いい稼ぎだ。
この調子でやっつけよう!」
ナミが明るく言うと、杣人たちの意気は大いに上がる。
「パトス君。
何か臭いはあるかね?」
ナミはとても明るい人のようだ。
皆も元気になってくる。
「…ある…。
鍛冶場の傍に、おそらく大工が集まっている…。
…だが、今の騒ぎで、警戒するだろうな…」
ふぅむ、とナミは顎に手を置き。
「ま、犬に警戒しながら、接近してみても悪か無いかな?」
問うように皆を見回すと、チェコも杣人たちも頷いていた。




