昼寝
「え、天使って、そんなに強かったの?
呪われた石像とかの方が強くない?」
「それは、頼めばカードになってくれるような小物の天使の話よ。
ドラゴンも天使も、リアルではチャチな召喚獣より何桁か違う生物なのよ」
ミカは、半ば壊れた壁越しに話をしている。
壁の反対側の浴場でロットが、
「ん、ちょっと待てよ。
天使って生物なのか?」
「馬鹿ね。
肝があるんだから生物に決まってるでしょ」
言われてみれば確かにそうだ。
「え、じゃあ妖精は?」
チェコの問いにミカは、
「精というのは生物の範疇から外れるわ。
なにも食べないし、眠りも必要ないのよ」
ん、とチェコは焦り始めた。
「天使って、シッコとかするの?」
ミカは、片手で頭を抱えて、
「知らないわよ、天使の友達なんていないから。
もし会うことがあったら、聞いてみたら?
命がどうなっても良いならね」
チェコは負債の天使ガルムと戦ったことがあったが、あれと会話するなど想像も出来なかった。
「案外、雨だと思ってたら…」
などと、何故か神妙に天を見上げたチェコだが…。
湯から上がると、チェコの体には少し大きいが、服が用意されていた。
「わぁ、ありがとうミカさん!」
「もう子供が大きくなったから、いらないそうよ。
有り難く貰っておきなさい」
言うミカは、チェコの服やズボンを洗ってくれていた。
「あ、ありがとう!
汚れてたのに…!」
「まー、こっちも助かったんだから良いわ。
しばらく乾くまで休んだら?」
ちょうど陽なたは気持ちよく休めそうだ。
歩くと、イガが薬師に傷を見てもらっていた。
「うん、よく縫えてる。
これ以上は僕も出来ない。
薬を調合するから、煎じて飲むようにしなさい」
チェコはイガに手を振って、陽だまりに寝ころんた。
相当疲れていたのか、すぐに寝入ってしまった。
目を覚ますと、太陽は少し傾きかけていた。
ハァ、と伸びをしながらチェコが立ち上がると、
「あ、チェコ、そこだったのか。
今、呼びに行こうとしてたんだよ」
「タッカー兄ちゃん、大丈夫だった?
相当、疲れていたようだったから心配してたんだよ」
だが、何故かタッカーは、山歩きをしていた頃より肌艶も血色も良い様子だ。
「いゃあ、毎日大変なんだけど、山を動き回るよりは僕には向いてるみたいだよ」
確かヒヨウは、今後はタッカーも、蛭谷か漁師の村人と共にゲリラに出る、と言ってたよな、と思ったが言わないでおいた。
「元気そうで良かった」
「チェコ、昼飯だから来いってさ。
こっちだ」
元気にタッカーは案内してくれる。
ふーん、とチェコの髪を触り、
「僕も今度、金髪にしてみようかな」
と呑気に話していた。
「あ、街だと髪の色を変えられるんだよね、どーやるの?」
「脱色するか、髪用の染め粉を使うんだよ。
染め粉は、水に濡れると落ちちゃうからめんどくさいんだ。
僕は色を抜こうかな」
とグルングルンの癖っ毛をいじる。
金髪のタッカーは全く想像できなくて、チェコは吹かないように我慢していた。
倒壊した建物の先に野原のような場所があり、椅子とテーブルが並べられ、卵やハム、ソーセージ、チーズなどが並んでいた。
「おー、俺、しばらく麦せんべいとか干飯しか食べてなかったんだよ!」
と感動する。
「また喰えなくなるから、沢山食べとけ」
「あ、タフタさん、良かったよ元気で!」
チェコは再会を喜びながら、目玉焼きやオムレツ、肉やチーズを腹に押し込んだ。
「さて、では明日から、杣人グループ、漁村グループ、蛭谷グループに各二名のエルフと一名のスペルランカーをつけて、再びゲリラ戦を展開する。
敵には軍師がいることが判っているから、深入りは避けて移動しながら戦うようにしてくれ」
どうもタッカーは、蛭谷グループと出発という事になり、今までの肌艶も一気に失っていた。
その日はゆっくり過ごし、早めに寝て、翌日、チェコ、タッカー、ミカはそれぞれ別の抜け道へ向かい、山へ出た。
チェコたちは洞窟を進んで、どうやら、また湿地方面に出たようだった。
「もし、また囲まれたとしても、今はエルフは二人いるから前のようにバラバラにはならない。
安心してくれ」
と、ホマーとロットを助けたエルフ、ナミが新しいリーダーに入り、頼もしく語った。
戦場は、早朝とはいえ、不気味に静まり返っていた。




