集結
それからチェコたちは、森の中、道の無い傾斜路を歩き続けた。
途中、池のような山中の水場に立ち寄り、茶を飲み、保存してあった木の実などを摘まむ。
そして夕方に近い頃、再び地下の抜け道に入り、一時間ほどでイバラの小屋に帰った。
ボロボロのチェコたちを見て、キャサリーンは何かを察したように無口に皆を迎えた。
「イガはどうだった?」
セイが聞く。
「ええ、もう、だいたい熱も下がったようよ。
さっきまで起きていたの」
チェコは全身泥まみれだったので、体の泥をはたき、手を洗ってからイガの額に手を乗せる。
「うん、いいみたい」
言うと、静寂の石で、体を整えた。
「やっぱり傷の疲れは残っているね」
チューニングをすれば、体の様子も判る。
「疲れも治せるんだろ?」
セイの問いにチェコは、
「ううん、疲労って言うのは、一時的に取ることは出来るけど、それはかえって良くないんだよ。
疲れているのは事実だから、一見よくなった風にして、本人が無理をすれば、余計に疲れてしまうからね。
疲労は体からのメッセージだから、休んで癒すしか無いんだよ」
「中々難しいんだな」
とセイも納得した。
「ま、とにかく場所を移動しよう。
急ぐぞ」
イガはバブルに入れて、山を下った。
やがて森の中に、巨大な岩がドスンと突き出ている場所に出た。
岩の隙間に入ると、そこは思ったより広いエルフ小屋だった。
「ここは煮炊きしてもバレない。
まずは湯を沸かし、干し飯を食べよう」
「おい、ホマーはどうした?」
「もう夜だ、どちらにしろ、明日にならなければ動けない」
ヒヨウの言葉に、ハンダは、ムッと黙った。
「まー、そこは判るが、どこにいるのか、だけでも知れれば安心するんだ、ヒヨウ。
ハンダは親類なんだからな」
とセイが口添えすると、ヒヨウも、
「そうか。
それじゃあ、キャサリーン、火を頼む」
言って、捜索のカードを使った。
しばらくヒヨウはカードを額に当てて、瞑想状態になった。
「…二人は無事だ…」
トランスしたように、ぼんやりヒヨウは、語りだした。
「何処かに一緒にいる…。
隣に誰かが…」
言ってヒヨウは、また黙る。
やがて、ハァ、と深く息をして、体を崩した。
「二人は、上手く戦場から外れた方向に逃げられたようだ。
場所は七段落としに近い森の中にいる。
あの辺の回りには、今は全く敵兵はいない。
今、彼らは俺の仲間のエルフと共にいて、特に傷もない。
少しなら魔石で通話も出来る。
ちょっと待て」
と言うとヒヨウは魔石を口元に付けて、
「ヘゥルト、クフト、アリアレ…」
と呟き、しばらくエルフ語で話した。
そして…。
「ああ、ヒヨウか…」
魔石からホマーの声が聞こえた。
「ホマーだ!」
杣人たちが、沸き上がったように喜んだ。
「ああ。
ヒヨウとはぐれた時点でな、俺とロットは一緒だったんで、戦いの無い方向、つまり湿地の外を目指して逃げたんだ。
そうしたらエルフと出会えて、今はエルフ小屋で休まして貰ってるんだよ。
明日は合流しよう」
おお、とセイもハンダも大喜びだった。
「チェコ、そんなに泥だらけでは気持ち悪いだろう。
井戸があるから、少し洗え」
チェコは、小屋の奥にある井戸で体を洗った。
シャツだけは代えがあったので着替えられた。
「明日は、ここに来たときに登った岩山の辺りで皆と合流する。
もう、イガも連れて歩くぞ。
チェコ、イガをよく眠れるようにしてくれ」
疲れを無理に取るのは危険だったが、よく眠らせる事は可能だ。
チェコたちも明日に備えて、早々に休んだ。
翌日、イガはやはりバブルに入れたまま、チェコたちは夜明けと共に小屋を出た。
既に、だいぶ北上していたので、牙谷の上に当たる岩山へは、朝のうちに辿り着いた。
「ピピピ」
とヒヨウが両手を合わせて鳥の鳴き真似をすると、遠くで、キキキ、と鳥が鳴く。
それを繰り返し、一時間後には、一人のエルフに連れられたホマーとロットと合流できた。
「エルフは後二十人、既に戦場に来ている。
そして、蛭谷と漁師の村の手勢も集まった」
とそのエルフが語った。




