山女
どん、と、また音が響く。
チェコは、作ったばかりの小屋の中に入れ、と手で合図をした。
小屋は、ベッドを入れたら一杯、ぐらいの大きさだが、子供二人が座る分には余裕がある。
チェコは、入り口を、扉代わりに枝を置いて塞ぎ、また人差し指を立てて、しぃ、と言った。
「…あ、火が点いたままだわ…」
「…大丈夫。
山女は、目がないんだ…」
ドシン、と地面が揺れた。
「…ち…、近づいてるの?」
「山女は、人の声に敏感なんだ。
特に赤ん坊の泣き声には敏感で、赤子鳴いても山入るな、っていうんだよ…」
「…見つかると、どうなるの…?」
「山のどこかにある山女の里に連れていかれて、二度と里には戻れない、って言われている」
驚くミカに、もう一度、人差し指を立てて、チェコは小屋の外が見えるかのように周囲に目を走らせた。
ドン。
と揺れると、小屋の屋根の葉が、カサカサと鳴った。
ドン、
と足音と共に、バキバキ、と木が引き裂かれ、倒れる音がした。
ドン、
ドン、
ドン、
と、やがて音は、遠くに去っていく。
チェコもミカも、息をついて、床に崩れた、が…。
小屋の隅に、小さな黒い影があった。
ミカが、チェコの足を叩く。
「あ、だ、つ、、ち、さ、、おと、も、た、ち、に、、、あ、っ、て、、ひょ、う、た、い…」
小さな黒い影が、異様に大きな口を開け、白すぎる歯を覗かせて、ぎごちなく喋った。




