収穫
新年おめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
チェコはしばらく戦いの余韻に浸っていたが、やがて手にした五つのスペルボックスに関心は奪われていった。
一つ目のボックスには、緑のカードが入っていた。
「おー、あのパンジードラゴンが俺の手に…!」
まだ四方を煙に包囲されたままだ。
パトスの鼻だけを頼りに湿地を進んでいるのだが、慎重に歩ける場所を吟味し、進まないといけない。
だが、チェコは吟味はパトスに任せっきりにして、ボックスに目を吸い寄せられていった。
パンジードラゴンの他、マンモスや大マンモス、軍旗など、さっきまで戦っていたデッキだ。
破壊も六枚入っていた。
更に、エンチャントを割る浄化や、緑の攻撃スペル針の矢などが並んでいた。
そして黄金蝶が三枚、森と闇の修験者も3枚あった。
チェコにとっては大満足のボックスだった。
兵士は、それと別に四個のボックスを持っていた。
その一つは青のカード、スペル無効化や、チェコも1枚、赤魔湖のカードショップで購入した、場にあるカードをスペルボックスに返すタイプの除去スペル、消滅が三枚、飛行は八枚もあり、また使用者が水中行動できるようになる潜航なども含まれていた。
一つは黒のカードで、呪い、エンチャントした召喚獣を-三、や、しゃれこうべ、強い召喚獣ではドラゴンナイト五/五飛行、などがあった。
「うぉ、凄い!」
四つ目のボックスにはアイテムが揃っていた。
力の天秤を始め、アイテム召喚獣では、おそらく一番有名な、カスバの僕三/三もある。
カスバの僕は任意のタイミングで、タップすると緑アースを一つ出すエンチャントになるため、除去スペルを回避する能力が高いのが世間の高評価の理由だった。
状況によってはアースを出すこともできるため広く色々なデッキに入れられていた。
また大喰らいの壺やエルミターレの岩石も二枚づつ入っていた。
最後の一つは火のカードだった。
火炎弾や雷、大雷という二アースで五ダメージのスペルもあった。
「なんだこれ…?」
ヌゥーベルキューヌの鉄槌。
全ての召喚獣を殺し、全てのエンチャントを消し去り、全てのアイテムを壊す。
このスペルは無効化できない。
「滅茶苦茶だよ…」
チェコはどう使うのか考えるが、パトスが、
「…チェコ、ちゃんと前を向いて歩け。
敵兵が周りを取り囲んでいるんだぞ…!」
ああ、そうだった、とチェコはカードをボックスにしまい、ベルトに装着した。
辺りは依然、草に火を放たれたため、白い煙に包まれていて、視界が効かない。
だが、地面が湿地であるため、パトスが選ぶ道を歩く限り、そう炎に巻かれる恐れは少なかった。
しかし、周囲は兵士に取り囲まれてしまっている。
「どうするの?」
チェコが聞くと、
「…湿地は広いんだ。
全部を取り囲んでいたら二万人でも足りない…」
とパトスが教える。
「つまり、道とか川沿いに兵を配置している、って事か」
そうだ、とパトスは言い、
「…ヒヨウもそれは判っている。
ヒヨウの匂いを追いさえすれば、必ず上手に逃げられる…」
それを信じて、チェコたちは湿地を進んだ。
パトスが止まった。
そのまま低く屈むのを見て、チェコも四つん這いになった。
煙の中を、三人の兵士が、ガチャガチャと鎧を鳴らしながら通り過ぎて行った。
気配が去るのを待って、チェコたちは再び歩き出し、やがて…。
煙の先から、すぅ、と森が見えてきた。
「…こっちだ…」
森に潜り込み、道なき道をパトスに付いて進んでいく。
すると、唐突にエルフ道と判る場所に出た。
「良かった…。
罠は抜け出したか…」
ホッ、とチェコは胸をなでおろすが、
「…とにかくヒヨウを追う…」
チェコたちは足を速めた。
エルフ道を走る事三十分。
ピタ、とパトスは足を止めた。
そして周囲をクンクンにおう。
「…兵の匂いがする…」
そこはエルフ道だったが。
足を忍ばせ、そろそろと歩くと…。
兵士数名が、周囲をキョロキョロと見回しながら、道を歩いていた。
どうも少人数で、発見した謎の道を探索している、という風だ。
チェコは素早く、雷を三発放った。
鉄鎧を着けている兵士にはことさら雷が効く。
ドーンと弾け、倒れた三人の兵士に走り寄り、チェコは素早く、短剣で止めをさした。
カードボックスを漁り、雷やスペル無効化などの使えるカードを抜いて、ボックスは戻し、チェコは走り去った。




