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スペルランカー  作者: 六青ゆーせー
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イガの容態

「イガの容態は心配だな…」


ヒヨウはセイの言葉に頷き、


「直接、心臓や肺は傷ついていないが、すぐ側の傷だからな。

そう簡単じゃない」


包帯を新しくし、体も拭いた。


「まだ動かしたくは無いが、ピンキーが今日、張っていたのはここから近い。

何日も同じ場所にいると、痕跡も残るし色々マズい。

明日はイガを連れて、北に進んだ方がいい」


確かに。

もし居場所が突き止められたら、キャサリーンもイガも命はない。


「少し早めに動きたいから、早く休もう」


チェコたちは早々に眠った。


翌日、まだ星の出ているうちに、イガはバブルの中に入れて、チェコたちは岩を登り、動物森の中を進んだ。


「動物森には片牙はほとんど出ないんだ。

たぶん何かの毒が苦手なのだろうが、それが何かは突き止められない」


ヒヨウは語った。


動物森から、溜池には出ずに森を登るルートを取る。

数分すると、ふと、森が明るくなった。

森の中の夜明けは、唐突に訪れるようだ。


一行は山を登り、やがて道がなだらかになった、かと思うと、そこは谷底のような場所だった。


そこかしこにイバラの繁みがあり、その中の一つの前にヒヨウは立った。


「ここだ」


エルフ小屋の周囲を上手くイバラで囲い込んだらしい。


中に入ると、


「おー、洞窟よりは、だいぶ居心地がいいな」


と杣人のリーダーも明るい声を出した。


ヒヨウは布団を敷き、イガを寝かせた。


外では、陽気に鳥たちが囀ずっている。

イガとキャサリーンを残し、チェコたちは再び攻撃に出掛けた。


「なあ、本当のところ、イガの具合はどうなんだ?」


とロットは聞く。


「ああ。

熱は下がりつつある。

膿も少なくなっているし、回復はしているのだろう。

何日かはかかるだろうがな」


それなら、とロット。


「やっぱり、まろびとの村に運ぶべきじゃないかな?

俺らだって、その方が自在に動ける」


「まあ、ここまで頑張ったんだ。

もう何日か様子を見ても良いんじゃないか」


と杣人のリーダー。


「ま、今日次第かもしれないな。

夕方に溜め池で見つかったのは痛かった。

隠れ家を探すヒントになるからな。


今後、そういうことが無いようならば何日かは稼げるはずだ。

それに、ここにはチェコがいるからな」


「どういう事だ?」


ロットは首を傾げる。


「熱があるのは、体が戦っているからで、そこで熱を下げたらいけないんだよ」


とチェコが説明する。


「その間は俺は何も出来ないけど、熱さえ下がれば体調を静寂の石で整えられるから、回復は早いよ」


おお、と杣人たちは歓声を上げる。


「そういう事だ、イガはおそらく、後二、三日で復帰できるはずだ。

もう少し頑張ろう」


ヒヨウの言葉で、杣人たちの意気は上がった。


ヒヨウは谷の中に入っていき、岩の隙間に潜り込んでいく。

そこはどうやら洞窟のようで、巨大な岩をよじ登ると、勾配のきつい、滑るような下りを伝って降りた。


しばらくは岩の隙間をネズミのように這い進み、岩の間を伝い歩いた。


岩の間をツルンと抜けると、チェコは整えられた道に出た。


「なんだここは?」


洞窟の中には違いないが、馬車が通れるほど真っ平らな道が先まで続いている。


ロットの問いにヒヨウは、


「まろびとの抜け道の一つだ。

ここは戦場の下を一直線に進める、とっても便利なルートなんだ」


やがて、また洞窟に入って隙間を身をよじり進むと、岩山の上に出た。


「ここで攻撃はしない。

抜け道は秘匿しなければならないからだ。

こっちだ」


岩を下ると森に入る。


「左側には巨大蜘蛛の巣があるから近づくな」


なるほど、木々が白くなっているのは、蜘蛛の巣であるらしい。


森の中をしばらく歩くと、急に人間の声が聞こえた。


兵士たちが、まろびとの村を攻めている、その真後ろに出たらしい。


息を殺しながら、チェコはウサギを召喚してメテオを三連発で放ち、合わせて杣人たちは矢を乱れ撃った。


敵が大いに崩れたところで、


「よし、逃げるぞ!」


とヒヨウを先頭に、森の中に飛び込んだ。


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