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スペルランカー  作者: 六青ゆーせー
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ウサギの糞

「この道を使った、っていうのは、さすがに無理があるよなぁ?」


兵士がアハハと笑った。


チェコは、その兵士の足元、十センチ下で丸くなっている。


「軍師様は神経質だからな」


兵士たちは、すっかり気を抜いて笑っていた。


下生えの向こう側、神の道は、整地してあるため、五十センチほど盛り上がっている。

その下に、ヒヨウを始め、皆が息を詰めていた。


「なんだ、これは!」


と、先を歩いていた一人の兵士が声を上げた。

なんだどーした、と兵たちが集まる。


チェコは、自分の汗が、腕に落ちたのにビックリした。


「バァーカ、これはウサギの糞だよ、知らんのか?」


ワハハと爆笑が起こり、


「俺はコクライノ育ちなんだ、済まんな」


「こんな道はウサギくらいしか通らんよ、もう帰ろう」


隊長らしき声がして、兵士たちはゾロゾロと引き上げていった。


兵士の気配の絶えるのを待って、


「チェコ、ウサギを出しっぱなしにはしない方が良いようだ」


とヒヨウ。


「うん、大喰らいの壺にアースを貯めるよ」


「それほど気にしないでも良いんじゃないか?」


ロットが言う。


「まさかウサギが召喚獣とは思わんだろ」


「だが、糞は一番辿りやすい目印だからな。

狩りをしたことのある者なら、すぐに追うことが出来る。

軍師というのが頭が切れる奴だったらまずいからな」


とヒヨウは反論した。


「しかし軍師なんてあまり聞かんな?」


と杣人のリーダー。


「時に軍は、指揮官を補佐するベテランや経験の多い者をつけるかな。

それを軍師とか軍監とか言うかな」


ウェンウェイの説明にチェコは、


「ピンキーじゃ無いよね?」


と不安がる。


「おそらく軍事関係者かな。

こそ泥に勤まる役目じゃ無いかな」


ヒヨウは身を乗り出して道を探ると、


「もう平気だ。

行くぞ」


と、おそらく昨日の神の道をさかのぼり始めた。


「これをまた使うの?」


「今回が最後だろうな。

調べられると、必ずボロが出る」


と足早に歩き、


「しかし俺たちは、イガの待つ小屋近くで破壊工作する訳にはいかない」


それは確かにそうだった。


チェコたちは一時間近く道を戻り、また山の中に入った。


道なき森を歩くうち、やがて川へ出た。


「ん、なんか知ってる川っぽい?」


「そうだ。

川など、そう幾つも無い。

昨日休んだ川だ。

今度は対岸へ渡る」


チェコたちは、岩の上を跳んで対岸に渡り、そこから丘状にせり上がった森を歩くと、やがて道は深い藪に行き当たった。


本来はとても歩ける場所ではないが、ヒヨウの後ろは歩く事が出来る。


しばらく藪を掻き分けると、まろびとの村の真後ろに出た。


そこには、三台の投石機が、既に完成していた。


チェコは大喰らいの壺に貯めたアースで、メテオを放ち、投石機を焼いた。


と、同時に藪を飛び出し、森に逃げる。


が、

付近の兵士たちは、


「森に逃げたぞ!」


と叫んでいた。


チェコは必死にヒヨウの背中だけを見て走った。


森の中を何十分か走り、やっとエルフの道に出た。

ほんの人一人が歩ける、曲がりくねった道に過ぎないが、ただの森よりは数段歩きやすい。


「やはりバレているようだな」


とセイも唸る。


「当たり前だ。

昨日だけでも、相当の被害を出しているんだ。

これからは必ず、あーいった騒ぎになる」


と、杣人のリーダー。


「この先の水場で、少し休んでから…」


ヒヨウが言いかけた瞬間。


森がバリバリと裂け、下生えの雑草を撒き散らして、巨大な化け物が姿を現した。


白く濁った目。


ただれた皮膚。


頭は、騎馬兵を丸のみに出来るほど巨大なトカゲのようで、背中には魚のようなヒレがあり、全身は、あの病人、のように膿のような黄緑色の液体を滴らせている。


体高は五メートル程だが、口の先から尻尾の先までは十メートル近くありそうだ。


「パーフェクトソルジャーか!」


チェコは叫んだ。


「糞!

村の壁に大穴を開けた奴か!」


杣人のリーダーも叫んだ。


杣人たちは矢を打ち込むが、粘液が蒸気を上げて、矢を溶かしているようだ。

酸っぱい臭いが、むせるように辺りに漂う。


「ヒヨウ!

奴を消すのに、どれくらいのダメージが必要なの?」


「正確には判らん!

ありったけの火力を集中しただけなんだ!」


チェコと共に、ヒヨウも叫んでいた。

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