大胆
「大胆な奴だな…」
イガは呆れたように言ったが、ヒヨウは、
「平気だ。
あそこはまろびとの村とは繋がっていない道だからな。
ショートカットして敵の盲点を突ける」
と薄く笑った。
ヒヨウは水を泳ぐように森の中を、道なき道をルートを選んで作り、驚くほど歩きやすく十五人は気が付くと、まろびとの村の裏側に出ていた。
丘の下には軍のキャンプが広がっていた。
弓矢と、メテオでキャンプを攻撃し、すぐに森の中に消えた。
緩やかな登りを三十分ほど進むと、また丘に出た。
そろそろ警戒しているのか、兵隊たちは森から離れようと画策している最中だったが、タイミングよくチェコのメテオが突き刺さり、杣人たちの遠矢も次々と兵士を倒していく。
すぐに森に戻って、なだらかな道を進んだ。
「タカオは夜襲をかける、と言っていたがどうなんだ?」
と杣人のリーダーが聞く。
「現状、アイダスに付けられている状況で昼に寝るのにはリスクがある。
片牙の事もあるから、夜はアイダスも動かないと思う。
安全な夜は休むべきだ」
とヒヨウ。
「確かに夜道では追跡も迂闊にできない。
ヒヨウの判断で良いんじゃないか」
イガは頷く。
「まー、しばらく地道に攻めるしか無いかね?」
セトも髭をしごきながら諦観したように語った。
道は徐々に谷地へ入り、下草の少ない薄暗い道をしばらく歩くと不意に、ほんの数メートル下に兵士たちがテントを張っている場所に出た。
兵士が振り返れば、目が合うだろう。
チェコは肌を冷気が這うようなスリルを感じたが、メテオのカードを渡され、至近距離で兵士たちを吹き飛ばした。
熱風を体に浴びながら今度は登り、する、と木の間を潜るとエルフ道に入る。
しばらく歩くと、森の中に滑り込み、数分歩いた先の大木の根元の洞に入ると、そこがエルフ小屋だった。
「驚いたな。
こりゃあ気がつかない」
杣人のリーダーも感嘆する。
「だが煮炊きは危険かもしれないので、麦せんべいを食べよう」
麦を粉にして焼いた菓子だ。
特に味は付いていないが木の実が入れてあり、香ばしい。
「少し待ってくれ」
とヒヨウは何かの草や果実らしきものをナイフで切り始める。
塩をかけ、椀に盛る。
冷たいスープのようだ。
「こりゃあ旨いな!」
イガも驚く。
「滋養満点のスープだ。
体力勝負だから、しっかり食べよう」
幾つかの漬物も備蓄されていて、オイル漬けの魚もある。
皆、美味だった。
「この、瓜の漬物は絶品だな。
かーちゃんに持って帰りたい」
とエルフのリーダー。
「戦いが終わったら届けさせる。
瓜ならプラゥモゥルには幾らでも取れるんだ」
「へー、木の上の町なのに畑があるの?」
チェコは驚いた。
「瓜は水さえ与えれば、少しの土でも大丈夫なんだ。
プラゥモゥルでは、米以外の作物は大抵作れるんだ」
「山じゃ、米は出来んからな」
とセイは頷く。
「炭鉱の方で、棚田があったよね?」
チェコもせんべいをバリバリ食べながら聞く。
「田は水も、日光も必要だから、山で作れるところは限られるんだ。
炭鉱の米も、やはり平地の米と比べると、ちょっと味は劣る」
とリーダー。
「炭鉱メシは不味いって、鉱山の奴らは皆、言うよな」
ケケケ、とロットが笑った。
「牙裂峠って、結構大きな町だよね。
劇場とかもあるんでしょ?」
まーな、とイガは笑い、
「ドサ廻りの連中だけどな。
奴らは蛭谷や杣人の村、まろびとの村でも一晩やって帰るんだぜ」
「へー、そうなんだ!
リコ村なんて三年前に手品が来たきりだよ」
「あーゆうのは、それなりに酒を飲ましたり色々しないと次は来ないのさ。
お前の村、ケチったんだろ」
「あー。
村長はケチで有名なんだよ」
「…落ちた穂は自分の物だ、ってエバってる…」
パトスも悪態をついた。
杣人たちも笑い、一息ついたところで、ヒヨウはそっと外を探り、
「よし、そろそろ出ようか」
声をかけた。
梯子を付けて木の根から出、少し歩くと川があった。
その沢沿いを歩き、渓流を降りて草むらに入り込む。
チチチ、とバッタが抗議の鳴き声を上げた。
数十メートル草に潜んで歩くと、そこは川からの段丘になっていた。
二十メートル下に、まろびとの村の平地が見えていた。




