アイダスの目的
「タカオなら、まず大丈夫だ。
木に登ってしまえば、平地の人間に森のエルフは絶対に追えない」
「でもアイダスがいるんだよ?」
チェコが聞くが、
「さすがに熊殺しのアイダスでも、タカオが本気で逃げたら捉えられはしない。
それより、これからどうするかだ」
ヒヨウは言った。
「俺が考えるには、このまま先に進み攻撃を続けるべきだ、と思う」
ヒヨウの言葉に、杣人たちは黙り込んだ。
「ヒヨウが子供だから信じられないの?」
チェコは聞いた。
「だが、タカオさんはどうするんだよ?」
セイが聞く。
「タカオなら、俺たちが戦っていれば、自ずと場所が判るから合流しやすい。
まぁ、ここの空き地も、そうそう敵に見つかる場所ではない。
何日か分の食料もあり、奥には井戸もある。
ここで隠れて待っていたければ、それでもいい」
「俺はヒヨウと攻撃を続けるよ!
まろびとの村にはタッカー兄ちゃんや、ミカさんやタフタさんもいるんだ。
休んでられないよ!」
チェコは言った。
「俺もチェコについていくよ!」
とイガ。
「アイダスなんて、もう仲間じゃねぇ!
俺の失敗は、俺が償わなけりゃあ、ならないんだ!」
ロットは、
「俺は正直、別に子供だろうとエルフは凄い、それはそう思うよ。
ただアイダスは、ちょっと飛び抜けている…。
奴と戦う、と思うと怖いんだよ…」
「俺はヒヨウ君と共に戦う!」
と杣人のリーダー。
「アイダスは俺でも怖い。
歳は俺の方が上だが、ちょっと敵わない、と思うしな。
その上、奴は軍に入って、ますます強くなっているだろう。
だが、ここで、じっとしているなんて、もっと怖いからな。
動いていた方がずっとマシだ!」
リーダーがヒヨウについた事で、杣人たちはヒヨウと共に戦う事になった。
ロットは、しかし極端に顔色が悪かった。
「アイダスさんって、そんなに強かったの?」
チェコが近寄って囁くと、ロットは唸り、
「強い。
だが、それだけじゃなくて…。
何て言うか、他の人やイガなんかは知らないと思うが、奴は残酷なんだよ。
俺は何度か、酷い目にあわされているんだ…」
なんとなくチェコには判った。
「俺もリコ村では虐められていた…。
村長の息子と、とりまきの二人に」
チェコが言うと、ロットは力なく笑い、
「アイダスは村長の孫なんだよ…」
それは難しい所に、めんどくさい奴がいたものだ、とチェコも言葉を失った。
「皆、アイダスの本性を知らないの?」
「だって奴は、一人で熊を殺すほどの天才だぜ。
俺は弓しか取り柄の無い小作の子だしさ、誰も俺なんて見てやしないよ」
「ロット。
ここで震えているの?
アイダスを皆でやっつけた方が良いんじゃないの?
奴はどの道、奴の本性を知った、この全員をいずれ殺して、英雄として杣人の村へ帰るつもりなんじゃないの?」
チェコは、アイダスの企みが判った。
「こ…、殺される…?」
「そうだよ。
奴の姿を見た全員を、はなから殺すつもりだったんだ。
今もきっと、そこは変わっていないと思うよ」
ロットは、本気で震えた。
「そうだ。
きっと、そうに違いない…」
青い顔でロットは言った。
「殺らなきゃ、殺られるんだな…!」
「うん。
間違いないよ…」
ロットも戦意を固め、チェコたちはヒヨウに率いられ、入り口とは別の、奥の、井戸の先の道へ進んだ。
どうも、そこは、白さから言っても、広さから言っても、神の道のようだ。
「お…、おい、こんなところに出たら…」
イガが叫ぶが。
「平気だ。
誰もいなければ、大道だろうが問題は何も無い」
ヒヨウは堂々と神の道を歩き、1キロ進んでから森に入っていった。




