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スペルランカー  作者: 六青ゆーせー
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溶解の石

爆発に近いほどに縮めた超高温の物体を、わざと弾け飛ばして、地に触れるまでに冷却する。


それでも地面がジュウと焼けるが、およそ千度まで冷めており、地を溶かす事はない。


土は水分や空気をたっぷり持っているので、自身、物体を冷ましながら、受け止めてくれるのだ。


そうしているうちに、塊の温度は数百度まで低下する。

あとは自然に任せればいい。


「熱いから触らないでね」


とチェコは注意する。


「おお。

手際か良いなチェコ。

君、エルフにならないか?」


タカオがニッカリ笑った。


「駄目よ。

この子はコクライノの学校に入学させるんだから」


とキャサリーン。


おー、とタカオはますます喜び、


「学校を出たら、いつでも君をエルフは受け入れるよ!」


と笑った。


「でも、どうするの、この死体?」


と、今は大きめの投石ほどになった物体を、チェコは見た。

真っ黒に焦げた石にしか見えず、物質の密度から言えば石か金属、としか言えないものになっている。


「冷めたら、しっかりお祓いして、封印の後、何処か村から離れたところに捨てるしか無いな。

たぶん川に沈めるのが一番良いはずだ」


とヒヨウ。


祈祷師が、まず氏神を村に戻してから、死体の周り四隅に枝を立て、赤い糸で囲った。


ぱ、と砂を撒きながら、何か難しい呪文を、長々と祈祷師は語り続け、数十分して、お祓いは終った。


「ちょっと水をかけた方がいいよ」


チェコは言うが、


「いや、水は土地に染みてしまうから駄目なんだ。

ほうの葉に乗せる」


死体の石は、どうやら、もう木の葉も焼かない温度に冷めていたようだ。


ほう葉にくるんだ後、紙で包み、木箱に入れる。


「これは俺が持っていき、しかるべき場所に棄てる」


とヒヨウが、分厚い布で包んで、リュックに入れた。


「飯を炊いたから食べていけ」


フィネル爺さんが声をかけた。


すっかり綺麗になった、入り口正面の屋敷で、チェコたちは白米と漬物、味噌汁を食べた。


と、エルフとプーフが、村に到着した。


「蛭谷は二、三百人の兵が来たが、陰狼で捻り潰した。

次は誰を殺す?」


と、プーフは陰惨に笑った。


タカオは考え込んだ。


「杣人の村に百五十、蛭谷に三百か?

山をナメているのか、まろびとの村を全力で潰すつもりなのか?

ひとまず使い鳥で、まろびとの村の様子を聞いて見よう」


タカオは懐から小さな袋を取り出した。

開けると、中に小鳥が入っている。

鳥は、今、目覚めたように、ピヨ、と鳴いた。


小鳥の足に手紙をつけ、パタ、と空に放つ。


「おそらく数時間で帰ってくるはずだ。

その間に、ちょっと休ませてもらおう」


前に止まった大きな館に入り、チェコは泥のように眠った。

まさか溶解の石を使うとは思っていなかったので、自分で思うより疲れたようだ。


溶解の石には色々なタッチがあり、チェコも全てを知っている訳ではない。

もっと上級になれば気温や、湿度等も操れるはずであり、事実ダリアは何度か、日照りに雨も降らしていた。


だがチェコは、あまり溶解の石を持っていたくはなかった。

これは本当に、一歩間違うと大変な石であり、例えば雨は降らせるが、世界規模で見れば、それは狂い、になる。


農夫が喜ぶ、と言うだけでは終わらないのだ。

その、ささやかな狂いは、巡って巨大な台風になったり、地震が起こったり、神の采配を狂わせてしまうのだ。


そういう所を、ちゃんと知らないと使ってはいけない石であり、だが知るためには、ダリアの書斎にあった本の、少なくとも一棚ぐらいは頭に入れなければ解らない。

チェコには、それがストレスだった。


どろどろと、眠気と疲労が滝壺の水草のようにたゆたう中、液体になったチェコは水底で溶けながら揺れ動いていたが、ふと、起こされた。


「チェコ、敵はまろびとの村に二万の兵を集めているらしい。

今すぐ立つぞ!」


ヒヨウが教えてくれた。

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