逃走
タッカーは、縮れた茶色い髪の下で、顔色を土色にして固まった。
「は…?
クビ…?
一体どうして?」
「おいおいベィビー、ちびっ子じゃないんだから聞き分けのないことを言って大人を困らせるんじゃないぜ。
俺は、役に立たない子供の世話なんてしないのさ。
お前だって、壊れた道具は捨てちまうだろ?
ましてや、旅の途中じゃぁ、仕方がねぇ。
それに仕事は八割がた、終わっているしな」
言うとプルートゥは片手を前に突き出した。
キャサリーンは、囁いた。
「タッカー君、パトス君、あたしの方へ…」
「さぁ…。
箱を渡せ」
キャサリーンは、プルートゥから距離を取りながら、問いかけた。
「一つ聞かせて。
あなた、マッドスタッフと、どうつながっているの?」
プルートゥは、顔の刀傷をよじらせて笑った。
「教えてやろう。
スペル開発会社ってのは、軍人とはコネがある場合が多い。
判るだろ、あんたも素人じゃねぇんだから。
軍人は、少々ヤバくても、作戦に応じて最適なスペルを、常に求める。
少々の金額は問題じゃねぇ。
禁止スペルの、天災、や、使用済み、も元々はそうやって開発されたスペルなのさ。
そして今、ある国では、とっても欲しいスペルがあって、金に糸目はつけねぇ、って言っててね。
軍で動けば、リコ村の小僧なんて目じゃねぇんだが、それじゃあ悪目立ちしちまう。
それで俺が出張って来た、って訳さ」
「…奴は全員殺すつもりよ…」
キャサリーンは、囁く。
プルートゥの言葉が本当ならば、全世界に農業被害をもたらした、天災、も、マッドスタッフが絡んでいる、ということになる。
それは、マッドスタッフが会社運営していくにおいて、絶対に明かしてはならない秘密であるはずだった。
「さぁ、教えたぜ。
箱をよこせ」
隙のない動きで、プルートゥは近づいてくる。
「判ったわ。
渡してもいいけど、それなら命の保証はしてくれるんでしょうね」
ハハッ、とプルートゥは笑った。
「俺は金が欲しいだけだぜ。
別に人殺しが趣味って訳じゃねぇんだ。
安心しな」
プルートゥは用心深く、近づいてくる。
「彼は、何の保証もしていない。判るわね…」
キャサリーンの周りに、タッカ-とパトスは集まった。
キャサリーンは叫んだ!
「テレポ!」
「馬鹿め。
スペル無効だ!」
プルートゥが叫ぶ。
だが…。
タッカーが叫んでいた。
「スペル無効をスペル無効、です!」
スペル無効が打ち消され、テレポが発動した。
キャサリーンの上空に光りの点が生まれ、キャサリーンと、タッカー、パトスは光の中に吸い込まれていった。
プルートゥは、舌打ちするが、ケケッと笑った。
「こういう山で、そんなスペルを使うとどうなっちまうのか、こりゃあ見ものだぜ」
言うとプルートゥは、山々に響き渡るような声で、笑い始めた。




