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スペルランカー  作者: 六青ゆーせー
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巨人

そうか。


今、見た通り、病人、はプルートゥと同じ、不死だった。

それなら鉄と、そう変わらない感覚で操ることは出来そうだ。


静寂の石の、六角の角を、少し動かすように、ス、と撫でる。


この、撫でる動きが一番難しく、覚えるまでは、火災を起こしたり、水浸しになったりする。


指を微かに石の表面に這わせて、微妙に動かす。


ねじれを感じ、戻そうとしたが…。


「これ、六つの力、全てをメチャクチャに弄ってあるよ!

一ヶ所を治すと、別のところが逆に大きく歪んじゃうんだ!」


「簡単に、元に戻らないように細工したのね。

チェコ君、個別チューニングするのよ」


キャサリーンに言われ、やったことの無い仕事を、チェコは始めた。

普通なら、さすがにチェコでも二の足を踏むが、マッドスタッフの暴虐は酷すぎて、チェコも巨人に同情していた。


このまま、見過ごすわけにはいかない!

不死なのだ、少々焼けようが溶けようが、そんなに問題はないはずだ。


まず、水の面で固定する。


個別チューニングには順番がある。


水→火→闇→緑→紫→白、の順に操作しなければいけない。


逆になると、聖なる白は紫を消滅させ、紫は緑を枯らし、緑は闇を潰し、闇は火を遮り、火は水を蒸発させてしまう。

生身の人間がそんなことになったら生きてはいられない。。


水にセットした静寂の石を、よりゆっくりと人指し指の皮膚で撫で、一度ずつ、狂いを正す。


苦しいらしく、病人は、陰狼に押さえられたまま、大声で叫んだ。


チェコは一度ずつ水をずらし、たぶん狂いが治った、と自分が感じたところで止めた。


狂いは、プラス一度でも、マイナス一度でも狂いに違いなく、重篤な健康被害をもたらす。

だが、こうもメチャクチャになっていたら、大雑把に見極める以外、やりようは無かった。


ついで火、闇、緑、紫、白、と治していく…。


と、病人の叫びが弱々しくなり、やがて、疲れたように、どしん、と膝をつき、肩を震わせて荒く息をした。


巨人は何か、言葉のようなものを呟く。


「…苦しみ、去った、言ってる…」


パトスが通訳した。


が、荒い息のまま、だいぶ人間に近くなった姿で、病人は頭を掻きむしった。


泣き、悶えているのだ。


「…奴ら、天使を殺し、俺に肉を食べさせた…、許せない…奴らも許せないし、自分も許せない…」


パトスが、病人の鳴き声を通訳した。


「ねー、巨人って、これで正解なのかな?」


チェコは、巨人など存在も知らなかったので、まだ狂いがあって嘆いているのか、判断できなかった。


だが病人は、今は腐っていない、とはいえ、全身傷だらけでズタズタの姿だった。


「チェコ、静寂の石を止めてみろ」


ヒヨウが言うので、石を止める。


と、病人はすぐに、呻きだし、体が溶け始める。


「うわっ、まだ狂ってたかな?」


「たぶん、この病人は、既にゾンビ化しつつあるんだ。

石を使っている間だけは元に戻るが、ゾンビ化は自然現象だ。

この進行は誰にも止められない。

彼は、そう遠くない未来に、意思を持たない怪物になってしまう」


ヒヨウの話に、チェコは驚く。


「えー、そういうのって、ずっと先の話だったんじゃないの?」


「たぶんマッドスタッフは、彼を外道にしてから、マテリアルを取り出し、スペル解析にかけたのよ」


「え、でも何でそんな事を?」


「細かいことは推測になるけど、ただの巨人になんて、用は無かったんでしょう。

外道で、しかも静寂の石で体をグチャグチャにした怪物のマテリアルを取って、それを元にパーフェクトソルジャーを作った訳よ」


「酷すぎる!」


チェコは叫んだ。


「そのダメージのために、不死なのに、もう寿命を迎えてゾンビ化してしまったんだね!」


「たぶん、大きくは間違ってないと思うわよ」


ウオォォ、とゾンビになりかけた巨人は泣いた。


「…俺は、そんなものになるくらいなら、死にたい…」


とパトス。


確かに、ゾンビになると判ったなら、チェコもそう思うかもしれない…。


「あのね、巨人さん」


チェコは、巨人に語りかけた。


「この世で外道を殺せるのは、黒龍山のゴロタだけだよ」


とチェコは教えた。


巨人の泣き声が、止まる。


ヒヨウが、黒龍山への道を教えた。

巨人なら、ネルロプァを通らずとも、谷を越えて黒龍山へ行けると言う。


旅立とうとする巨人に、チェコが語った。


「ねぇ、もし良かったら、トレースさせてくれない…」

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